魅せる「アート」のちから~日本社会を持続可能にする地方創生の実現に向けて

地中美術館のアプローチ「地中の庭」(2019年7月23日、筆者撮影)

初めて香川県・直島(なおしま)を訪れたのは、18年近く前のことだ。建築家の安藤忠雄さんと光のアーティスト、ジェームズ・タレルさんが協働した「家プロジェクト」のひとつ「南寺」を観た。その時の不思議な体験と感動は、今でも深く記憶に刻まれている。

瀬戸内海の「ベネッセアートサイト直島」には、草間彌生さんの「南瓜」や安田侃さんの「天秘」など数多くのアート作品がある。安藤忠雄さんの「直島」建築には、ホテルと美術館を複合したベネッセハウスや小高い丘の上の「オーバル」という素敵な宿泊施設もある。

2004年には同氏の設計した地中美術館が開館した。名称の通り施設のほとんどが地中に埋設されており、全体像は上空からの写真でしかわからない。館内には、クロード・モネの「睡蓮」が5点、ウォルター・デ・マリアの作品が1点、ジェームズ・タレルの作品が3点、展示されている。

航空写真からはいくつかのトップライトや中庭が見える。一般的に美術館の作品展示には、スポットライトなどの人工照明を使用することが多いが、地中美術館では地中にあるにもかかわらず、多くの作品が自然光の下で鑑賞できる。

人工照明では光の当て方で作品の印象が大きく異なるが、自然光の場合は刻々と作品の表情が変化する。地中美術館ではモネの睡蓮を屋外環境に近い状況で観ることができるのだ。また、美術館へのアプローチには、「地中の庭」というモネが愛した池や草花の原風景が展開する。

安藤さんの「直島」建築であるベネッセハウスやオーバルも魅力的なアプローチが待っている。2010年に開館した李禹煥(リー・ウーファン)美術館は、数十メートルも続く高いコンクリート壁によるアプローチがあり、京都・銀閣寺の庭園に至る長い生け垣をも連想させる。

直島は3年に一度開催される瀬戸内国際芸術祭の会場のひとつだ。直島には安藤さんのベネッセ関連の建築の他にも7つの「家プロジェクト」など興味深いアート作品が多い。その魅力に惹かれて国内外から大勢の観光客が瀬戸内の小さな島々を目指してやって来る。

地方では少子高齢化と人口減少による過疎化が進み限界集落も増えているが、有効な解決策を見出せない地域も多い。地方創生には、地方に人口が定着するための雇用の確保と地域経済の活性化が不可欠であり、魅せる「アート」の果たす役割は大きい。

わずか人口3,000人ほどの直島に年間50万人以上、芸術祭開催年には70万人以上の観光客が訪れる。瀬戸内国際芸術祭の特徴は、サイトスペシフィックアート*が多いことだ。単に観光客を呼び込むのではなく、地域住民、観光客、アーティスト、ボランティアなどによる地域を巻き込むコミュニティ・アート活動は、日本社会を持続可能にする地方創生の実現に大きく寄与するだろう。

  • 特定の場所に存在するために制作された美術作品および経過のこと(Wikipediaより)