遠のく「中東和平」~大国が分断するパレスチナと聖地エルサレムの行方

(写真:アフロ)

世界地図を眺めていると、不自然な直線状の国境線がいくつも存在する。アフリカ大陸では、エジプト、リビア、スーダン、チャド、アルジェリア、マリ、モーリタニアなど枚挙に暇がない。ヨーロッパの列強が、自ら支配した植民地の領土を、政治的に画定したためだ。

本来の国境線とは、暮らしや地勢上の条件に基づくものだ。人為的な直線状の国境は、部族や多くの人々の暮らしを分断する。その結果、国家の範囲が、民族・宗教・文化的な領域と齟齬をきたし、国境付近では大きな軋轢が生じて、さまざまな紛争が起こる。

中東地域を見ても、サウジアラビア、オマーン、イラク、ヨルダン、シリアなどには、多くの直線状の国境が存在する。大勢の難民が発生しているシリアの内紛状態の背景には、歴史上の作為的な国境線の画定があるだろう。

先日、米国トランプ政権が新たな中東和平案を公表した。パレスチナ国家の樹立を認める一方、ヨルダン渓谷や西岸地区のユダヤ人入植地をイスラエル領に組み込み、エルサレムを不可分の首都とするなど、かなりイスラエル寄りの和平案だ。

2018年5月、米国はイスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。国際的にはイスラエルの首都はテルアビブだが、日本の旅行ガイドブックにも、すでに首都をエルサレムと記述しているものがある。

エルサレムはユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地で、狭い旧市街には3つの宗教が共存している。だが、街中には無数の監視カメラが据え付けられており、若い兵士が自動小銃を携行している。イスラエルはパレスチナ自治区との間に高い分離壁を設け、人や物の動きを厳しく監視・制限し、パレスチナ人に不自由な生活を強いている。

川(river)が競争相手(ライバル)の語源となったように、水利権をめぐって部族同士が争い、川が国境線になることもある。イスラエルとパレスチナ双方にとって、ヨルダンとの間を流れるヨルダン川やヨルダン渓谷の獲得は、まさに国の命運をかけた重大事なのだろう。

ヨルダン川西岸のパレスチナ自治区のユダヤ人入植地を容認することで、パレスチナ国家の領土は虫食い状に分断される。当事者の合意のない第三者の大国による国境線の画定等は、緊張感を高め、紛争の火種を残し、ますます中東和平の実現を遠ざけるだろう。

1月27日、ユダヤ人の大量虐殺(ホロコースト)の現場となったポーランドのアウシュビッツ強制収容所が解放されて75年になる。現地では各国首脳が招待され、同じような惨劇を二度と繰り返さないことが誓われた。パレスチナ国家の樹立を求める人々の姿は、長く迫害され続け、ようやく国家を手にしたイスラエルの人々の姿と重なっているようにもみえる。