歴史認識、米高官要請の背景――中韓ロビー花盛りの米政界

4月23日、マイク・ホンダを中心とした超党派議員25人が安倍首相訪米に際し歴史認識に関する書簡を出し、翌24日にはローズ大統領副補佐官までが同様の主旨の要請を安倍首相に対して表明した。その背景には何があるのか?

◆政界に食い込む中韓ロビー

今ではチャイナ・ロビーの牙城となっている「世界抗日戦争史実維護聯合会」(抗日戦争の史実を守り伝えていく世界聯合会。略称:史維会。拠点:カリフォルニア)は、もともと1989年6月4日の天安門事件を糾弾する反中反共の民主活動家がコアメンバーとなっていた。誕生当時は、創始者たちは中国大陸の土を踏むことさえ許されず、訪中ビザが下りなかったほどだ。

それが一気に「反日」のみで意思統一された裏には、台湾問題がある。

2000年に国民党政権が破れて台湾独立を唱える民進党が政権を握ると、慌てた中国は「世界華僑華人中国平和統一促進会」(略称:和統会)を設立。海外の華僑華人が積極的に創設したとしているが、実際は中国政府(国務院台湾弁公室)が音頭を取ったものと思われる。

史維会のメンバーのほとんどは、アメリカに来て初めて日中戦争時の史実を知った台湾人が多く、いかに台湾では反日教育をしていなかったかをうかがわせるのだが、それはともかく、まるでいま目の前で日中戦争が行われているようなショックを受けている者が多い。だから反日感情が尋常ではない。

自分たちの子供がこのまま日中戦争における史実を知らないまま大人になったのでは大変だと、独自の教科書を作成したりしている。

その在米台湾人たちは、和統会の誕生によって「祖国」への復帰を唱えるようになり、台湾と大陸の両岸統一に関しても燃え上がるようになった。

こうして反共反中が親中になり、当然、中国政府からも歓迎されるように至ったわけである。

江沢民政権時代の終わりに駐米中国大使だった李肇星(り・ちょうせい)などは、この史維会を「反日チャイナ・ロビー」に育て上げた「功労者」のひとりだ。

在米中国人の数は数百万人を越え、そのほとんどはカリフォルニアかニューヨークにいる。

アジア系アメリカ人というくくりで言うならば、2010年統計で1800万人もおり、中国系の次に多いのが韓国系である。

世界各地にチャイナ・タウンやコリアン・タウンがあることからご想像いただけると思うが、中国系や韓国系は、ひと塊になって居住する傾向を持つ。やがて市民権を得たアジア系住民は、特定の選挙区において票田となり得るので、非常に大きな政治的力を発揮するようになった。

それをうまく利用したのが、日系三世で知られる民主党下院議員のマイク・ホンダだ。

票田や政治資金源となっている中国系および韓国系アメリカ人に迎合するため、2007年1月、米下院議員との共同署名で下院に慰安婦問題に対する日本政府の謝罪要求決議案を提出。2007年6月26日、米下院外交委員会は決議案を可決し、同年7月30日に下院本会議で決議案が採決された。

韓国系アメリカ人が結束し始めたのは、むしろこの頃からで、慰安婦問題をコアにして中韓系アメリカ人の票田を固めることに力を注ぐ議員が多くなり始めた。

史維会は主として南京事件をテーマにしていたのだが、2007年以降は慰安婦問題にも焦点を当てるようになり、中韓ロビーが強くなる結果を招いている。

筆者が2000年初頭に日中韓の若者の意識調査を実行した時には、中国側教育機関担当者は、韓国側から提案された「慰安婦問題」に関して、「慰安婦なんて、中国の若者は知らないし、説明するのも何だから、この項目は削除してほしい」と言っていたほどなのだが、今では中国もこの問題に焦点の一つを当てるようになった。

◆2013年に変化が

実は2013年にカリフォルニアの選挙区で、ロー・カンナというインド系アメリカ人(37歳)が立候補し、マイク・ホンダの対抗馬となった。ロー・カンナはスタンフォード大学で教鞭を執ったこともある弁護士で、シリコンバレーに食い込んでいた。その彼が立候補に当たって、選挙運動の焦点に絞ったのは尖閣問題。このころは尖閣の領有権問題が大きな関心になっていたからだ。そこに絞って中国系アメリカ人の票を得ようとした。

ところが2014年11月の地方選挙で、ロー・カンナはマイク・ホンダに僅差で敗北。

「慰安婦問題が尖閣領有権問題を上回った」ということになろうか。

それ以降、マイク・ホンダは、いっそう政治家としての公約を慰安婦問題に絞って、中韓両系列の有権者の票を集めるようになった。

今年4月23日に、マイク・ホンダは、エド・ロイス外交委員長(共和党)らを含む超党派議員25人の署名を集めて安倍首相が訪米中に歴史問題に言及することを要求する書簡を佐々江賢一郎駐米大使に送付した。慰安婦問題に関する河野洋平官房長官談話、過去の「植民地支配」や「侵略」 を謝罪した村山富市首相談話を尊重するよう、安倍首相に促している。

闘争の焦点をここに当てておけば、中韓両系列の有権者の心をつかむことができるという計算だ。

◆大統領副補佐官までが

翌4月24日、ベン・ローズ大統領副補佐官(戦略広報担当)が電話で記者会見をした。この中でローズ氏は、歴史認識問題について「われわれは安倍首相に過去の談話と合致する形で建設的に対処し、緊張を和らげるよう働きかけている」と述べ、安倍首相は村山談話や河野談話など、過去の内閣の立場を引き継ぐべきだとの立場を明確にした。

一方、メデイロス国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長も「歴史問題は最終解決に達するようなやり方で対処することが重要だ」と強調している。 

中国国営の中央テレビ局CCTVは、まるで呼応しているかのように、「アメリカ各界は安倍に歴史を正視するよう促している」というタイトルで特集番組を組み、中国共産党系列および中国政府系列の新聞やウェブサイトも、一斉に同じテーマで報道した。

アメリカ政府としては、未だ首脳会談が進んでいない日韓関係への懸念を表したものと思われる。

安倍首相は4月29日にアメリカ議会で演説するとされている。

この演説の内容が、「歴史認識」に関して中韓を刺激することがないように、大統領府は心配しているのだろう。アメリカのアジア回帰(リバランス)を、より困難にされるのは困るという、アメリカ側の計算がある。

◆安倍首相訪米に合わせて反日デモを計画

4月17日、史維会の賀英明会長は、安倍首相訪米に合わせ、全米各地で反日デモを行う計画をしていることを明らかにした。

また、安倍首相の米議会演説当日には、全米各地にある日本在外公館前で抗議活動も行うと宣言している。

理事の李競芬女史(台湾系)は、筆者がサンフランシスコでインタビューした2000年初頭では和統会に燃えていたが、最近では対日抗議活動に燃えている。彼女は全米の華僑華人に安倍首相訪米に合わせた抗議活動への参加を呼びかけており、「軍国主義の復活をもたらす安倍の訪米を歓迎しない」と、サンフランシスコからのCCメールに明記している。

◆チャイナ・ロビーの土壌を強化させる在米留学生

2014年の在米留学生の総数は88万6千人(正確には886,052人)に達しているが、その31%は、中国人によって占められている。それも多くが博士課程に在籍しており、日本人留学生の多くが語学研修に留まっているのと大きな違いだ(中国人留学生の次に多いのが韓国人留学生)。

中国人留学生は博士学位を取得すると、アメリカで創業したり大企業に就職したりして、やがて市民権を得る者が多い。

最近では「投資移民」の数が急増し、渡米した中国人富豪が豪邸を購入したり起業したりして、アメリカ国籍を得ているケースが増えている。住宅購入だけでも、年間で220億ドルもの金をアメリカ市場に落としているのだから、アメリカにとって中国人は良い「お得意さん」だ。

中韓ロビーがアメリカの政界に食い込んでいるだけでなく、市場にも大きな影響を与えている現状がある。それはある意味、チャイナ・マネーが形を変えながら、アメリカでも人心を買っていることを物語ってはいないだろうか?

日米同盟を強化し、日米ガイドラインを見直す一方で、否定しがたい現実が横たわっている。