「泊食分離」という観光施策~訪日客「4千万人」時代に向けて

(写真:アフロ)

訪日客「3千万人」時代

日本政府観光局(JNTO)によると、2018年前半(1月~6月)の訪日外客数は約1,590万人、今年末までに3,000万人達成は濃厚になってきた。2年後に東京五輪とパラリンピック開催を控え、2020年に4,000万人の政府目標も夢ではないだろう。今後2年間でさらに1,000万人の訪日客を増やすためには何が必要だろうか。

『平成30年版観光白書について』(観光庁、平成30年6月)をみると、2017年の訪日客2,869万人の84.8%をアジア地域が占めている。訪日客の旅行消費額は4兆4,162億円で、費目別では買物代が37.1%、宿泊費が28.2%だ。一人当たり旅行支出は、中国からの訪日客は買物代が非常に多く、地理的に遠い欧米豪諸国は宿泊費の支出が多くなっている。

日本国内における旅行消費額26.7兆円のうち、訪日外国人のシェアは16.5%だ。日本人と外国人の延べ宿泊者数は4億9,819万人泊だが、日本人の延べ宿泊者数は減少している。一方、外国人は増加傾向にあり、全体の15.7%を占めている。今後、訪日外国人とその旅行消費額の増加を促すには、アジアをはじめとする訪日客の延べ宿泊者数を増やすことが重要だ。

「泊食分離」が進む旅館業界

最近の温泉旅館の予約サイトをみると、「食事なし」の宿泊プランをよく見かける。これまで温泉旅館といえば「1泊2食付き」が基本で、夕食には豪華な会席料理が出され、朝食も食べきれないほどご馳走が並ぶことが多かった。しかし、近年ではホテル同様の素泊まりや朝食のみのプランなど、「宿泊代」と「食事代」を分けた「泊食分離」の傾向がみられる。

観光庁が今年4月に公表した『宿泊施設の地域連携に関する調査事業』の結果によると、温泉街に立地する旅館・ホテル等のうち「泊食分離」を実施している割合は20.1%、今後取り組みたい意向は24.0%となっている。インバウンドに積極的に取り組んでいる宿泊施設では、40.7%が「泊食分離」を実施している。

「泊食分離」にあたり他施設との連携については、「宿泊施設外の飲食店との連携」が43.5%と多い。軽井沢のとある高級温泉旅館では、宿泊客に多様な食事の選択肢を提供するために周辺にさまざまなレストランを設けている。観光ニーズが多様化する今日、客室や食事などに豊富な選択肢を提供できるかどうかが、リピーターを含む観光客誘致の鍵を握っている。

「泊食分離」のメリット

「泊食分離」のメリットはいろいろある。訪日外国人の観光目的のひとつは温泉を楽しむことだが、豪華な食事を求めていない外国人には、低価格で温泉旅館に泊まることができる。また、連泊をする場合でも同じような料理に飽きる心配がない。日本人のプレミアムフライデーなどを利用した週末の仕事帰り旅行では、夕食の時間帯に間に合うかどうか気遣う懸念もない。

一方、旅館側にとっての「泊食分離」の効果として、「人手不足が解消」、「コストが削減」、「顧客満足度が向上」などが挙げられる。好きな時に好きな場所で好きなものを食べたいという旅のライフスタイルも大きく変わりつつある。「泊食分離」の促進が、深刻化する施設側の人手不足を解消し、訪日客の多様なニーズに応えることにつながるだろう。

近年の訪日外国人の消費額は全体では増えているものの、一人当たりでは減少傾向にある。外国人の延べ宿泊者数は地方で大きく伸びているが、タイプ別の客室稼働率をみると「旅館」は4割未満と各種ホテルに比べて低い。今後、地方の温泉旅館が多様な訪日客のニーズに応える「泊食分離」などのサービス提供をすることが必要だ。そのためには訪日客の飲食施設の利用を容易にするキャッシュレス決済のインフラ整備とその普及が不可欠であろう。