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中国金融大動脈――AIIBと一帯一路

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

4月14日、中国中央テレビ局CCTVは、「中国金融大動脈」と題して、アジアインフラ投資銀行AIIBと中国の国家戦略「一帯一路」(陸と海の新シルクロード経済構想)が、いかに緊密に結びついているかを特集した。その真意を追う。

◆AIIBは「一帯一路」構想完遂のためにあるのか?

14日のCCTVは「一帯一路建設は資金の融通性と切り離すことができない」として、「中国金融大動脈」というタイトルで、「一帯一路」という中国の国家戦略は、AIIBという国際金融融資組織があってこそ真の大動脈となり得ることを強調した。

一帯一路というのは、前にも本コラムで解説したが、「陸と海の新シルクロード構想」という、中国の国家戦略を指している。

「一帯」は中国をスタート地点として、早くから経済協力していた新疆ウィグル自治区の西側を囲んでいる中央アジア五ヵ国との新シルクロード経済圏を、さらに西へ西へと延ばして、終点をEUとする「新シルクロード経済ベルト(帯)」を指す。

「一路」は中国の東海岸にある福建省や広西チワン族自治区をスタート地点として、東シナ海、南シナ海、インド洋を通って、中東やアフリカをかすめながら、やはり終点をEUに置く、新シルクロード海路のことである。

この一帯一路沿線上の国々のインフラ建設に関して、中国の生産能力過剰となっているインフラ関係の企業を進出させ、それとともに中国の金融サービス機関も同時に海外進出させて、これをAIIB構想と連携していくというのが、中国の大戦略である。

たとえば、中国のセメント工場が海外進出をする場合、中国銀行も共に海外進出して、これからの3年間で1000億ドルの融資をして一帯一路沿線上の国々の産業を支えていく。

建設銀行も2000億元(現在、1元は19.26円)の「一帯一路資金」を投入して、「融資、信用貸付、資金導入」を実施していくという。

また国家開発銀行は重点プロジェクトに対して資金をプールし、一帯一路沿線上の64ヶ国の約900項目の大プロジェクトに対して8000億ドルを投入する。工商銀行も協調して、一帯一路沿線国の131項目のプロジェクトに対して1588億ドルを投資する。

大きなプロジェクトだけでなく、一帯一路沿線国の庶民の日常生活においても中国銀聯カード(チャイナ・ユニオン・ペイ)(中国を中心に拡大しているオンライン決済システムを運営する企業のクレジットカード)を使うことができ、アラブ首長国連邦ではすべての商店で使うことができ、パキスタンでもATMの70%、POSの90%をカバーしている。

ただし、アジアインフラ整備のニーズにおいては、個別の銀行の対応ではこなしきれず、どうしてもAIIBのような国家間の国際金融サービスが不可欠となる。

中国はシルクロード基金だけでも、すでに400億米ドルを投資しており、これからはAIIBが一帯一路のインフラ建設を支えていくことになるだろう。

番組は、基本的にこのような位置づけをした上で、個別の国の例を挙げている。

◆たとえば、インドネシアの場合

インドネシアのカリマンタン州では、中国の最初のセメント工場が進出した。それにより毎日6000トンのセメント生産が可能となり、地元最大のセメント工場となっている。

企業責任者は、「これまでは、ここまで大きな資金需要が海外にあるとは思いもよらず、また地元の銀行は中国企業の生産能力がわからず、文化や言語の上でも交流が不便で融資を渋ってきた。だからインフラ関係の中国企業の海外進出を困難にしていた。しかし今はこうして中国国内の銀行が、われわれ企業と共に海外に進出してくれるので、どんなに助かるかしれない」と、金融サービス機関の海外同時進出を歓迎している。

インドネシア側では大量のセメントを用いて橋や高層道路などのインフラ建設を急ぐ必要があり、セメント生産量を2500万トンまで高めていくことができると、目を輝かしていた。

それに伴い、中国銀行は一帯一路沿線上で16の支店を建設し、必要資金の90%をカバーするとのこと。

◆ビッグデータが示すAIIBのニーズ

一方、ビッグデータは、アジアインフラ建設の内、最も必要なのは「高速鉄道と高速道路と地下鉄」だということを示している。そして一帯一路沿線国家が最も望んでいるのは「人民元による国境をまたいだ決済」であり、「人民元の貸し出し」と「人民元の域外投資」であることも、ビッグデータは示しているとのこと。

一帯一路沿線上の主要国のうち、人民元決済を望んでいる国の割合は60%で、中でもイギリスでは86%の企業が人民元取引を望んでいるという。

さまざまな形における多くの金融機関の協力は、一帯一路の資金融通の橋梁となり、将来的にはAIIBの始動が、中国金融の大動脈となっていくであろうと、番組は結んでいる。

以上からまず見えることは、アジアにはたしかに高いインフラニーズがあり、同時に資金の融通が伴っていないと困るということだ。しかしそれ以上に、アジア諸国のインフラ建設のために動き始めるAIIBは、決して「中国以外のアジア諸国のためのもの」ではなく、それもあろうが、結果的にはあくまでも「中国のための一帯一路」という構想をサポートするものであることが鮮明になってくる。

紅い皇帝は弾薬一つを使うことなく、中国古来の権謀術数によりAIIB参加国を集めるプロセスでひとり勝ちしているが、逆にAIIBは、中国のための一帯一路構想達成においても、紅い皇帝のひとり勝ちを許すことになるという構図が見えてくる。「したたか」を通り越して、よくぞここまでスケールの大きな計算を「中国」のために練ったものだと感心する。

と同時に、よくぞここまで正直に「下心」を番組化したものだと、半ば感心し、半ば呆気(あっけ)に取られながら、「中国金融大動脈」を観た。

AIIBに参加するか否かに関して、日本はまだ迷っているようだが、この側面も、よく見極めておく必要があるだろう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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