オリンピック・パラリンピックが映す現代社会~「拡大」から「成熟」の時代の都市インフラ整備

(GYRO PHOTOGRAPHY/アフロ)

再生される首都高速道路

2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催まで残り1年あまりとなった。1964年の東京大会当時と比べると、日本社会の大きな変化を実感する。前回大会のとき、日本は高度経済成長の真っただ中にあり、東海道新幹線が開業し、首都高速道路が一部開通した。

建設から半世紀以上が経つ首都高は、老朽化や損傷が著しい。首都高は64年大会に間に合うように短期間で供用するため、河川や堀などの上空を利用して整備が進められた。そのため急カーブが多く、水辺空間を喪失するなど安全面や都市景観面に大きな課題を残してきた。

国土交通省は2012年に首都高の再生に向けた提言書を出している。特に最も老朽化している都心環状線は撤去の可能性を含めて具体的な再生策が検討されている。2017年には「首都高日本橋地下化検討会」が設けられ、東京・日本橋周辺の地下化計画も進んでいる。

成熟時代の都市インフラのあり方は大きく変わり、アメリカ・ボストン市では市街地を分断していた高速道路を地下に埋設し、上部を公園や商業施設として活用している。韓国・ソウル市では都心の高速道路を撤去し、水辺の景観を修復し、都市の賑わいを取り戻した。

国の重要文化財である日本橋の上部を覆っている首都高が、日本の高度経済成長を象徴する“産業遺産”になる日もそう遠くないのかもしれない。

都市を魅せる路面電車

かつて大都市で活躍した路面電車は、自動車交通に取って替わられ、多くの都市で廃止されてきたが、近年では復活の動きが見られる。コンパクトシティを標榜する富山市では、人と共存できるあらたな公共交通機関として路面電車が再認識され、路線の拡張が続いている。

かつて東京でも新橋から日本橋まで都電が走っていた。そこで、銀座通りに再び路面電車を走らせてはどうだろうか。テーマパークのアトラクションライドのような街を“魅せる”ための乗り物だ。乗客はゆっくり街を眺め、街の風景を楽しむことができるだろう。

2018年の訪日外国人は3,000万人を超え、日本政府は2020年に4,000万人を目標としている。東京が世界的な観光都市になるためには、交通インフラ整備も経済効率性だけでなく、都市のにぎわいを演出するひとつの手段と考えるべきだろう。

これからの街づくりには、橋の上に飲食店をつくれるような都市計画関連法規に見直すことも必要だ。夜景や水辺をデザインし、心地よさや魅力を増幅する都市を“魅せる”総合的都市プロデュースとその実現に向けた斬新な仕掛けや規制緩和が求められる。

ヒト中心の「歩車共存」

高度経済成長期はモータリゼーションが進展した時代でもあった。急増する自動車交通対策として「歩車分離」が図られ、多くの横断歩道橋がつくられた。しかし、近年では高齢化による利用者の減少や施設の老朽化、維持管理の負担の大きさのために撤去が進んでいる。

地方自治体は歩道橋の撤去後に信号機付きの横断歩道を設けたり、だれもが安全に安心して横断できる昇降機付きの横断歩道橋を設置したりしている。「歩車分離」ではなく、子どもや高齢者などの歩行者を優先するヒト中心の「歩車共存」の街づくりが必要だ。

一方、高齢化により移動困難者が増えることが予想され、自動運転技術を生かしたあらたな交通・物流体系をどう構築するかが大きな課題だ。鉄道やバスなど人を効率的に大量移送できる公共交通機関に加え、買い物や通院など日常生活を支援するパーソナルな移動手段がますます重要になってくるだろう。

「アクセシビリティ」というレガシー

国際パラリンピック委員会(IPC)は、東京大会の22競技、537種目を決定した。参加選手は史上最多の4,400人になるという。世界からオリンピック・パラリンピックに訪れるアスリートや観客の中には、車いすを利用する人も多く含まれるだろう。

日本では1994年に「ハートビル法」、2000年に「交通バリアフリー法」、2006年には両法を統合した「バリアフリー法」が施行された。2017年には国土交通省が2020年東京オリンピック・パラリンピックを契機に「バリアフリー法及び関連施策の見直しの方向性」をまとめている。

基本となる視点の一つは、高齢者や障害者等の社会参画の拡大の推進を図ることだ。2020年東京オリンピック・パラリンピックのレガシーとして、だれもが容易に交通機関を利用できる「アクセシビリティ」を確保し、共生社会と一億総活躍社会の実現が期待される。

64年大会から半世紀以上が経過して開催される2020年大会は、世界の人々に対してあらたな共生社会のモデルを提示することができるかが問われている。「拡大」から「成熟」の時代へ移行したオリンピック・パラリンピックは、日本の現代社会の姿を如実に映し出している。