ゴーン被告の海外逃亡はどうして可能だったのか~海の向こうは「外国」という国・日本の出入国管理

(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

新年早々、多くの人が強い関心を寄せた出来事に、日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告の海外逃亡事件がある。逃亡の状況がわかるにつれて、スパイ映画さながらの逃避行に驚いた。東京オリンピック・パラリンピックの開催を半年後に控え、国際テロに対する監視強化のために出入国管理に目を光らせているはずの日本で、どうしてこのような逃亡劇が可能だったのか。

日本では自国以外の「外国」を「海外」と表現することが多い。海外出張や海外留学、海外旅行など、「外国」=「海外」なのだ。海に囲まれた島国で、海の向こうは「外国」という国・日本では、陸地上の国境という感覚が乏しいのかもしれない。

ヨーロッパやアフリカ大陸のように多くの国が地続きで国境を接している地域では、明確な国境線があり、日常的に意識せざるを得ない。もちろんEU(欧州連合)のように、一定の条件を満たした国家間では国境を自由に往来でき、あまり国境を意識しない地域もある。

一方、中東やアフリカ諸国では厳密に国境管理が行われ、人や物の動きが厳しく監視・制限されている。今回ゴーン被告の逃亡先のレバノンやシリア、イスラエルなど中東地域では軍事的な衝突が頻繁に起こり、平和な状況下にある日本とは国境管理の厳しさに雲泥の差がある。

昨年、イスラエルを旅行したが、街中に監視カメラが据え付けられており、若い男女の兵士が自動小銃を携行していた。現地ガイドの説明では、街で荷物を置き忘れるとテロのための危険物とみなされてすぐさま没収されてしまうという。平和で安全な社会に暮らすわれわれには実感しにくいことだが、日常生活の安全対策としては当然のことなのだろう。

宗教対立も深刻なイスラエルでは、パレスチナ自治区との間に高い分離壁が設けられている。レバノンで育ったゴーン被告にとっては、日本の出入国管理を突破することなど容易だったのかもしれない。日本が「外国」=「海外」という地勢的な防衛力に恵まれた国家であるがゆえに、国境管理に甘さがあったのだろうか。

今年のオリンピック・パラリンピックには世界中から大勢の外国人が訪日する。プライベートジェット機を使って中東から来る富裕層もいるだろう。外国人に対するおもてなしが過剰警備になってはいけないが、出入国管理にスキがあってはならない。

世界地図を眺めていると、中東やアフリカには不自然な直線状の国境がいくつも存在する。それは領土を政治的に分割した証でもある。国家の境界が宗教・民族・文化的な領域と一致するとは限らず、国境付近では大きな軋轢が生じて日常的に緊張感が漂う地域も多い。

ゴーン被告の海外逃亡は、普段は国境を意識することの少ない日本人にとって、グローバル時代の国境管理の重要性をあらためて思い起こさせる事件だったのではないだろうか。