「電子政府」という人口減少時代の針路~「ガラケー」国家 vs.「スマホ」国家

(写真:アフロ)

今年3月、バルト三国を旅した。一番北に位置するエストニアは、人口130万人、面積は日本の九州よりやや大きい程度だ。城壁に囲まれた首都・タリンの旧市街地は、1997年にユネスコの世界遺産に登録された。多くの美しい教会が建ち並び、旧市庁舎前の広場や緩やかに曲がった石畳の道を歩いていると、中世にタイムスリップしたような錯覚に陥る。

エストニアは日本人にあまりなじみのない国だが、2013年に大相撲を引退した元大関把瑠都(カイド・ホーベルソンさん)の出身国だ。ちょうど旅行中にエストニアの国政議会選挙があり、与党・中央党から出馬した同氏はいったん落選したものの、その後、同じ選挙区の当選者が辞退したために繰り上げ当選したそうだ。

この古い歴史的な街並みからは、エストニアが世界有数のIT国家だと想像する人は少ない。われわれもよく使うスカイプ(Skype)をつくった国なのだ。同国は1991年旧ソビエト連邦からの独立以降、「電子政府」の構築を目指してきた。2004年にEU(欧州連合)およびNATO(北大西洋条約機構)に加盟、2008年にはNATOサイバー防衛協力センターが同国に置かれている。

エストニアの15歳以上の国民は、日本のマイナンバーカードのようなIDカードを有する。それは運転免許証、健康保険証、交通定期券などを兼ねており、納税から薬の処方までほとんどの行政住民サービスをカバーしているそうだ。2005年の地方選挙以降は、先の国政議会選挙も電子投票が導入されており、国外からでも投票できるという。

エストニアが電子政府を推進する背景には、近隣諸国の脅威から国家を守ることや人口密度の低い国土で行政サービスを効率的に提供するためなどの国家戦略が伺える。旧ソ連時代には情報産業を担うことでIT人材が豊富だったことも影響している。2014年には外国人に対してもインターネット経由で行政サービスを提供する「電子居住権」(e-Residency)制度を導入した。

エストニアから帰国後、有効期限が近づいたパスポートの更新をした。外務省ホームページをみると、昨年10月から「ダウンロード申請書」による受付申請が始まり、パスポートセンターで申請書を書く煩わしさがなくなった。しかし、申請自体は相変わらず窓口でしかできず、中途半端な行政サービスの電子化対応は非効率で時間的、経済的損失は少なくないと思われる。

エストニアが古い中世の街並みを残しながらもITの先端を行く「スマホ」国家だとすると、日本は近代的超高層ビルが建ち並ぶが、行政サービスの電子化もままならない「ガラケー」国家かもしれない。エストニアの「電子政府」構築の試みは、少子高齢化や人口減少が迫りくる日本にとって、社会コストの削減や地方創生のための針路としておおいに参考になるだろう。