多死社会の「最期」を考える(その1)~長寿化で増える「老衰死」

(ペイレスイメージズ/アフロ)

日本は「少産多死」社会

日本人の2016年の平均寿命は、男性80.98歳、女性87.14歳、65歳以上の高齢者人口が全人口に占める割合である高齢化率は27.3%だ。日本はまぎれもなく世界トップレベルの長寿国であり、高齢先進国だ。

厚生労働省の『平成29年(2017)人口動態統計の年間推計』(平成29年12月22日公表)によると、2017年の出生数は94万1,000人、死亡数は134万4,000人。人口の自然減は40万人を超え、日本は「少産多死」の少子高齢・人口減少社会なのだ。

日本の過去100年間の出生数と死亡数の推移をみてみよう。出生数は1920年代から30年代にかけて概ね200万人程度で推移し、戦後1947年から49年には第1次ベビーブームが起こり270万人ほどに増えた。その後は減少傾向をたどり、1971年から74年に第2次ベビーブームが到来、再び200万人台を回復する。その後は少子化傾向が続き、2016年に初めて100万人を割り込んでいる。

一方、死亡数は1920年代から30年代にかけて120万人程度で推移し、戦後は急速に減少、50年代から80年代にかけて80万人を下回った。その後は高齢化の影響で死亡数は徐々に増え、2003年以降は100万人超えが続いている。

出生数から死亡数を差し引いた自然増減数は、第1次ベビーブームでは170万人以上の、第2次ベビーブームでは130万人の自然増がみられた。しかし、その後は少子化と高齢化が相まって急速に自然増が縮小、2005年以降は自然減に転じ、年々、人口減少は拡大している。

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増加する「老衰死」

日本は本格的な「少産多死」社会だ。平均寿命が延びる一方、健康寿命との差は広がり、高齢者の要介護期間は長くなっている。高齢者がどのような「死」を迎えるのかは、高齢期をどう生きるのかと表裏一体になり、われわれは長寿時代の「生き方」と同時に「逝き方」を考えることが必要な時代を迎えている。

2015年の日本人の死因は、第1位が悪性新生物(がん)、第2位が心疾患、第3位が肺炎、第4位が脳血管疾患、第5位が老衰だ。75歳以上の後期高齢者に限れば、老衰は男性死因の第4位、女性死因の第3位だ。

老衰死亡率は、戦後の医療や検査技術の進歩により低下傾向にあったが、2000年以降は上昇に転じている。長寿化の結果、高齢者の自然死とも言える老衰による死亡数が増加しているのだ。

厚生労働省死亡診断書記入マニュアルには、『死因としての「老衰」は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる』とあるが、医学的定義は明確ではない。近年では、長寿化により加齢に伴う疾患を有する高齢者も多く、医学的に「老衰死」を定義することは難しくなっている。

長寿化の結果として、自然死ともいえる老衰で亡くなる高齢者が増加する背景には、本人や家族が延命治療を望まないこともある。老衰が増えることで病院死が減り、在宅死や福祉施設での施設死が増える傾向もみられる。

高齢社会に必要な医療の役割の変化は、急性期医療に対して慢性期医療の需要が大きくなっていることだ。今では高齢者の慢性疾患にきめ細かく対処するための「かかりつけ医」や在宅診療を担う地域医療機関の重要性が一層増している。

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「病院死」か「在宅死」か

厚生労働省「人口動態統計」をみると、2016年に死亡した131万人のうち医療機関である病院と診療所で死亡した人(以下「病院死」)が75.8%、福祉施設である老人保健施設と老人ホームで死亡した人(以下「施設死」)が9.2%、自宅で死亡した人(以下「在宅死」)が13.0%となっている。

一方、1951年の「病院死」は11.7%、老人ホームを含む「在宅死」は82.5%だった。その後、「病院死」が増加し、76年に「在宅死」を上回り、99年に8割を超えた。

医療機関における死亡が5割程度である欧米諸国に比べると日本の「病院死」の割合はきわめて高い。しかし、老衰が増えることで自宅や福祉施設で亡くなる人も増加し、近年では「在宅死」と「施設死」の合計が2割を超えている。

「病院死」の割合が高い背景には、戦後の医療の発展および国民皆保険制度により、だれもが過大な負担なく終末期医療を享受できたことがある。また、核家族化の進展でひとり暮らし高齢者が増え、在宅での看取りが難しくなったこともあろう。

高齢化が進展した今日、自宅で最期を迎えたいと願う高齢者が増えているものの、訪問診療や訪問介護が十分活用されていないために、「在宅死」が難しい状況にあるのかもしれない。

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高齢者が在宅における老衰死を迎えるためには、訪問医療と訪問看護の充実および医療と介護の切れ目ない連携が必要だ。特に加齢により通院も難しくなる中で、高齢者が自宅で最期を迎えるためには在宅医療の充実が欠かせない。

終末期医療という人生の最終段階における医療には、緩和ケアなども含めた本来の生活の質(QOL)を維持・回復する「支える医療」が求められる。

かつて「在宅死」が一般的だった時代、多くの人が親や祖父母などの近しい人の最期を自宅で看取り、その経験から「死」の迎え方を学ぶことができた。今では「死」を病院に委ね、家族や自らの「死」について考える機会が乏しい時代になってしまった。

日本社会は長寿化を実現する一方、われわれは「老衰」という徐々に身体機能を低下させながら「死」に向かう自然のプロセスに向き合っている。多死社会の中で、どのようにして幸せな「最期」を迎えることができるのかが問われている。