魅せる「アート」のちから~大勢の外国人観光客が訪れている瀬戸内国際芸術祭2019

豊島美術館(2019年7月24日、筆者撮影)

瀬戸内海に浮かぶ人口約800人の香川県・豊島(てしま)。70年代からこの小さな島で起こった産業廃棄物の不法投棄は、大量消費時代を象徴する大きな社会問題となった。90年代から近年まで産業廃棄物の撤去・処分が進められ、豊島はようやく文字通り「豊かな島」に戻った。

豊島は3年に一度開催される瀬戸内国際芸術祭(以下、瀬戸芸)の会場のひとつだ。瀬戸芸は直島や小豆島など瀬戸内の島々および宇野と高松を会場とし、豊島にも多くの作品がみられる。初回となった2010年には、豊島の北側の唐櫃(からと)の丘に豊島美術館がオープンしている。

豊島美術館は美しく再生された棚田を望む緑の木々に覆われた丘に溶け込むようにたたずむ。その姿は宇宙から舞い降りたUFOのようにもみえる。棚田越しにみる瀬戸内海のパノラマは実に美しく、深い緑の広がる丘に白いシェル構造の建築物が映える。

美術館と言えば絵画や彫刻などの作品を展示している施設を連想するが、豊島美術館は既存の美術館の概念からは少しかけ離れている。西沢立衛さん設計のコンクリート造の無柱空間に、内藤礼さんの「母型」という作品だけが内包されている。

コンクリートの床から小さな水滴が所々で湧きだし、まるで生き物のように変幻自在に動く。屋根に穿たれた大きなふたつの開口部から豊かな光が差し込み、刻々と影が移ろい、さわさわと風が吹き渡り、周囲の木々の葉がすれる音が風に乗って流れ込み、館内を満たしてゆく。

人々は床に座ったり寝そべったり、じっと立って水の動きを追っている人もいる。みんなが思い思いに自分の居場所をみつけ、空間の心地よさを味わっている。「母型」というタイトルは、記憶にはない生まれる前の母胎の中にいるような経験を連想させる。

美術館で作品と対峙すると自分との間で何かが生じる。豊島美術館の場合、作品と建築空間が共鳴し、風、光、音、緑、空、水などすべてが人間の五感に作用する。その体験は自己の存在の再確認を通じて「生きていること」、すなわち「生命(いのち)」を強く実感させるものだ。

今回で4回目となる瀬戸芸は海外でもよく知られているのか、外国人観光客も大勢訪れる。日本国内からでも手軽に行ける場所ではない瀬戸内の島々にわざわざ多くの外国人が来ることに驚く。豊島美術館など瀬戸芸が魅せる「アート」のちから故だろう。

来年は東京オリンピック・パラリンピックがあり、訪日外国人4000万人時代も近づいている。瀬戸芸の玄関口になる高松空港は韓国、中国、台湾から国際線が乗り入れ、多くの外国人観光客が降り立つ。東京や大阪、京都だけでなく、地方を直に訪れる外国人観光客による内なる国際化が、日本発のアートの素晴らしさ再発見につながる。瀬戸芸2019、多くの人たちに観てもらいたい。