東京五輪は「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」になるのか~感染拡大の「収束」と「終息」

(写真:つのだよしお/アフロ)

最近の新聞やテレビのニュースをみると、新型コロナウイルスに関するものがほとんどだ。その中でしばしば用いられるのが「しゅうそく」という言葉だ。新聞の記事やテレビのテロップには、「収束」と「終息」のふたつの異なる漢字が使われているが、適切に使い分けがなされているだろうか。

「収束」とは「混乱した状態がいったん落ち着くこと」であり、「終息」とは「混乱した状態が完全に終わったこと」を意味する。つまり、感染拡大が「収束」するのと、「終息」するのでは、感染症パンデミックのステージとしては全く異なる次元の話だ。世界は今、感染拡大が続き、「終息」はもちろん、「収束」の時期も全く見通せない段階だ。

そのような状況の中で、東京五輪の開催時期が、2021年7月23日から8月8日に決まった。本当に1年程度の延期で、東京五輪を「完全な形で実現」できるのだろうか。国際オリンピック委員会(IOC)の延期日程の決定を拙速ではないかと批判する海外メディアもある。

1年後に東京五輪・パラリンピックを開催するために、競技会場、宿泊施設、移送手段、追加財源などの確保や、代表選考のあり方など課題が山積していることは言うまでもない。ただし、最大の課題は、新型コロナウイルスの感染拡大を「収束」ではなく、「終息」できるかどうかだ。

3月26日以降、東京都の小池知事はなんども緊急記者会見を開き、「感染爆発の重大局面」にあると危機感を露わにしている。在宅勤務の要請や不要不急の外出の自粛、特に夜間の接待を伴う飲食店の利用を控えるなど、三密(密集、密閉、密接)の環境を避けることを訴えている。

欧州連合(EU)では都市封鎖を行う国が続くものの、医療崩壊が深刻化している。いったん収束しても集団免疫ができるまで、再度感染リスクが高まる可能性もある。日本医師会が「医療危機的状況宣言」を発したのも、医療崩壊が現実のものとなる前に感染爆発を回避しなければならないからだ。

安倍首相は来年の東京五輪を、「人類が新型コロナウイルスに打ち勝った証」とすると述べている。それには感染拡大が「収束」に向かい、世界のパンデミックの完全「終息」宣言が出ることが必要だ。五輪・パラリンピックは、世界が平和で安定した社会状況で初めて開催できるものだ。

今後、医療崩壊のみならず、多数の企業が倒産し、大量の雇用が喪失する経済崩壊が起こればオリンピックの開催どころではない。世界中が新型コロナウイルス戦争に立ち向かい、日本も国民や企業に社会経済活動の自粛を要請する中で、現在は感染拡大の収束に全力を傾ける時だ。

五輪の延期日程は、少なくとも新型コロナウイルスの感染拡大が「収束」してから決めるべきではなかったか。今後、雇用不安が広がり、将来の暮らしの見通しが立たない人も増え、五輪の1年延期という政治決断に納得できない人も多いことだろう。夢を与えるはずの五輪開催が、ウイルス感染拡大の「収束」と「終息」の足かせになっては本末転倒だ。