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次の大虎は江沢民の大番頭、曽慶紅!――全国政協の記者会見で暗示

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

3月2日、全国政治協商会議のスポークスマンは、「鉄帽子王」という言葉で次の大虎を暗示した。それは江沢民の大番頭で、習近平を推薦してきた曽慶紅を指す。紅二代(太子党)は見逃すのかという人民の声に応えたものだ。

◆なぜ「鉄帽子王」が曽慶紅(そう・けいこう)を指すのか?

3月2日、両会の一つである全国政治協商会議(全国政協)のスポークスマン・呂新華が記者会見を開いた。3月3日から全国政協が幕開けするからだ。

その会見場で記者席から「最近、もっと大きな大虎を捕まえるという噂がありますが、それは本当ですか?」という質問が出た。

すると呂新華は「很任性」と「鉄帽子王」という言葉を用いて、質問に応じた。英語圏の記者も多いので、全国政協や全人代(全国人民代表大会)では必ず中国語と英語に通訳する(両会とは、この全人代と全国政協を指す)。

通訳者はこの二つの中国語を、どのような英語に通訳していいか分からず、思わず「その含意は何ですか?」と呂新華に聞き返し、一時会場がざわついた。中国人記者は何のことか分かっているので、嘲笑が沸いた。

「很任性」とは「とても好き勝手に、やりたいように」という感じの意味で、ここでは「どうぞ、民衆の思うままに」という含意がある。つまり、「人民が誰かを大虎として退治すべきだと思えば、その誰かを好きに退治できる」という意味である。

では「鉄帽子王」とは何を指しているのか?

それは清王朝時代に生まれた制度で、特定の地位(爵位など) や財産を、子孫が代々承継することを指す。鉄の帽子のように壊れにくい冠をいだいている親王という意味だ。今風に言えば、「世襲制」ということから、紅二代(太子党)のことを示唆する。 

実は今年2月25日の中央紀律検査委員会(中国共産党の党員が党規約に違反した行動をした時に検査し処罰する委員会)のウェブサイトに、「清王朝の慶親王(けいしんのう)の風紀問題」というタイトルの記事が載った。

慶親王(1876年~1947年)は清王朝の皇族で、清王朝最後の鉄帽子王である。中央紀律検査委員会のウェブサイトには「無能で腐敗にまみれながら、『なぜか』出世だけはした」人物として描かれている。

これが誰を指すかは、中国人ならすぐにわかる。なぜなら、「慶」という文字があり、現在存命している「無能で腐敗ばかりしているが、なぜか出世だけはしている人物」を探せばいいからだ。それは「曽慶紅」以外にない。

そう思って噂していたところ、3月2日に呂新華が「鉄帽子王」と言ったわけだ。

それはすなわち、「紅二代」(紅い革命世代の二代目)(太子党)を指していることになる。

曽慶紅の父親は毛沢東とともに革命戦争を戦った経験がある共産党幹部だった曽山(1904年~1972年)。つまり曽慶紅はれっきとした紅二代だ。

紅二代で腐敗ばかりしていて出世し、かつ「慶」という文字が付く人物といえば、もう疑う余地もなく曽慶紅なのである。

しかし曽慶紅は江沢民の大番頭だっただけでなく、習近平を江沢民に紹介し、2007年の第17回党大会には、なんとしても李克強を抑えて習近平を国家副主席に持っていくべく江沢民を説得し、江沢民とともに必死で努力し成功した人物だ。

習近平が清華大学を卒業し、初めての就職先である中央軍事委員会弁公庁で働き始めると、曽慶紅と習近平は仲良しとなる(『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』p.63)。それ以来、曽慶紅は習近平を応援してきた。

曽慶紅の努力がなかったら、習近平のこんにちの地位はない。

その曽慶紅を習近平は、「大虎」として捕まえたりなどできるのか?

習近平は何度も「零容認」(ゼロ歩たりとも、譲歩しない)という言葉を用いて、「虎狩りに聖域はない」ことを強調してきた。

聖域とされたチャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員会委員9人)であった周永康はすでに監獄にいる。中央軍事員会副主席だった徐才厚も牢屋の中だ。二人とも江沢民派である。

共青団(中国共産主義青年団)の令計画も捕えられた。

残るは紅二代。

紅二大だけは、習近平自身が紅二代であるだけに、手をつけないのだろうと、人民はネットを通して習近平の「本気度」に疑問を投げかけてきた。

そこで「人民の思うままに、鉄帽子王(紅二代)も捕えて見せましょう」というシグナルを発したわけである。

◆周永康のときも「あなた、わかりますよね」と暗示した呂新華

実は呂新華は2014年3月2日の全国政協開幕前の記者会見で、周永康が摘発されるか否かに関して聞かれたときにも、「あなた、わかりますよね?」という名言を吐いて周永康摘発を暗示した。そして、それは数カ月後(同年7月29日)に実現した。

したがって今回もまた、あの曽慶紅が捕まる日が来るのかもしれない。

これでいかに、反腐敗運動が権力闘争ではなく、腐敗に斬りこまなかったら、中国共産党の一党支配は終焉するという、ギリギリのところに習近平が追い込まれているかが、より明確になっていくことだろう。権力闘争などしているゆとりは、もうないのである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『ウクライナ戦争における中国の対ロシア戦略』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。2024年6月初旬に『嗤う習近平の白い牙』を出版予定。

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