ルポ「ヘブロン――第二次インティファーダから20年――」(第5回)

処刑現場を撮影したパレスチナ人の家に押しかけた兵士(撮影・イマードの家族)

【処刑現場を撮影した人権活動家】

 その日の朝、人権活動家のイマード・アブシャムシーエが妻とコーヒーを飲んでいる時だった。突然、家の近くで発砲音が聞こえた。イマードは様子を見るために、外に出た。妻が追ってきて、カメラをイマードに手渡した。

 現場に近づくと、路上に灰色の上着を着た青年が倒れていた。頭や顔から血が流れ出ていた。取り囲んでいるイスラエル兵たちがその青年を蹴ったので、彼がパレスチナ人だとわかった。

イマードが撮影した処刑直前の現場。倒れている手前の青年がこの直後に処刑された。(撮影:イマード・アブシャムシーエ))
イマードが撮影した処刑直前の現場。倒れている手前の青年がこの直後に処刑された。(撮影:イマード・アブシャムシーエ))

 その近くに、黒い上着とズボン姿のもう一人の青年も路上に横たわっていた。わずかに動いたので、まだ生きているのがわかった。

 その直後だった。一人の兵士が近づいてきて、その青年にM16の銃口を向けた。「バーン!」という銃声と共に、青年の頭部の一部が砕け、血が噴き出した。イマードのカメラがその瞬間をとらえていた。

 その発砲の直後、兵士の近くにいた入植者が、カメラを構えたイマードに気づいた。その入植者がイスラエル軍の将校の1人に伝えると、イマードはその現場から追い返された。しかし、イマードはすでにその決定的な瞬間を撮影した後だった。

急いで家に帰ったイマードはその映像をインターネット上に投稿した。そのスクープ映像は、瞬く間にイスラエル内外に拡散されていった。

 世界の放送局や人権団体でその映像が公開されると、世界に大きな衝撃を与えた。イスラエル国内でも大問題となり、軍や情報機関もその対応に奔走した。

 イマードは直後にイスラエルの諜報機関に召喚され、カメラのオリジナル映像は押収された。しかしその映像はすでに世界中に拡散された後だった。イマードはその映像を世界のメディアに無償で提供した。

 イマードへの脅迫が始まったのは事件当日の夜だった。すでにその映像がイスラエル社会に大きな衝撃を与えていた。

 イマードに脅迫電話がかかり始めた。訛りのきついアラビア語で、「イマード・アブシャムシーエか?」と問われた。イマードが「そうだ」と答えると、相手は「お前は撮影したことを後悔するだろう。お前と家族を燃やす」と言った。

 イマードをとりわけ悩ましたのは、インターネットによる度重なる脅迫だった。とりわけイスラエルの極右勢力「カハ」から頻繁に脅迫メールが送られてきた。

 「お前はアラブ人 イスラム教徒の馬鹿野郎!」「臭い障害者よ。お前を殺す!」「障害者よ お前の脚を撃つ」「売女の息子め!テロリストは地獄へ一直線に進め」「アラブの豚 私の国から出て行け!征服者より」

イスラエルの極右勢力からの脅迫メール。(撮影:筆者)
イスラエルの極右勢力からの脅迫メール。(撮影:筆者)

 映像を公開した翌日の午後には、100人ほどの入植者たちが集まり、イマードの家に押し入ろうとした。幸い、イスラエル警察が介入し、入植者の侵入は回避された。しかし脅迫や嫌がらせは、さらに続いた。イスラエル兵が家の前に常時、待機し、イマードの家に出入りする者は全員検査されるようになった。親戚など来客の訪問も禁じられた。イマードは仕事に出ることも難しくなった。

 兵士や入植者が早朝から屋上に上がってきて、眠れないこともあった。外出中に家が狙われる心配があり、家を空けられなくなった。イマードか妻のどちらかが必ず家にいるようにしなければならない。

 外に出るといつも、攻撃される危険があった。入植者が嫌がらせをしたり、車で轢こうとしたり、唾を吐きかけ、罵ったりと様々な形で攻撃してきた。

 「生きている心地がしません。毎日、死を覚悟します。出かけたら戻れないかも、家にたどり着かないかもと思ってしまいます」

イマード・アブシャムシーエ。(撮影:筆者)
イマード・アブシャムシーエ。(撮影:筆者)

 「あの現場を撮影したことを後悔していませんか?」と私は訊いた。

 イマードは「自分のやったことに全く後悔はありません」と言い切った。

 「私にとって記録することの意味ですか?それは一種の“メッセージ”です。“占領”の犯罪を白日の下にさらし、次世代に“占領”の残忍さを伝えることであり、パレスチナ人を抑圧から解放せねばならないことを伝えるのです。『伝える仕事』を辞めようとは思いません」

 「脅迫や嫌がらせを受け続け、“占領”という怪物に対して独りで闘っているように感じます。それでも撮り続けようと思うのは、パレスチナ人の視点を世界に伝え、“占領”の犯罪、子どもや大人たちが殺されている現状を証明するためです」(続く)