自衛隊に“海兵隊機能”を持たせる事の意味

海上自衛隊の護衛艦に着艦する米海兵隊のMV-22オスプレイ

先月末、各省庁から平成26年度予算の概算要求がなされましたが、防衛省の概算要求では、自衛隊に「水陸両用機能」を持たせる為の予算が盛り込まれていました。この水陸両用機能について、「海兵隊機能」と説明している報道が多く見られました。

これらの報道では海兵隊機能について、V-22オスプレイや水陸両用車の配備によって、離島奪還のための水陸両用作戦機能を強化することと説明しています。ですが、装備などのハードウェア面のみを揃えて海兵隊機能と言うのは、些かの違和感があります。今回は、自衛隊が範としようとしているアメリカ海兵隊から、「海兵隊機能」とは何なのか、それを自衛隊に持たせるとはどういうことなのかについて、考えていきたいと思います。

ドーンブリッツ2013で海兵隊員と打ち合わせを行う自衛隊員(海兵隊サイトより)
ドーンブリッツ2013で海兵隊員と打ち合わせを行う自衛隊員(海兵隊サイトより)

第4の軍、海兵隊

まず、アメリカ海兵隊とはどのような組織なのでしょうか。海兵隊は海軍に属する組織だと思われがちですが、海軍からは法的に独立した組織であり(調達など、海軍が行う業務もありますが)、陸海空軍に続く「第4の軍」として機能しています。

多くの方にとっての海兵隊は、敵前へ上陸をかける部隊というイメージが強いと思われます。現在の海兵隊は陸戦要員となる海兵隊員に加え、戦車、航空機などを自軍で保有しており、海兵隊のみで陸海空軍の機能を備える自己完結性と緊急展開能力がその特徴となっております。しかし、海兵隊が現在に近い形になったのは歴史的に見れば第二次大戦の前後からで、海兵隊は誕生からの長い間、海軍と陸軍の間でその存在意義が問われていた存在でした。

敵前上陸を行う海兵隊イメージ(米国防省サイトより)
敵前上陸を行う海兵隊イメージ(米国防省サイトより)

1775年に誕生したアメリカ海兵隊は、海軍艦艇内の規律を保つ警察要員、または上陸時の警護要員としての役割が与えられており、ペリーの浦賀来航時にも200名の海兵隊員が護衛として上陸しています。植民地獲得競争の時代には、植民地における米国人の保護や海賊退治などが主任務で、戦争に海兵隊が大々的に参加するようになったのは第一次大戦になってからです。

第一次大戦でドイツ軍がパリに迫った際、陸軍の補助として参戦していたアメリカ海兵隊が、ベローの森にてドイツ軍の猛攻を防ぎきった事で海兵隊は賞賛されます。しかし、陸上で陸軍と変わらない戦闘をするならば、それを海兵隊がやる必要性はありません。第一次大戦後の軍縮では海兵隊の規模は大きく削減され、陸軍との予算を巡る争いの中、海兵隊の存続を危ぶむ声が海兵隊内部から出ました。

新たな使命の創造

第一次大戦後、海兵隊は自身の存在意義、新たな任務を見出します。第一次大戦の勝利により、ドイツから南洋諸島を獲得した日本が、太平洋におけるアメリカの新たな脅威となり、将来の日本との戦争に備えたオレンジ計画が準備されます。その策定の中、海兵隊のエリス少佐が、太平洋に点在する日本軍の拠点を順次奪取し、島嶼伝いに直接日本本土を叩く方針を示します。この方針を実現する為の手段として考えられたのが「水陸両用作戦」で、海兵隊がその任を担うものとされました。海兵隊は陸軍にも海軍にも出来ない、水陸両用作戦という新たな任務にその存在意義を見出すことになり、その実効性は第二次大戦における日本軍との戦闘の中で証明される事となります。

第二次大戦の激戦地、硫黄島に最初の星条旗を立てる海兵隊員
第二次大戦の激戦地、硫黄島に最初の星条旗を立てる海兵隊員

第二次大戦後、海兵隊は水陸両用作戦にとどまらず、新たな任務を見出していきます。朝鮮戦争やベトナム戦争を経験し、船艇による上陸作戦のみならず、ヘリコプターを利用し紛争地に迅速に展開する即応軍として海兵隊は変化していきます。即応性を新たな存在意義とした海兵隊は、「アメリカの911(日本の110番に相当する緊急通報番号)フォース」と呼ばれるまでに至っています。

このように自身の存在意義を問われ続けてきた海兵隊は、自身を絶えず革新することで存在意義を見出していく組織文化を持っており、このことをして「海兵隊は使命を創造する」と評価されています。

Maneuver Warfare:機略戦

自己革新を重ねてきた現在の海兵隊を考える上で欠かせないのは、“Maneuver Warfare”という概念です。訳語として「機動戦」が一般的ですが、米国海兵隊ドクトリン総論『WARFIGHTING』を邦訳した戦争平和社会学者の北村淳氏は、”Maneuver”は「機動」よりも広い意味を包含しているとして、「機略戦」という言葉を訳に充てています。ここでも北村氏に倣い、「機略戦」という言葉を使いたいと思います。

さて、この機略戦とはどのような概念なのでしょうか。原語の”Maneuver”の一般的な訳である「機動」は、「有利な場所を得るために機動する」といったような空間的な概念に用いる言葉です。これに対して「機略」は、空間的・心理的・技術的・時間的といった広い概念に適用され、中でも最も重要なのが「時間における機略」であるとされます。

「時間における機略」を達成するために用いられるのが、スピードであり、奇襲です。敵に対応する時間を与えず、次から次へ手を打つことで、敵を心理的麻痺状態に陥らせて機能不全にすることが理想的とされます。このように時間を重視する海兵隊は、その意思決定から持つ装備までがスピードを重視したものになっています。

意思決定から装備までスピード重視の海兵隊

海兵隊の意思決定は、OODAループと呼ばれるサイクルに基いて行われます。これは、監視(Observe)ー情勢判断(Orient)ー意思決定(Decide)ー行動(Act)の頭文字から取られたもので、敵の戦闘力が喪失するまで、このサイクルを繰り返し実行することで迅速かつ効果的な意思決定を図るものです。

もともと、OODAループは朝鮮戦争において、ソ連製MiG-15に機動性能で劣る米空軍のF-86が、実際の戦闘ではMiG-15を圧倒していたことについての調査研究から発見されたものです。その結果、F-86が360度の視界を確保し、操縦桿が軽くて機敏に操作出来ていたのに対し、MiG-15の後方視界は悪く、操縦桿が重くて素早い操作が困難だった事が明らかになりました。つまり、F-86のパイロットは迅速に状況を把握・判断して意思決定を行い、素早く行動に移せたが、MiG-15はその意思決定スピードに追いつけなかったことが勝敗の原因と考えられました。機体の機動性能ではなく、意思決定のテンポの速さが勝負を分けたのです。

海兵隊ではOODAループの回転を高速に行うことで、敵に思考と行動する隙を与えず、抵抗を封じます。このようなスピードを得るため、現場の小部隊に対しても自発的な意思決定を行わせるための裁量権があります。また、軍隊では上の命令は絶対とイメージする方も多いと思いますが、海兵隊では部下に対して「指揮官の意図」だけを伝え、その手段を部下が自発的に考え行動します。現場が自発的に考えて行動することで、スピードと敵の意表をつく大胆さが得られるという考えなのです。

意思決定だけでなく、装備にも海兵隊のスピード重視が現れています。まず、昨今話題のMV-22オスプレイがそれです。海軍と空軍もオスプレイを導入しますが、海兵隊は米軍中で最も多い360機を取得する予定です。オスプレイは従来使われていた、CH-46ヘリの約2倍のスピードと4~5倍の航続距離を持ち、より遠方の目標により短時間で到達することが可能です。

CH-46EとMV-22Bの戦闘行動半径・速度比較
CH-46EとMV-22Bの戦闘行動半径・速度比較

戦闘行動半径を下図のように実際の地図上に表示すると、活動範囲が極めて増大することが分かります。また、CH-46の約2倍の巡航速度により、作戦も迅速に行うことが可能です。

CH-46EとMV-22Bの戦闘行動半径比較図(中心:普天間基地)
CH-46EとMV-22Bの戦闘行動半径比較図(中心:普天間基地)

また、CH-46以外にも海兵隊のスピード重視が現れているのが、高速輸送船HSV-2 スウィフトの存在です。揚陸艦・輸送艦は海軍の所属(しかもHSV-2は民間からのチャーター)となるために厳密に海兵隊とは言えないのですが、真っ先に運ばれるのは海兵隊の兵士になります。

HSV-2 スウィフト(Wikipediaより)
HSV-2 スウィフト(Wikipediaより)

スウィフトは最大速度45ノット毎時の双胴の高速輸送船で、従来の揚陸艦と比べて迅速に大兵力を輸送可能です。MV-22がいくら優速であっても航空機では軽武装の少人数しか輸送出来ない為、重武装の兵員の大量輸送は未だに海上輸送に頼らざるを得ません。このスウィフトは大兵力の高速輸送を可能にするという点で、MV-22と並んで注目される装備です。

自衛隊の海兵隊機能強化の施策

さて、自衛隊の話に移りましょう。昨今の自衛隊の海兵隊機能の付与・強化については、具体的な施策がいくつか出ております。

平成26年度予算の概算要求では、陸上自衛隊内に「水陸両用準備隊」を創設するための予算が計上されています。この部隊で装備品や作戦のノウハウを集めて、早期に水陸両用作戦の戦力化を目指すとしています。この概算要求よりも前、今年の5月から7月にかけて、陸上自衛隊員30名が沖縄のアメリカ海兵隊で水陸両用作戦訓練の研修を受けており、この研修を受けた隊員が水陸両用準備隊や水陸両用作戦教官の中核メンバーになるものと考えられます。

また、装備面でも水陸両用車両のAAV7を参考として、米国から2両購入することも要求される他、既存のおおすみ型輸送艦でも水陸両用車両が運用できるようにする改造費も盛り込まれています。

AAV7イメージ (平成26年度概算要求より)

また、アメリカ海兵隊はスピード重視の装備を志向することについては先ほども触れましたが、自衛隊の海兵隊機能についても同様の事が言えるようです。ティルト・ローター機導入検討のための予算が盛り込まれており、現在実用レベルにあるティルト・ローター機はオスプレイ以外にいないため、自衛隊がオスプレイを早ければ平成27年度予算で取得する可能性があります。

オスプレイの他にも高速輸送船で動きがあります。 津軽海峡フェリーが所有する高速フェリー”ナッチャンWorld”をPFI(民間資金等活動事業)法に基づく特別目的会社に平時の運行を委ね、有事に自衛隊が利用するという案が報道されています。

ナッチャンWorld(Wikipediaより)
ナッチャンWorld(Wikipediaより)

ナッチャンWorldはHSV-2 スウィフトを設計・建造したインキャット社で建造されたもので、スウィフトに近い性能を持つ高速輸送船です。これまでも、東日本大震災や演習での装備輸送で自衛隊にチャーターされてきましたが、本業の旅客輸送においては運行経費の高さから、繁忙期以外運行されていないなどの問題がありました。

しかし、特別目的会社に運行を委ねることで、繁忙期は旅客輸送を行い、閑散期や有事に自衛隊が使用料を払って利用することで、海運会社は資産の有効利用が出来、自衛隊側は購入よりもコストを抑える事が出来、民間・自衛隊双方にメリットがある方策です。これは、スウィフトをチャーターしている米海軍に近いと言えるかもしれません。

水陸両用車両、V-22オスプレイ、高速輸送船と、アメリカ海兵隊と同じような装備の取得を進める自衛隊ですが、意思決定などの面ではどう変わっていくのでしょうか。その中核と言えるのが、3自衛隊の統合運用と言えるでしょう。

自衛隊の統合運用=海兵隊化?

自衛隊は陸海空の3軍に分かれており、アメリカ海兵隊に相当する軍はおりません。アメリカ海兵隊では、作戦に必要な軍種を海兵隊内で保有することで、組織の意思疎通・決定のスピードを大幅に早めていました。近年の自衛隊は、海兵隊のような1つの組織とは言わないまでも、3自衛隊を統合的に運用する体制を目指すとしております。この動きは、最近の富士総合火力演習などでも統合運用を押し出したシチュエーションになっていることや、自衛隊の組織改編、人事異動などでも見て取れます。

統合運用の象徴的な出来事が2006年の統合幕僚監部の新設です。それまで3自衛隊は長官(現・大臣)を各幕僚長が補佐する形で活動していたのに対し、統合幕僚監部の設置により、長官の補佐は統合幕僚長に任され、3自衛隊の指揮は一元化されることになりました。また、東日本大震災においても、自衛隊最大規模の統合任務部隊”災統合任務部隊”が組織され、陸上自衛隊の東北方面総監の指揮下に3自衛隊の部隊が組み込まれて災害救援活動に従事するなど、統合運用の事例は確実に増えつつあります。

しかしながら、報道や発表を見る限り、どうしても装備面ばかりが目立つのもまた事実で、自衛隊の統合運用をどの程度まで進めるのか、そのゴールが見えません。自衛隊が目指す「海兵隊」が、アメリカ海兵隊なのか、その他の国の海兵隊なのかは明らかになっていませんが、少なくともアメリカ海兵隊から多くを学んでいる以上、アメリカ海兵隊を目指していると仮定できるでしょう。しかし、アメリカ海兵隊式の装備を揃えただけで、アメリカ海兵隊の様になれる訳でもなく、思考や行動原則もハードに見合ったものが求められます。

報道では「陸上自衛隊の海兵隊化」と陸に限定して書いているものも散見され、実際に自衛隊内で海兵隊志向が強いのは、陸上自衛隊ではないかと見る向きもあります。しかし、迅速に行動するために、自前で作戦に必要なものを自前で揃えたアメリカ海兵隊の本気度合いを見ると、陸上自衛隊だけが海兵隊化を目指しても不十分ではないかと思われます。本当にアメリカ海兵隊のような組織と能力を目指すのならば、陸だけでなく、全自衛隊が海兵隊としての意識を持ち、3自衛隊のさらなる統合を目指す必要があるのではないでしょうか。

※この記事は、ブログ記事”dragoner.ねっと: 自衛隊に海兵隊機能を持たせる前に、そもそも海兵隊ってなんなのさ?<前編>及び<後編>”をYahoo!ニュース向けに改編したものです。