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被災者の生活再建のために情報のマッチングが必要

江川紹子ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

熊本の大地震に見舞われた現地を訪れてみて、強く感じたことの一つが、被災者一人ひとりに必要な情報が届いていないことだった。

情報が十分に発信されていないわけではない。避難所や役場の入り口付近には、役場を始め、弁護士会などの諸団体が発する様々な情報を印刷した紙が張り出してあったり、自由に持ち帰れるように積んであったりする。新聞やラジオなどでも、様々な情報が伝えられている。

しかし、あまりに多くの情報が流れていて、被災者が自分に必要なものを選び出すのは、なかなか容易ではない。

車座トークで被災者に必要な情報を分かりやすく伝える

被災地を訪れた日本災害復興学会副会長で同学会内の支援委員会初代委員長の木村拓郎さん(一般社団法人 減災・復興支援機構理事長)は、こう指摘する。

「役所の文書は、個々の制度の説明に終始していて、支援の全体像がなかなか分かりにくい。被災者一人ひとりが抱えている悩みは違う。早く生活再建したいのに、どうやったら軌道にのれるか、その糸口がつかめない人が多いようだ。様々な制度の相互関係を含めて分かりやすく全体像を説明し、自分に必要な情報にアクセスできるような、情報のマッチングを手助けする必要がある」

小坂小学校で行われた車座トーク
小坂小学校で行われた車座トーク

木村さんは5日、被災者支援を行っているNPOから依頼され、御船町の小坂小学校体育館に設置された避難所で、支援制度について解説する車座トークを開いた。同学会が作成したパンフレット「被災したときに~生活再建の手引き」を配り、応急仮設住宅や「みなし仮設」、生活再建のためにどのような支援メニューが用意されているのかなどについて、分かりやすく説明した。

被災者からは、質問が次々に出た。

多くの家屋に、応急危険度判定で「危険」の赤い紙が貼られた(益城町で)
多くの家屋に、応急危険度判定で「危険」の赤い紙が貼られた(益城町で)

余震で倒壊する危険性などを診断する「応急危険度判定」をやってもらうには、何か手続きが必要なのか。この判定結果と罹災証明での被災の程度は関係あるのか。被災の程度に納得がいかない時にはどうしたらいいのか……。

その一つひとつに、木村さんは丁寧に答えていた。

木村さんによれば、生活再建のために最も重要なのは罹災証明で、「大規模半壊」と「半壊」では受けられる支援に大きな差が出る。たとえば、「大規模半壊」に認定された被災者が住宅を補修した場合、被災者生活再建支援法に基づいて、基礎支援金50万円プラス加算支援金が最高100万円で合計150万円の支援が受けられる。ところが、「半壊」と認定されると、受けられる支援はゼロ。

木村さんは、「『半壊』とされて納得できない場合、役所に二次調査を求めてもっとよく見てもらうことはできる。それで結論が変わっても、結果が出るまで時間を要する。過去の地震では10ヶ月かかった例もある。その間罹災証明がないために、生活再建が遅れてしまい、周囲から取り残されてしまう可能性もある。このようなメリットとデメリットをよく知ったうえで、自分はどうするか判断してもらいたい」とアドバイスする。

生活支援は「大規模半壊」からだが、今回の地震で被災した家屋の解体費用は、「半壊」でも国が補助をすることになった。このように、支援によって対象となる被害が異なるので注意が必要だ。

今の支援制度には問題点がいろいろ…

被災者支援のボランティアから状況を聞く木村さん
被災者支援のボランティアから状況を聞く木村さん

また、木村さんは「大規模半壊」と「半壊」で大きな差をつける、現行の支援制度には問題がある、と指摘する。

「濃密な人間関係の中では、隣は『大規模半壊』とされて50万円もらえたのに、自分はほとんど同じような被害を受けているのにゼロ、という状況から、人間関係が壊れることが、これまでの災害でもよくあった。『全壊』『大規模半壊』『半壊』『一部損壊』という被害程度にリンクさせて、支援に階段状に差をつけるやり方でいいのか疑問だ。地域での人間関係を壊すような制度では困る。いくつかの基準を設け、それぞれのポイントを加算して支援に反映させるなど、もっときめ細やかな制度にしていく必要がある」

御船町での車座トークが好評で、他からも要望が相次いでいるため、木村さんは近く、再び現地を訪れる。

「希望があれば、できるだけ多くの避難所を回りたい」と木村さん。

車座トークは、日本災害復興学会の事業として行うもので、希望があれば市町村の災害対策本部を通じて同学会事務局に申し込んで欲しい、とのこと。問い合わせも、同事務局まで。

また、パンフレット「被災したときに~生活再建の手引き」はネットでも公開されている。

ジャーナリスト・神奈川大学特任教授

神奈川新聞記者を経てフリーランス。司法、政治、災害、教育、カルト、音楽など関心分野は様々です。2020年4月から神奈川大学国際日本学部の特任教授を務め、カルト問題やメディア論を教えています。

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