小池百合子氏の環境政策を契機に考えたい 原発ゼロで排出ゼロは目指せるか?

(写真:つのだよしお/アフロ)

(10月11日:特定政党を応援している印象を与えるおそれがあるため、トップ写真を変更しました。本稿は特定政党の支持、不支持を意図していません。)

パリ協定と東京都の気候政策

 10月1日から都内で行われていた朝日新聞主催のフォーラムイベント「朝日地球会議」において、小池百合子都知事による東京都の環境政策のプレゼンテーションを聞いた。いうまでもなく小池さんは以前に環境大臣(2003~2006年の小泉内閣)を務めており、環境政策に明るい。

 小池さんのプレゼンテーションは、国連気候変動枠組条約の「パリ協定」の長期目標を確認するところから始まった。すなわち、国際社会が合意した「世界平均気温の上昇を、産業化以前と比較して、2℃より十分低く抑え、さらに1.5℃未満に抑える努力を追求する」という目標である。パリ協定では、この目標の達成のため「今世紀後半に、人間活動による世界の温室効果ガス排出量を正味ゼロにする」ことが必要であるという認識が示されている。

 これと呼応して、東京都がCO2を出さない「ゼロエミッション(排出ゼロ)」を目指していることが述べられた。関連する取り組みとして、排出量取引制度、LED照明の普及促進、CO2フリー水素の導入促進などの紹介があった。また、電気自動車の普及を促進するために集合住宅での充電設備の設置を補助するという新しい施策にも触れた。

 2030年には再生可能エネルギー(再エネ)比率30%を目指している。さらに、東京都は気候対策先進都市の国際グループである「C40」に中心的に参加している(その会議が衆院選と重なってパリで行われるため、小池さんの出張日程が注目されているのはご存知のとおり)。

 

原発ゼロとゼロ排出の両立

 さて、ここまでは都政の話である。では、小池都知事が代表を務める「希望の党」の環境・エネルギー政策、特に気候変動(地球温暖化)と関係する部分はどうなっているか。

 希望の党は2030年までに原発ゼロを目指すこと、再エネ比率30%、省エネの徹底を公約に掲げている。また、政策集に明確な記述は無いが、党の立ち上げ記者会見(9月25日)では、都政と同様に「ゼロエミッション社会」を目指すことが政策に含まれていた。

 原発は運転時にCO2を排出しない電源であり、ゼロエミッションに貢献する。しかし、原発を禁じ手にしてゼロエミッションを目指すとなると、究極的には「再エネ100%」をほぼ意味することになる(詳しくいえば、CO2を地中に埋めるCCSを使って化石燃料等を燃やすことも含まれてよいが)。

 一方で、再エネの主力である太陽光と風力は変動する電源であり、かつコストも(特に日本では)まだ高いとみられている。発電の変動を吸収するためには蓄電設備や送電線の強化も必要だ。さらにはガソリン、ガス、灯油などの燃料利用を再エネで作った電気や水素に置き換える必要もある(これは原発を許容してゼロエミッションを目指す場合も同じだが)。これらを含めて考えると、再エネ100%にはよほどの投資と産業構造やインフラの転換をする覚悟が必要だ(作家の冷泉彰彦氏がすでに同様の指摘をしている)。

 

再エネ100%をめぐる論争

 原発ゼロとゼロエミッションのそれぞれがよい政策かどうかは人によって見方が違うであろうし、また、希望の党がこれらの政策にどれくらい本格的に取り組むことができるのか、筆者にはわからない。この部分は読者各人の判断にお任せすることにして、希望の党の話は一旦置いておく(なお、本稿は希望の党の支持も不支持も意図していない)。

 ここで考えたいのは、そもそも再エネ100%が可能なのか、またはどれくらい現実味があるのかである。これについて、実は最近ネット上でたいへん興味深い論争が繰り広げられた。環境NGOのWWFジャパンが、2050年に再エネ100%社会を実現する可能性を示したシナリオを今年2月に発表した(株式会社システム技術研究所への委託研究)。これに対して、NPO法人国際環境経済研究所の塩津源(「CO2減」にかけたペンネームと思われる)氏が問題点や疑問点を指摘する論考を発表し、両者の間で2ラウンドのやりとりがあったのである。

 興味のある方にはぜひ内容をご覧いただきたいが、個々の論点は費用等の分析方法についてのいささか専門的な議論だ。WWFジャパンは「考え方の相違による部分が大きい」としながらも丁寧に回答し、論点によってはある程度の歩み寄りがみられたものの、塩津氏は分析方法に重大な問題があるという姿勢を崩さずに議論は終わっている。筆者は論点のすべてを十分に理解できていないが、印象としては、「そもそもそのようなシナリオを目指すべきと考えるかどうか」のところで出発点の相違が大きいようにみえる。「目指す気になって見るならば」シナリオは大筋で妥当なのではないか。

今回の衆院選と日本の気候変動政策

 今回の選挙に話を戻そう。党首討論などでは原発以外はほとんど触れられないが、各党の公約を眺めると、実はどの党にも環境・エネルギー政策として気候変動問題を意識した記述があり、パリ協定の順守、再エネの導入促進、省エネの徹底といった、わりと似通った政策が並べられている。どの党もこれらに取り組んでくれるというのは結構なことだが、無難な内容で横並びということは、つまり、気候変動政策は選挙の争点になっていないということだ(もちろん、今までもなったためしはない)。争点になっているのは、ご存知のとおり、憲法、安全保障のほかには、脱原発、消費税などである。

 しかし、気候変動問題の国際的な議論に目を向けると、ほかにも重要な論点がある。脱原発の議論も大事だが、国際的に注目を集めるのは「脱石炭」である。例えば、フランス、英国、カナダはそれぞれ2023年、2025年、2030年の脱石炭火力を目指している。日本にはたくさんの石炭火力発電所新設計画があるが、これをどうするのか。

 また、消費税の議論も大事だが、国際的には「炭素税」(より一般的にはカーボンプライシング)が話題だ。今年3月、ノーベル賞経済学者のジョセフ・スティグリッツ教授が来日して、日本は消費税を上げずに炭素税を導入すべきだと助言していった。カーボンプライシングの一つである排出量取引は中国でも導入が始まっている。日本はどうするのか。

私たちにできること

 これらの論点が選挙の争点にならないのは、もちろん政治家だけのせいではない。われわれ国民の多くが、この問題にそれほど関心が無いからだ。また、差し迫った問題であるという実感もない。そもそも世界規模で長期的に進む気候変動の問題は、そのような実感が持ちにくい。

 しかし、みなさんの中には、環境に少しでも配慮しようと思って電気をこまめに消したりしている方も少なからずいるはずだ。また、近年の異常気象を目の当たりにし、これ以上異常気象が増えないように願っている方も少なくないだろう。

 そういう方は、ぜひ今回の選挙期間中、駅前で辻立ちをしている候補者や商店街で握手をしてまわっている候補者をみつけたら、「ちょっと質問してもいいですか。パリ協定のことをどうお考えですか」みたいに聞いてみてはどうだろうか。ほとんどの候補者はうまく答えられないかもしれないが、「選挙民に気候変動のことを聞かれた」という印象が残り、当選したら議員としての活動になにがしかの影響を及ぼすかもしれない。

 あなたが気候変動問題を心配しているならば、こういうことこそが、今実行すべきもっとも重要な「私たち一人ひとりにできる対策」なのではないか。

おまけ

 冒頭に紹介した小池さんのプレゼンテーションで、小池さんが連発していたフレーズがある。それは、環境問題への取り組みに必要な「心・技・体」である。「心」は意識改革、「技」は技術、「体」は制度(体制)。この3つの要素がそろう必要があるということだ。

 いい言葉である。実は、これは筆者が2008年1月に「朝まで生テレビ!」に小池さんと一緒に出演させて頂いたときに、筆者が言ったフレーズだ。それ以来、小池さんが気に入って使ってくださっている。

 「時の人」になった小池さんがいまだに「心技体」を愛用しておられるのを聞いて、正直、うれしい。あわよくば、「リセット」みたいに目立つところで使っていただいて、もっと有名にならないかな、と密かに期待している。