Yahoo!ニュース

コロナ禍でミニシアターが生き残る道は?模索する映画館経営

江口晋太朗編集者/プロデューサー、TOKYObeta 代表
(写真:アフロ)

いまだ新型コロナウイルスの蔓延が収まらない。東京では4回目の緊急事態宣言が発出され、25日には緊急事態宣言の対象地域の拡大となった。

飲食店など多くの施設が大打撃を受けている。ぴあ総研の調査によると、音楽フェス市場は98%も消失し、全国的なイベント等の開催中止や延期、規模縮小が相次いでいる。5月以降、イベント開催の人数制限が段階的に緩和されてはいるものの、ライブ・エンターテインメント市場は苦境を強いられている。

映画業界も同じく厳しい状況にある。日本映画製作者連盟によると、2020年の映画興行収入は「鬼滅の刃」がヒットしたシネマコンプレックスを含めても前年比45%減の1432億円と大幅に減少。大手のシネコンのみならず規模の小さいミニシアターにも影響を及ぼし、緊急事態宣言下でも座席を間引くなどの対応で上映を継続しているものの、入場者の減少は映画館経営そのものを直撃している。

コロナ禍で広がる文化芸術への支援の輪

閉館の危機にさらされているミニシアターを支援しようと、映画監督の深田晃司・濱口竜介が発起人となって2020年4月にクラウドファンディング「ミニシアターエイド」を立ち上げ、3億3,000万円以上もの資金を集めたことで大きな話題を呼んだ。

とはいえ、集まったお金も各地のミニシアターに配分すると、一映画館には数百万円程度(もちろん、それでも多くの資金がミニシアターを支えたことは間違いない)であり、一時の支援金のみでは経営も心苦しい。なによりも、こうした状況がいつ終息するのか、その目処が立ちづらいことは、ゴールの見えないマラソンを走っているようなものである。

SAVE the CINEMAWe Need Cultureなど文化芸術に携わる人たちによる署名活動や働きかけによって、政府も文化芸術への支援のメニューを少しずつ揃えつつあるものの、その使いずらさなどから有効な手立てになっているかというと、疑問がある。

例えば、文化庁令和2年度第3次補正予算事業(ARTS for the future!)や経産省コンテンツグローバル需要創出促進事業費補助金(J-LODlive)など作秋に設計された支援事業の多くは、感染が収まっている前提でのイベント開催助成であり、いまだ感染状況が逼迫してるなかでは、イベント開催そのものも危うい。また、助成金の受取にはいったん経費を支払ったという証書が必要、つまり前払いであることが条件となっており、現状の厳しい経営状況において活用しずらい。

映画館や舞台などの観劇は、上映中もお客さんは基本だまって視聴するため飛沫の心配もない。入退場時やドアなどの触れる箇所への配慮や対策を講じており、これまでに文化施設でクラスターは発生していない。もちろん、そうした対策をしっかりと講じている関係者の日々の努力に支えられているということは言うまでもない。

多角化する経営でコロナ禍を生き延びろ

一方、館を運営する経営そのものへの見直しの声もある。2020年12月に一般社団法人コミュニティシネマセンターが主催した全国コミュニティシネマ会議2020でも、各映画館においてコロナ禍の状況などを共有しながら、コロナ後のミニシアターやコミュニティシネマのあり方について関係者らと議論が交わされた。

議論では、政府への支援の少なさに対する意見や、ミニシアターは文化拠点として無くしてはならないといった文化的価値を改めて見直すという意見が交わされた。一方、ビジネスとしての経営をどうするか、という意見も出た。

もちろん、コミュニティシネマの運営者の中にはNPOや任意団体らも多くあり、事業性よりも寄付や助成金に頼る組織が多いながらも、だからといって収益化や事業性を完全に無視していいわけではないはずで、活動の持続性を鑑みると、新たな収益源を確保したり、映画上映だけではない映画体験を提供するイベントやワークショップを開催するといった経営改善を図る必要があり、各々の運営組織がぶち当たっている壁だ。

例えば、名古屋の伏見ミリオン座やセンチュリーシネマを運営するスターキャット・ケーブルネットワークは、今夏、ケーブルテレビの契約を結ぶことを条件に、定額払いで映画館を利用できるプランを始めた。契約者がさらに月2475円を支払うことで無制限に映画を視聴できるなど、新たな料金プランを模索している。

日本経済新聞:灯消さぬ小映画館、人気俳優の支援や定額見放題に反響 中部とコロナ・2年目の試練 ナゴヤ文化の今④

兵庫県豊岡市の豊岡劇場を運営する石橋設計は、オンライン配信と現実の映画館を融合させた取り組みを開始し、クラウドファンディングをスタートさせた。現在ある2スクリーンに加え、オンラインを擬似的な映画”館”の拡張と捉えた第3・第4のスクリーンで月々期間限定の上映作品を視聴者は観ることができるという。映画を楽しむと同時に、映画館を支える資金としてのスキームで、コンテンツとしての映画だけでなく、映画体験を提供する映画館としての価値を尊重したいという思いから生まれている。

広がるオンライン配信と映画館は共存するか?

コロナ禍で、オンライン配信は一気に広まり、NetflixやDisney+などは会員数を大幅に伸ばしている。また、マイナー映画のオンライン配信では、月々に厳選した映画を入れ替えるMUBIがある。最近、日本でもMUBIに似た仕様のJAIHOや、インディー映画が視聴できるDOKUSOなど、多様な映画コンテンツの配信プラットフォームが広がりを見せている。もちろん、オンライン配信ならではの価値もあるが、それと映画”館”は共存可能だと筆者も考える。

映画館は、スマホの電源をオフにして、コンテンツに浸れる場所として貴重な存在だ。本でいえば本屋のようなもので、支配人や番組編成者が配給会社から映画を仕入れ、キュレーションし上映のラインナップをそろえている。特に、ミニシアターは、大手が上映しないようなマイナー映画や、若手の作品、海外作品、ドキュメンタリーなど多彩で、エンターテインメントとしての映画だけでなく、文化芸術としての映画の魅力も伝える館毎の目利きは、館そのものにファンがつく。

もっといえば、そうした館毎の個性を知ることによって、新たな楽しみも見いだせるはずで、映画を楽しむ層を広げる手段としてオンライン配信を活用しながら、映画館へと足を運ばせる導線やマルチメディアで映画体験を提供するということも今後考えていくべきことかもしれない。

映画館が街なかにあることの意味

館が文化の発信地として実空間にあることは、街の風景や文化的資源を蓄積する場所でもある。岩手では、登録文化財となった酒蔵を映画館をはじめとした複合文化施設「シネマ・デ・アエル」として運営している。同館は、市民出資の映画館「シネマリーン」を引き継ぎ、文化のある街としての歴史を継承するために始まったプロジェクトだ。場所としての存在を通じて、街の歴史や文化を受け継ぎ、関わっていくことによって次なるまちづくりへと活かされている。

ただ映画が観られるだけではない、交流や情報発信、若手育成など、空間として存在する場の意味は大きい。若い世代にとっても、こうした文化拠点があることで、様々な刺激を受けることができるはずだ。

文化の灯は、1度消えるとすぐには立ち戻らない。すべてがオンライン化された社会よりも、私は多様な文化を感じられるミニシアターが街のなかに点在する社会であって欲しい。

編集者/プロデューサー、TOKYObeta 代表

編集者、プロデューサー。TOKYObeta代表、「都市と生活の編集を通じて、誰がもその人らしい暮らしができる社会に」をテーマに、都市開発、地域再生、空間プロデュース、事業開発、ブランディングなど幅広く取り組む。東京文化資源会議 事務局次長、一般社団法人せんとうとまち理事等。著書に『実践から学ぶ地方創生と地域金融』(学芸出版社)『孤立する都市、つながる街』(日本経済新聞出版社)『日本のシビックエコノミー』(フィルムアート社)他。

江口晋太朗の最近の記事