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つぎは軍腐敗にも重点――元中央軍事委員会副主席・郭伯雄が危ない

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

胡錦濤時代の元中央軍事委員会副主席・郭伯雄(江沢民派)が次の大虎として浮上している。3月2日、中国軍網が載せた14匹の大虎の中に息子の郭正鋼の名があったことを、人民網が転載している。そのシグナルは?

◆郭正鋼を昇格させてから摘発したわけは?

郭正鋼は1970年1月生まれで、今年1月14日に開催された浙江省軍区中国共産党委員会全体会議には、浙江省軍区政治部主任として姿を現していた。そのときの軍級は少将。史上最年少での昇格だった。

ところが、3月2日、中国人民解放軍の唯一のウェブサイトである中国軍網(網はウェブサイト)は、捕えられた「14匹の虎」の名前のリストを公表した。

その中になんと、胡錦濤時代の元中央軍事委員会副主席・郭伯雄の息子である郭正鋼の名前があったのである。

3月2日といえば、3月4日付の本コラム「次の大虎は江沢民の大番頭、曽慶紅!――全国政協の記者会見で暗示」で書いたように、全国政治協商会議のスポークスマン・呂新華が「鉄帽子王」という単語を用いて、「次の大虎は曽慶紅だ」ということを暗示したことで騒然となった日である。

その日の夕方に、今度は中国軍網で郭伯雄の息子の名前が「落馬軍人リスト」に載っていたので、中国語のネット空間は熱く燃え上がった。

息子である郭正鋼が落馬したということは、その親である郭伯雄に嫌疑がかかっていることを示唆する。

筆者はさまざまなケースで、「中国では誰か大物を落そうとするときには、必ず周りの小物から落としていき、外堀を埋めてから最後に大物を捕えるというのが常套手段だ」と書いて来た。それは1948年の長春における食糧封鎖という包囲網の中で、実体験として学習してきた毛沢東の手法だからである。

その経験からすれば、今度も例外ではないと判断される。

郭伯雄の弟・郭伯権(陝西省民政庁長)も2月16日までは公けの席に姿を見せていたが、2月28日の会議では、民政庁の庁長が議長席にいるべきところ、郭伯権の姿はなく、代わりに副庁長が議長席に座っていた。

郭正鋼をわざわざ昇進させておいてから摘発するのは、一定レベルの軍級になると、中央軍事委員会の紀律検査委員会が動くことになるからである。管轄権が上のレベルになるので、直接、習近平や王岐山の指示を受けることになる。

その意味でも、狙うは元中央軍事委員会副主席で徐才厚の盟友、郭伯雄だろうという可能性が大きくなってくる。

◆劉少奇の息子・劉源が「あなた、分かりますよね?」

全人代が始まった3月5日、劉少奇・元国家主席の息子・劉源(中国人民解放軍総后勤部政治委員)は、郭正鋼が取り調べを受けていることに関して記者から質問を受けた。

「もしかしたら、もっと大きな大虎、たとえば郭正鋼の父親、郭伯雄に捜査の手が及ぶのでは?」という質問に対して、劉源は呂新華の真似をして「あなた、分かりますよね?」と答え、笑ってかわしてしまった。

周永康に関する、この「あなた、分かりますよね?」は、かつてその数カ月後に現実となった経緯があるので、なおさら信憑性を帯びて噂になっている。

◆習近平・中央軍事委員会主席の軍関係腐敗に対する姿勢

習近平が中共中央軍事委員会主席および国家軍事委員会主席に就任したあと、2013年6月にはまず、「全軍基本建設プロジェクトと不動産資源調査工作領導小組(指導グループ)」を立ち上げ、軍内部における不動産関係に関する腐敗を徹底して調査するよう指示した。

2013年7月には中央軍事委員会会議で「軍事委員会の委員は、高い位にあるのだから、多くの人民解放軍兵士も、また人民もみな、われわれの一挙一動を見ている。われわれは如何なることがあっても腐敗に走ってはならない。自分自身が腐敗していたら、どうして他の人の腐敗を指摘したりすることができるだろう」といった趣旨の演説をしている。

同年10月30日には「中央軍事委員会巡視工作領導小組」を設立して、全国を軍の紀律検査委員会が巡回して調査することを決定した。

その間に多くの大虎やハエが捕まったのだが、2015年2月10日には「全軍財務工作大調査方案」を発布し、2月26日には「新しい形勢の下で法により軍を治めることを推進する決定」を出している。

習近平政権は、国有企業とともに、つぎは軍の腐敗にも重点を移すものと見ていいだろう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『中国がシリコンバレーとつながるとき』など多数。

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