【オウム死刑執行から考える3】再審請求と死刑執行

(写真:ロイター/アフロ)

 いささか時間が空いてしまったが、オウム事件の死刑執行を通じて考えるところをあと数点述べておきたい。今回は、再審請求と死刑執行の問題について書く。

初めての再審請求が始まったばかりで…

 執行された13人のうち10人が再審請求中だった。1回目の請求中だった者も6人いた。

 その1人井上嘉浩は、地下鉄サリン事件の役割と仮谷さん拉致事件への関わりについて、一審判決と控訴審で評価が異なり、一審は死刑を回避して無期懲役としたが、それが控訴審で破棄され、死刑判決となった。そうした経緯に加え、再審請求審では仮谷さん拉致事件に関して、検察側が新たに証拠開示を行うことが決まっていたことを考えると、今回の請求に関する裁判所の結論が出るまで、執行を待つことはできなかったのだろうか、という気がする。判断までに、それほど長い時間を要するとも思えない。

井上嘉浩
井上嘉浩

 ただ、そうなると、井上1人ではなく、証言が対立する中川智正や地下鉄サリン事件実行犯などの共犯者、さらには教祖の麻原彰晃こと松本智津夫なども、しばし執行を先送りしなければならなくなる。それでも、死刑が取り返しのつかない刑罰であることを考えれば、あえて裁判所の判断を待つことで、当局は死刑に対しては慎重のうえにも慎重を期す姿勢であると示すべきだったのではないか。その方が、平成のうちに事件に終止符を打つこと以上に大切だったように思う。

「執行阻止」のための再審請求

 その一方で、死刑廃止を訴える人たちが、公然と再審請求を死刑執行先送りの手段にしているのにも、違和感を覚えた。

死刑廃止を訴える集会で講演する安田弁護士
死刑廃止を訴える集会で講演する安田弁護士

 オウム関連死刑囚がすべて執行された後の7月27日、死刑廃止を求める団体が共催して「死刑執行に抗議する集会」が行われた。その冒頭、麻原の一審主任弁護人で死刑廃止運動のリーダー的存在でもある安田好弘弁護士が、次のように述べた。

「私どもは、何としてでも執行を阻止したいと考えました。13人の死刑囚の方々がいるわけですけれど、私どもは、中心人物である麻原氏の執行を止めれば、他の人たちの執行も連動して止まるだろう、と思いました。そして、その人たちも同じことをやれば、より強い力が出るだろう、と。それで、この間私どもがやってきたことは、麻原氏の再審請求です

 麻原は、これまでにも家族からが3度再審を請求し、いずれも棄却されている。4度目となる今回は、地下鉄サリン事件を起こす契機となった「リムジン謀議」について、事件当時オウムの幹部信者だった青山吉伸元弁護士に話を聞き「謀議はなかった」とする証言を得た、という。

 麻原のリムジン車内でのやりとりについては、井上嘉浩が詳細な証言をしたほか、遠藤誠一もその一部を裏付ける証言をしている。これに対し青山元弁護士は、1997年5月20日に実行犯の林郁夫(無期懲役)の裁判に証人として出廷した際、車内で誰がどこに座っていたのかも記憶しておらず、麻原がどこに座ったかさえ「記憶が明確でない」と述べた。車内で交わされた会話については「ほとんど覚えていません」と答えている。

 その彼が、20年以上経った今になって、何かを「思い出した」と述べても、それで再審が開かれるとは到底考えられない。弁護士がそんなことを分からないわけはないから、とりあえず何らかの”新証拠”を出して再審請求をすることで、当面の執行を「阻止」できればよい、という作戦だったのだろう。

 本人や家族に頼まれた弁護士が、少しでも生を長らえさせるために、再審請求を行うことに協力するケースはあり、オウム事件の再審請求は、ほとんどそうと言えるのではないか。そのやむにやまれぬ心情は分からないでもないが、本来は冤罪救済のための制度を、弁護士が「執行阻止のため」に利用すると公言してはばからない姿勢には驚いた。これが、本当に冤罪の救済を求めている死刑囚に、なんらかの影響を及ぼさなければいいが……と思う。

再審請求中は執行を控える傾向の中で

 刑事訴訟法では、法務大臣の執行命令は「判決確定の日から6ヵ月以内」にしなければならないと定めている。ただ、再審請求があった場合は、その手続が終わるまでの期間は、この6ヵ月に算入しないという規定はあるが、確定から6ヵ月を超えた時期に再審請求があった場合の決まりはない。

 

千葉法相の時に明らかにされた東京拘置所内の死刑場。赤い四角の枠の場所で執行する
千葉法相の時に明らかにされた東京拘置所内の死刑場。赤い四角の枠の場所で執行する

 それでも、つい最近までは、再審請求中の死刑執行は控える傾向にあった。民主党政権下で法相を務めた千葉景子氏は、2人の執行に関する稟議書が回ってきた際、なぜこの2人が選ばれたのか法務省幹部に尋ねたところ、「再審請求があるか、心身の安定が整っているか、確定からの年数などを総合的に判断してこうなりました」と説明された、という。この2人は再審請求中ではなかった。

 このような傾向の中で、死刑執行を先送りするための再審請求が増え、死刑囚の7~8割となる。そうなると、冤罪ではないのに繰り返し再審請求を行っている者はなかなか執行されない一方、罪を認め反省して再審請求もしない者が早々に執行される事態となる。不公平さが指摘され、再審請求が死刑の執行引き延ばしに利用されている、との批判も出た。

法務省の対応の変化

 そんな中、昨年7月に法務省は、自ら控訴を取り下げて死刑が確定し、その後再審請求中だった男の死刑を執行。金田勝年法相(当時)は、「再審請求をしているから執行しない、という考えはとっていない」と述べた。同年12月、上川法相の下で死刑執行された2人は、いずれも再審請求中だった。上川氏も「再審請求を行っているから執行しない、という考えはとっていない」とまったく同じ見解だった。

 死刑廃止派が執行阻止のために再審制度を利用する一方、それに対抗するように、法務省が再審請求は全く死刑執行の妨げにはならない、という方針を鮮明にする。今回のオウム事件の死刑執行においても、再審請求という要素はまったく考慮されなかったのだろう。

 それが当たり前になったらどうだろうか……。

再審請求事件はなお慎重に

 これまで、4人の元死刑囚が再審無罪となり、冤罪であったことが明らかになっている。このうち免田事件は、第6次請求でやっと再審開始が認められた。

 名張毒ぶどう酒事件では、当初は弁護人がつかないまま、本人が獄中から再審請求を出しては棄却されることを繰り返していた。この時期は、司法からは見向きもされない状況だった。第5次請求から弁護人がつき、科学鑑定などの証拠が出されるようになり、ようやく冤罪事件として知られるようになり、第7次請求で1度は再審開始が認められた。検察の異議でその決定は覆され、再審は開かれなかったが、その後も執行はなされず、第9次再審請求の途中で当人が病死した。

 このように、最初のうちは、冤罪救済のためとは思われず、執行逃れのための再審請求としか見えなくても、再審請求を重ねていく中で新たな証拠が見つかったり、科学技術の進化などによって鑑定が可能になったりして、冤罪であることが判明するケースがまれにある。だから、再審請求の回数で執行するかしないかを決めるなど、客観的な基準を設けるのは難しい。

集会で現実から乖離したことを語る袴田巌さん(左)と姉の秀子さん
集会で現実から乖離したことを語る袴田巌さん(左)と姉の秀子さん

 袴田事件の袴田巌さんが、死刑が確定して以降、精神を病んだように、冤罪で死刑囚となった者の不安や恐怖は、想像を絶する。これで、再審請求中でも関係なく執行がされるのが当たり前になったら、どうだろうか。 

 一方で、死刑阻止のために再審請求を利用していると公言されている中で、法務省が請求中には執行しないと確約することはできないだろう。

 悩ましい。それでも、せめて再審請求が出されている場合は、執行は慎重のうえにも慎重を期すという姿勢だけは、法務大臣にもっとしっかり示して欲しいと思う。