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中小企業・個人事業主への現金給付と首相記者会見について

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授
横長の広い会場、記者の数を制限し、間隔をとって行われた首相記者会見(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 新型コロナウイルスの感染に伴う緊急経済対策が発表された。その中1つに、中小企業に最大200万円、フリーランスを含む個人事業主に最大100万円の現金給付の件がある。これについて、受給対象などの詳細が少し確認できたので報告する。

突然の電話

 驚いた。菅官房長官から、本日(8日)午前中に電話があった。

「昨日の記者会見で、よくご理解いただけてなかったようなので」と。

 事業者向けの給付金制度についてだ。これだけの給付があれば、助かる企業や人は多いだろう。が、収入が激減した個人に対する30万円の現金給付が発表されて、多くの人から歓迎された後、支給対象についての厳しい条件が明らかになって落胆が広がったばかりだ。中小企業や個人事業主への給付については、どういう条件がつけられるのかが気になり、私は7日に行われた安倍首相の記者会見で質問した。

安倍首相記者会見で質問する筆者(小川裕夫撮影)
安倍首相記者会見で質問する筆者(小川裕夫撮影)

首相会見でのやりとり

 そのやりとりは、すでに官邸ホームページに映像と文字起こしが公開されている。安倍首相の回答は次のようなものだった。

「今後、この年末までの間に、これは今までと比べて収入が半減していれば出すということになっている」

 私は思わず「年末ですか?!」と問うた。それまで時間がかかるのでは、効果は半減、と思ったからだ。

 すると安倍首相は、こう続けた。

「それまでの1か月でも、対象にどこかが当たればということだと、今、そういう設計にしていこうということになっています。ですから、どこか当たればその対象にしていくということになるわけでありますし、これはなるべく簡易に、電子的に申請をして受けられるようにしていきたいと思っております」

記者会見で質問に答える安倍首相(小川裕夫撮影)
記者会見で質問に答える安倍首相(小川裕夫撮影)

 首相記者会見で、質問した記者とさらなるやりとりが行われるのは、かなり珍しいことと思う。

 ただ、それでも私はよく理解できていなかった。本当は、さらに突っ込んで聞きたかったが、私はもう1つのテーマでも質問をしていたし、他にも手を上げている記者がたくさんいた。私の理解力の問題かもしれない、とも思い、この点についてはこれで終わった。

首相記者会見には、緊急事態宣言発令にあたって意見を聞いた、専門家で「基本的対処方針等諮問委員会」の尾身茂会長も同席し、説明を行った(小川裕夫撮影)
首相記者会見には、緊急事態宣言発令にあたって意見を聞いた、専門家で「基本的対処方針等諮問委員会」の尾身茂会長も同席し、説明を行った(小川裕夫撮影)

 この夜、TBSラジオ「荻上チキ・Session-22」に電話出演した際にも、その点は「聞いているだけではよく分からなかった」と述べた。この番組を政府の関係者が聞いていたのだろうか。

給付の条件は事業収入が前年比半減のみ

 菅官房長官から電話を代わった秘書官の説明によると、年末までのどこかの月で、事業収入が昨年比で50%以上下がっていることを示せば、下がった金額を補填してもらえる。

 たとえば、ある中小企業の4月の売り上げが、昨年より180万円落ち込んだら180万円、200万円の場合は200万円が給付される。ただし、減少額が200万円を超え、たとえば250万円になっても、もらえるのは200万円。個人事業主の場合は、その最高額が100万円になる。

 条件はこれだけ。ただ、収入が下がったことを証明するのは、結構面倒だ。それが厳格になると、実際に給付されるのは遅くなり、かつ対象も限定される。

「たとえば、収入が振り込まれる銀行口座の記録でもよいのか?」

 そう尋ねると、「それも含めてできるだけ簡便にするよう、いろんな意見を聞いて調整中」との回答。給付時期もできる限り早く、補正予算の成立時期にもよるが、できれば5月に始める、とのことだった。

収入源が複数月にわたった場合は?

 私がさらに質問。

「売り上げの大幅減少が複数か月にわたった場合はどうなるのか。たとえば個人事業主が、4月の収入が昨年の60万円から今年は20万円へと落ち込み(40万円減)、5月は70万から30万円(40万円減)に減った時、80万円もらえるのか」

 秘書官は、「これについては中小企業庁に照会し、検討してもらう」とのこと。結論が出たら連絡してくれるそうなので、回答があり次第、本稿に加筆したい。

記者会見する菅官房長官(4月1日、官邸ホームページから)
記者会見する菅官房長官(4月1日、官邸ホームページから)

 再び電話口に出た菅官房長官は、

「今は大変な時期であり、(コロナのために)困っている人を助けるのが目的なので、杓子定規ではなく、迅速にやっていきたい

と語った。

記者会見などの変化

 ところで、7日の記者会見は、これまでになく1時間を超えた。それでも尽きない質問に、司会の長谷川栄一内閣広報官が「次の日程があるので会見は閉じますが、質問がある人は書面で出してください。私の方で総理の答えを書面で返します」と述べた。

多くの記者が質問のために手を挙げた(小川裕夫撮影)
多くの記者が質問のために手を挙げた(小川裕夫撮影)

 このようなことは、おそらく初めてだ。会見で事前に質問通知をしていない記者やフリーランスなどが指名されるようになるなど、今回の状況の中で、政府の広報には変化が見られる。本日の官房長官からの電話もその一環だろう。

 ただ、新たな問題もある。昨日の記者会見は、「3密」を防ぐとの理由で、会見出席者の数が限定された。ペン記者は内閣記者会の19社が1人ずつ、非常駐報道機関・外国メディア・ネットメディア・フリーランスで希望する31人の中から抽選で10人のみが参加を許された。

 広い会場に、記者が点在する異様な会見となったが、テレビで中継をその光景を見ていた人からは、「安心した」とかなり好評のようだ。イギリスではジョンソン首相が感染して入院しており、国家の首脳を感染から守ることも大事だ。

 一方で、こういう非常事態だからこそ、本当はなるべく多くの記者が参加し、様々な角度から質問をできるようにすることが望ましい。もっと多くの人が入れる場所がないのであれば、会見会場に入れない記者はオンライン参加ができるようにし、質問も可能にするなどの工夫が欲しい。

 記者クラブは、そういう具体的な提案をし、できるだけ多くの記者の取材機会を確保するよう、当局に対して積極的な働きかけを行うべきだ。

 また、1つの問題について、「質問ー答弁」で終わらせるのではなく、事柄によっては答弁に対する「更問い(さらとい)」を重ねて、国民の理解が深まるようなやりとりを実現させべく努めなければならない。今回、私の中途半端な更問いに、安倍首相は答えた。今まで更問いが実現しなかったのは、記者側の努力不足が大きいのではないか。

 この危機の中で、国民は首相の発言に注目している。首相記者会見にこれほど関心が集まることもないのではないか。国民が注視している時だからこそ、記者会見をさらに改善させる努力が必要だ。

【訂正】

 事業者向けの給付金制度は、「事業収入」の大幅減少となった中小企業・個人事業主が対象です。最初は「収入」と記載していましたが、「事業収入」「売り上げ」などに改めました。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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