コミケ一般参加有料化が持つ意味

参加者が行き交うコミケ会場(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

コミケ一般参加の有料化?

 2019年に開かれる同人誌即売会コミックマーケット(コミケ、コミケット)で、一般参加の有料化が予定されていることが話題になっています。

 2019年のコミックマーケット96・97について、有料化を予定していることを、準備会の共同代表がサークル向けの冊子「コミケットアピール」で明らかにしました。

 コミックマーケット96・97は東京五輪の影響で4日間開催になり、会場は有明と青海にまたがることに。2つの会場を参加者が行き来することから、リストバンドによる参加者の識別を予定。サークル通行証をリストバンド化し、カタログを購入しない一般参加者にはリストバンドを購入してもらうとしています。

出典:コミケ、2019年開催のC96・97を有料化 4日間2会場で経費増

 一般的に同人誌即売会では、主催者が発行するカタログが入場券を兼ねています。カタログを一般参加者に販売した売上と、サークル参加者から徴収する参加費を、主催者は即売会の運営費用に充てています。しかし、現在のコミケではカタログの購入はあくまで任意で、必須ではありません。それを来年は通行証をリストバンド化し、一般参加者に購入してもらうことを予定されています。

 その理由として、東京五輪の影響で4日間2会場制にしても使えるスペースが減少するため、サークル参加費や企業ブース、広告による収入が減少する反面、警備費といった経費が増加する事を挙げています。そのため一般参加者にも負担を求めることにするようです。

 40年以上の歴史を持ち、今や年間延べ100万人以上が参加する巨大イベントとなったコミケ。今回の一般参加有料化は、ある種の転機となるかもしれません。しかし、コミケの運営形態はこれまでもその規模の拡大や時代の変化とともに、変わっていったのもまた事実です。今回はその変化のうち、今回の有料化の理由に関係するものを取り上げ、今回の有料化がどう影響を及ぼすかについて考えてみたいと思います。

「カンパ」扱いで始まったカタログ販売

 来年の有料化では、カタログを購入しない参加者にリストバンド購入をしてもらうとされています。このコミケカタログとは、どのようなものでしょうか。

 1975年に開かれた最初のコミケ(C1)は、参加サークル32、参加者数は推定700人とされています。この時の収支報告が公表されていますが、収入51,600円のうちサークル参加費が6,600円で、最大の収入源がカンパ及び連絡委託費の14,000円。まだカタログもなく、一般参加者から入場料を取ることもないイベントで、サークル参加費では費用を賄いきれずにカンパや準備会のポケットマネーで支えている状況でした。

第1回コミックマーケット収支決算報告
第1回コミックマーケット収支決算報告

 コミケは慢性的な赤字が続いていましたが、1982年8月のC21になるとサークルリストと配置図をまとめたカタログを1部100円で販売を始めます。この時も強制ではなく、「一般参加者の方々のカンパ協力を、このパンフで!」とカタログで呼びかけられており、カタログ購入がカンパになっているという形でした。現在もカタログ購入は強制ではないのですが、一般待機列に並ぼうとすると、カタログを持っていない参加者は販売所へ誘導されるよう動線が組まれていたあたりに、やっぱり買って欲しいという本音が見え隠れしています。

企業ブースの設置

 「アマチュアの祭典」として始まったコミケですが、企業との関わりも途中から始まっています。参加サークル向けに印刷会社による搬入や画材の販売が行われるようになり、一般参加者へのアピールを目的にした企業の出展は、1986年のC30で宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』とタイアップしていた味の素が、炭酸飲料『天空の城ラピュタ』のPRを行ったのが最初でした。

 当初、企業の出展は予備スペースが空いた際に行われるものでしたが、1996年のC51以降は企業ブースが設置されるようになります。これは、ビッグサイトで動線から外れた西館4階の利用を模索する中の試みでしたが、増大し続けるコミケ運営経費に対して、サークル参加費やカタログ代を出来るだけ値上げしないための策でもありました。

会議室から「東洋一」の展示場へ

 支出の面ではどうでしょうか。最初のC1では、日本消防会館の会議室の一室を会場にして開催されています。ところが、1980年代に参加者が急激に増加すると、当時の日本にあった展示場でコミケのキャパシティを満たせるものが無い状態になりました。しかし、1989年に当時「東洋一」の規模を誇った幕張メッセがオープンし、コミケはいち早く会場を幕張メッセに移しました。その後、一旦は事情により晴海の東京国際見本市会場に戻るものの、1996年からは現在の東京ビッグサイトに移り、それが20年以上続いています。

1996年以降、コミケの会場となっている東京ビッグサイト(Morio撮影)
1996年以降、コミケの会場となっている東京ビッグサイト(Morio撮影)

 C1で利用した日本消防会館の会議室の費用は、当時の収支報告によれば21,500円でした。現在、コミケの収支報告は公表されてはおりませんが、東京ビッグサイト全館の4日分(準備日含む)の利用料は1億円を超えるとみられます。会場費は当初の5,000倍以上、ひょっとしたら1万倍になっているわけです。

自主警備からプロの警備へ

 大規模なイベントになると、警備は重要な問題になってきます。当初のコミケはスタッフによる自主警備を行っていましたが、コミケの規模拡大に伴い、警備セクションの役割が大きくなってくると、管理・規制を強化すべきという警備担当と、管理を嫌う準備会古参スタッフの間で対立が発生します。この対立は1981年に警備側の「クーデター」に発展し、コミケから離反するなど、コミケ史上でも特筆される事件となっています。

 それでも自主警備を貫いてきたコミケでしたが、1983年4月のC23からは警察指導を受け、警備会社のプロの警備員が関わるようになります。以降、コミケの拡大に伴う警備の拡大の他、発火事件や脅迫状といった問題もあってますます警備が強化され、近年のコミケでは警備費が大きな負担となっています。今年夏のC94では、警戒していた私服警官にスリ師が現行犯逮捕されるなど、盛り場ゆえの犯罪も起きています。

「東京五輪後」はどうなる?

 これまでで、コミケ拡大に伴う支出の増大に対し、安定的な収入源確保のための取り組みが行われてきた事を紹介しました。しかし、2019年のコミケは前述したように収入が減る反面、費用が増えると見込まれています。そして、『コミケットアピール』の記述によれば、リストバンドと有料化は2019年のみの措置に読み取れます。

 しかし、過去もコミケでは、1日開催だったものが2日間開催に、2日間が3日間に……と一度変わったら元に戻らなかった事が多々ありました。今回も2会場制を理由にしていますが、有料化やリストバンドによる入場が今後も続くことになるかもしれません。ただ、リストバンドのみの販売はこれまでカタログを買っていない一般参加者向けのようですので、従来からカタログを買って目を凝らしてサークルチェックしているような一般参加者は、負担的にはそう変わらないかもしれません。

 また、今回の準備会発表を受け、有料化の面が強調されて報じられています。しかし、これはあくまで私の推測ですが、チケットやカタログ提示ではなく常時装着可能なリストバンドによる入場チェックを行うということは、将来的に色分けやICタグによって、年齢制限エリアを設けるなどのゾーニングを見据えているのかもしれません。

コミケにおける「参加者」

 今回話題になったのは、一般参加者に対する料金の徴収です。しかし、そもそもコミケにおける「参加者」とはなんでしょうか? 一般的にモノを買う側は「客」と呼ばれており、コミケで作品を購入する一般参加者は「客」に見られがちです。しかし、コミケではサークル参加者、一般参加者、準備会の3者を「参加者」と位置づけており、その関係は対等のものとされます。つまり、コミケを行う者すべてが「参加者」であって、「客」はいないのです。

一般参加者待機列と列整理する準備会スタッフ(筆者撮影)
一般参加者待機列と列整理する準備会スタッフ(筆者撮影)

 一般参加者はこれまでも作品を購入することで間接的にコストを負担しています。その一般参加者から参加費を徴収するということは、「参加者」として直接的な負担を求めている、と言えるかもしれません。これは参加者としての「応分の負担」として続くのか、それとも一時の窮余の策で終わるのか。参加者のひとりとしても大変気になるところですが……。

【参考】

コミックマーケット準備会『コミックマーケット30周年史『コミックマーケット30'sファイル』』

岡安英俊、三崎尚人「コミックマーケットにおける理念の変遷と機能」『コンテンツ文化史研究6号』所収

【写真】

Morio撮影の東京ビッグサイト(CC-BY-SA-3.0)

※記事初出時、最初のコミケが開かれたのを1976年としていましたが、正しくは1975年でした。訂正の上、お詫びいたします。。

※記事初出時、参考文献の「コミックマーケットにおける理念の変遷と機能」の著者、岡安氏のお名前に誤りがありました。訂正の上、お詫びいたします。