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緊急報告「ガザが危ない!」・2   ―幼児3人の焼死―

土井敏邦ジャーナリスト
4歳から6歳までの3人の幼児が焼死し、嘆き悲しむ遺族と隣人たち

緊急報告「ガザが危ない!」・2

―幼児3人の焼死―

 事件が起きたのは、9月1日(火)だった。ガザ地区中部のヌセラート難民キャンプで、3人の幼児が焼死した。ユーセフ(6歳)、ムハマド(5歳)、マフムード(4歳)の3人の幼子である。

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 事件直後に父親のオマル・アルハジーンが逮捕された。封鎖による経済崩壊、失業と貧困、電力不足による劣悪な生活環境、そして新型コロナウイルスによる外出禁止令によるさらに困難になった生活・・・。この過酷な環境のなかで、オマルは精神的に異常をきたし、3人の子どもの殺害に及んだと報じられている。しかしオマル自身は、停電で、ロウソクの火が子どもたちの部屋で引火したためと説明しているという。

3人の幼児が焼死した現場
3人の幼児が焼死した現場

 一方、ガザ住民たちの間では、「この事件の責任は父親にではなく、ガザを統治するハマスと十分な電力を供給できない電力会社にある」という声がSNSなどで広がっていると、ガザ在住の友人Mはメールで伝えてきた。

 今年、パレスチナでは異常気象で記録的な猛暑が続いている。その中で、現在、ガザでは電気が一日4時間しか供給されない。クーラーはちろん、扇風機さえ使えない。食料を保存する冷蔵庫も機能しない。さらに高層アパートで暮らす住民たちは、水を階上に汲み上げるポンプさえ使えず、生活用水にさえ事欠く。

 「猛暑だったこの夏、日本で、もし電気が4時間しかない状態が起ったら・・」と想像するとゾッとする。日本中、大パニックになったに違いない。しかし、ガザでは、それが「日常」なのである。

 一方で、新型コロナウイルスの患者は、9月2日には369人、9月5日には691人、9月6日には849人、そして9月8日には1149人とものすごい勢いで増えている。そのためハマス政府は外出禁止令を強化し、住民は昼夜問わず家にこもるしかない。Mから送られてくる写真では、街や通りはゴーストタウン化している。

人通りが消えたガザの街
人通りが消えたガザの街

病院はコロナの患者であふれ、一般の患者は治療を受けられない状況に陥っている。しかも封鎖下のガザでは外からの医療物資の搬入も容易ではない。医療物資は底をつきつつあるという。

 友人Mは、9月3日のメールにこう書いている。

 「私の家族もガザの他の家族同様、苦しんでいます。70歳前後の両親は新型コロナウイルスに感染するのではと怯えています。私の家族も親戚も、食料、医薬品それに料理用プロパンガスの不足に苦しんでいます」

 さらに9月6日のメールには「この3日間で4人の自殺者が出ました」と書き送ってきた。

ガザの医療現場は医療物資の不足と、医療スタッフの不足で麻痺状態に陥ろうとしている
ガザの医療現場は医療物資の不足と、医療スタッフの不足で麻痺状態に陥ろうとしている

(写真はすべてガザ住民の撮影)

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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