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中国への主導権移行防げず――G20でアメリカの弱体化顕著

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

ワシントンで開かれていたG20財務相・中央銀行総裁会議は、世界の主導権が米国から中国に移りつつあることを否応(いやおう)なく示した。中国主導のAIIB参加国が多勢を占める中、IMFの改革を進めない米国への批判が高まった。

◆AIIB秘書長の記者発表と朱光耀財政次官の講演

4月15日、アジアインフラ投資銀行AIIBの総裁と目されている金立群・現AIIB秘書長は、この日を以てAIIB参加国が57ヶ国になったことを宣言した。同氏によれば、アジア域内参加国の出資比率を75%とし、西側先進国などの域外参加国の出資比率を25%に抑えるとのこと。また各域内外の参加国の出資額は、当該国のGDP比率によって決めるとした。

となれば、おのずと最大出資国は中国となる。

その上で「発言権は出資額に比例する」としたのである。

中国は、初期投資は1000億ドルではあるものの、いずれアジアインフラ建設の10年間のニーズに当たる8兆ドルのうちの30%~40%に相当する、約4兆ドルは中国が出すことになるだろうとしている。

6月までには理事会や取締役会などの定款を作成し、あくまでも新興国の発言権を保障しながら各国の利益を図るもようだ。今後参加する国は「創設国」ではなく、「一般国」扱いとなる。本部を北京に置くことも、すでに参加国の間で承認された。

ここまでの準備をした上で、中国は財務相・中央銀行総裁関連の人物を、G20に参加するためワシントンに送った。

日米を除き、G20参加国のほとんどはAIIB参加国である。

それだけですでに圧巻だが、アメリカの影の薄さが際立っている。というのも、中国がAIIBを設立せざるを得ない背景の一つに、アメリカ主導のIMF(国際通貨基金)や世界銀行の硬直性があるからだ。

4月17日、中国の朱光耀・財政部副部長(日本の財務次官に相当)は、ワシントンにあるアメリカのシンクタンク大西洋理事会の招聘を受けて講演を行った。

演題は「中国から見たアジア太平洋の繁栄」で、話のテーマは「アジアインフラ投資銀行(AIIB)と世界銀行は補てん関係にある」と「米議会が一刻も早くIMFの出資比率に関する改革案を通すことを促す」だ。以下、中国大陸のメディアから、朱光耀財務次官の講演概要を記す。

――70年の歳月が過ぎた。しかしブレトン・ウッズ体制(1944年7月に第二次世界大戦以降の国際金融を考えて決められた国際通貨体制。金ドル本位制)は今もなお、IMFと世界銀行という二大国際金融機関を通して作用を発揮している。1980年代に中国はIMFと

世界銀行に加入したが、中国はいまやこの二大金融機構の非常に重要なメンバー国となっている。中国はIMFや世界銀行の能力を高めようと惜しみない努力をしてきた。同時に(中国を含めた)発展途上国の出資比率を増加させ発言権を強める方向での機構改革を求めてきた。

その結果アメリカは2010年に改善することを約束しながら、5年経った今もなお実行していない。

だから中国はAIIB創設を提案せざるを得ないのであり、アジア諸国の「要想富、先修路(富みたいと思えば、まずはインフラを整えよ)」という思いを一つにしようとしているのである。

われわれは決して既存の金融機構を壊そうというものではない。あくまでも補てんするだけである。AIIB創設に当たっては、提案する前からアメリカに話をして協力を求めた。アメリカ議会がIMFの出資比率に関して改善を決議することを期待する。

◆IMFのラガルト専務理事もアメリカに不満

現在IMFの専務理事であるフランスのクリスティーヌ・ラガルド女士は、2014年6月6日、「なんなら、IMFの本部を、たとえば北京に移すことだってあり得る」と言ったことがある。ブルームバーグの“Beijing-Based IMF? Lagarde Ponders China Gaining on U.S. Economy”が伝えている。

IMFは歴代専務理事を主としてヨーロッパ諸国から出しており、本来ヨーロッパ主導で管理運営されてきたが、出資比率に関してアメリカがダントツに多く(17%)、単独で拒否権を発動できる権限を持っている。そのことにヨーロッパも面白くないと思っているのだ。中国はここをしっかりつかんでいて、フランスやドイツと蜜月を続けてきた。

今般のG20が開幕する前の4月16日、アジア、アフリカおよび中南米の24の開発途上国の金融・財務関係者から成るG24がワシントンで会合を開き、AIIBを支持する共同声明を発表している。それは明らかにアメリカ主導型の既存の国際金融機構への不満の表れだ。

◆焦る米国にIMF委員会が追い打ち声明

これらの動きを受けて、オバマ大統領は日本にTPP(環太平洋経済連携協定)締結を急がせている。「われわれがルールを作れない場合、中国が自国に有利なルールを作るだろう」と、4月17日、危機感をあらわにしている。  

前回の本コラムで中国金融大動脈――AIIBと一帯一路という、中国の世界戦略を述べた。「紅い皇帝」習近平のしたたかな世界戦略が現実味を帯び、アジア回帰しようとするアメリカを追いこんでいる。この趨勢をとめられるのか? 

まるで最後の追い打ちをかけるように、4月18日、ワシントンで開催されたIMF委員会は「アメリカの改革の遅れに失望している」という声明を出した。あの知的で美しいラガルド専務理事の銀髪と毅然とした目つきが、キラリと光った。

時代が変わりつつあることだけは否めない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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