新しい年を迎えた。年男である横浜DeNAベイスターズ山本祐大選手は、今年の自身のテーマに「あつく」を掲げた。

 厚く、熱く、篤く…さまざまな意味を持つ「あつく」について、自身の思いを明かす。

元日は恒例の家族での練習
元日は恒例の家族での練習

■充実した昨季の中で見つかった課題

 自己最多の51試合に出場した2021年。先発マスクは33試合、そのうち試合終了までかぶったのは20試合。これまでの数字を大幅に塗り替えるキャリアハイを達成した。

 「こんなに出られたことがなかったんで、すごく充実した1年だったなと思う」。

 1試合でも、1イニングでも多くマスクをかぶりたいと意気込んでいた山本選手にとって、まさに自身が年頭に位置づけた「ターニングポイントの年」になった。

 しかし、もちろん満足しているわけではない。

 「だいぶ1軍にも慣れてきた感はあるけど、でも、試合で納得したことができたかといったら、できるかできないか…、いや、ほぼできていないくらいのレベルだった。それはおもにバッティングです。ダメダメすぎた。数字もだけど内容もひどくて…」。

 そうなのだ。残した打率は.131と、とうてい誇れる数字ではなかった。

 「正捕手になるにはこんなんじゃダメだし、それを痛感したシーズンだった。逆にそれを今年、プラス材料にしていこうとは考えている」。

 本人の言葉を数字が裏付ける。スタメンマスク33試合、そのうちフルでかぶったのが20試合。この勝敗は15勝4敗1分けで勝率.789だ。一方、先発出場しながら途中で下がった試合が13試合で、1勝11敗1分けで勝率.083である。

 要するに、試合中盤まで劣勢の場合は代打を出されるなどして交代を余儀なくされているが、リードしている展開だとそのまま終了まで任され、ほぼ勝利しているのだ。

 つまり、優勢劣勢かかわらず先発して最後までマスクをかぶって勝つためには、自身のバッティングを飛躍的に向上させることが急務ということになる。

弟・山本仁選手(神戸ビルダーズ)のバッティングを見る
弟・山本仁選手(神戸ビルダーズ)のバッティングを見る

■原因を究明

 そもそも過去の取材の中で、たとえばラミレス前監督は山本選手の打撃をいつも絶賛していた。「彼の打撃はいい。普通の人が何年もかかって習得する技術をすでに身につけている」と、何度も何度も繰り返していた。ファームの何人かのコーチからも「タイミングの取り方がうまい」「バットが内から出せるのがいい」「空振りが少ない」など讃える言葉を聞いてきた。

 だから、よもやこのような数字になろうとは思いもしなかった。

 そんな昨年の打撃について、実は心理状態が大きかったと山本選手は明かす。

 「正直、打てなくても守って勝てたら試合に出られるっていう感覚が少しあったんで、それがよくなかったところだと思う。打てなくても勝ったほうが嬉しかった。キャッチャーとして仕事ができたというか、チームとしての達成感があった。もちろん打って勝てばよかったんですけど…」。

 打ちたい気持ちは当然ある。しかし自身が打った試合で勝てないことも何度かあった。若い捕手が「勝てないと次戦は使ってもらえない」という思考になるのは無理もない。

 守備と打撃、常にどちらも貢献できるというのは難しい。それならば、まず守りでしっかり仕事をして、「チームが勝つ」というところを喜びたかった。

 「守備がよかったらバッティングがダメでも自分の中で目をつぶって、守備でもっと頑張ろうっていう気持ちになっていた。それがよくなかった」。

 守備に必死だったのもあるが、「打つ」ことに対して執着が薄くなっていたのかもしれない。

■自分も打ってチームも勝つ

 シーズンが終わって再び自分と向き合い、多くの時間を使って自身がどうあるべきかをじっくり考えた。

 思い返せば一昨年までは「『打てないと1軍に上がれない』って、ファームでは打つほうも守るほうもって思ってやっていた」と、2020年はイースタンで打率.274を記録している。

 比して昨年の自身を分析してみると、明らかな違いがあった。やはりあらためて浮き彫りになるのは自身の打撃に対する意識の希薄さだ。

 「去年はやっぱり『守らないと』が強すぎて、打つほうは正直、疎かだった。打てなくて悔しいけど、守れて抑えて嬉しいというのが勝っちゃって、ダメな心理状態になっていた。守備で頭がいっぱいでバッティングができないとなると、正捕手は無理。まだまだそうだったなと自分の中で感じた」。

 己の力不足を受け止めるしかなかった。

後ろには父・芳仁さん
後ろには父・芳仁さん

 そこで導き出した答えは「負けても試合に出させたいキャッチャー」だという。

 「打てないから代えられるんじゃなくて、『勝てなくても打ってるから、こいつ使わないといけないよな』というキャッチャーになりたいと思って」。

 ずいぶんと極端な言葉だが、決して負けることを前提に話しているのではない。当然、勝ちたい。「勝たないとキャッチャーとしての価値はない」というのも変わらず持っているポリシーだ。

 しかし実際のところ、「キャッチャーで勝てた」のかどうかを計るのは難しい。

 「もし(マスクをかぶった試合で)勝率が8割あったとしても、打率が.120だったとしたら、『別にキャッチャーのおかげで勝ったわけじゃないだろ。打てるキャッチャーがいたら、もっと強くなれるんじゃないか』と思われて終わり。それに、やっぱり打てないと相手チームにプレッシャーをかけられないし、チームも乗っていかない」。

 つまり、それだけ打撃に対して今、並々ならぬ意欲を燃やしているということだ。

 「『チームが勝ったから自分が打てなくてもいいや』じゃなくて、『自分も打ってチームが勝つ』となるように、バッティングと守備は別っていうくらい、バッティングに対して自分の気持ちを乗せていきたいなと思っている」。

 今年は常に貪欲に、打撃での結果も追い求めていきたいと鼻息も荒い。

■厚みのある打球

 そこで今年のバッティングについて「テーマは『厚く』なんですよ」と自ら切り出してきた。「厚く打つ。厚みの厚。厚みのある打球を打つ練習をしている」という。

 「厚みのある打球」とはどういうことか。「薄い当たりってペラッていう打球で勢いがない。ちょっとこすってる打球で、ファウルになることが多い」と、まずは逆の「薄い打球」から解説する。

 「厚く打つとライナー性の打球とか、ライナーから伸びていくフライだったりというのが多い。力強い打球だなっていうのは、厚く打っている証しなので。もう、分厚く打つっていう感じ」。

 さらに詳しく説明を求めると「薄く打ってるときは、ボールに対して当たったインパクトが長くない。ボールとバットが当たったらコンッで終わり。でも分厚く打つには、当たってからググッていうちょっとの押しがある。噛んでいるような感じ」と語った。

 漫画でよく描かれるボールが餅のようにぐにゃりと曲がってバットにへばりついているような、そんなイメージだそうだ。

 「それをするには体幹の力も必要で、力が抜けないように打ち込む、前で押し込む。フライを打たない、低く強い打球を打ち込む練習を、今ずっとやっている」。

■ポイントを前に

 さらに打つポイントを前にした。「力が入るポジションって絶対にあるけど、ポイントが近すぎたら意外に押し込めない」と、これまでのポイントが近すぎたことに気づいたという。

 今年も師匠と慕う阪神タイガース梅野隆太郎選手の自主トレに参加させてもらっているが、気づいたきっかけは「ちょっと始動が遅い。窮屈じゃない?」という梅野選手からの助言だった。

 自分の中では窮屈なつもりはなかったが、あらためて動画を見ると、たしかに「めっちゃ窮屈になってる。これじゃ力が伝わらないな」と感じた。

 人より手足の長い山本選手にとっては「みんなが打ってる体の近くのポイントより、少し前のほうがいいんじゃないか」という結論に達し、ポイントを前にした。

 「まだピッチャーの球を打ってないし、変化球も入ってくるわけで、このポイントでずっと打ち続けられるわけじゃないけど、自分の力が入るポイントというのは理解できた。ここが打ち込めるポイントなんだなっていうのがわかったのは大きい」。

 それがわかった上で打ち込みを行っていると、「打球の強さがちょっと違うような気がする。すごく前で打てている感じがするので、無理にじゃなくボールがバットに乗っている感覚が少しずつ長くなっているような感じがする。感覚としてはすごくいい」と手応えは上々だ。

 上半身にはほぼ力を入れず、もっとも力の伝わるポイントでとらえて下半身で厚く打つ―。2022年版の打撃は今後も自主トレ、キャンプで振り込みを重ね、実戦を経て仕上げていく。

 相棒は今年も“梅野モデル”だ。昨年もらった梅野選手のバットと同じ型をミズノ社にリクエストし、カラーは黒白のポッキータイプにした。

 これで今季は強いライナー性の“分厚い打球”をどんどん飛ばして、打撃でもチームの勝利に貢献する。

梅野モデルのポッキーカラー
梅野モデルのポッキーカラー

■自覚をもって一人暮らし

 プロ入り5年目を迎えるにあたって、このオフには退寮し、「一人暮らしって自覚が必要になってくる」とあらためて気持ちを引き締めている。

 「やっぱり一人の時間が増える。すごく有意義というか、自分を見つめ直せるいい時間に使えているので、それが野球に対してもいい方向にいくんじゃないかなと思っている」。

 さまざまな家電をそろえた中で、お気に入りを紹介してくれた。

 「テレビですかね。48型だったかな。液晶がすごくきれいで見やすくて、ネットフリックスとかYouTubeとか連携してて、携帯も繋げて見ることができる。今までテレビはあまり見なかったけど、コロナとかニュースも気になるし、野球にも役に立つ」。

 さっそく昨季の試合の映像を見ながら「振り返ってノートに書いたり」と自身を省みた。

 シーズン中もずっとつけている野球ノートは、ベンチでも「不思議だな」と疑問を持ったり感じたりしたことをメモして、試合後にそれも含め、反省などしっかりと書き込んできた。もちろん捕手としてだけでなく、打席のこともだ。

 「悪い試合にもいいところは絶対にあるんで。いいところを消さないように、あんまりネガティブになりすぎないようにって思いながら、ノートは書いている」。

 オフは自慢のテレビとのタッグで、野球ノートも“おうち時間”も充実度がアップしている。

 食事もシーズンに入れば球場で食べられるので心配はいらないが、このオフの間は「得意料理とかないけど、炒めものはよく作りますね」と手料理を作ることもある。

 独立リーグ時代に初めて一人暮らしをし、「あのときは時間もあったから」とカレーを作ったり、クックパッドなど料理サイトを検索しながら調理した経験もある。食事もしっかり自覚を持って摂るよう心がけている。

■厚く、熱く、篤く…

 出場試合数も増え、昨年はホップした。今年はステップなのか、一気にジャンプで正捕手を獲るのか。その大きな鍵を握るバッティングも手応えを掴みつつある。

 ここで再び「テーマ」の話になった。

 「バッティングで厚くって言ったじゃないですか。これ、全部に繋げられる言葉で、もちろん気持ちも熱くいきたいし、キャッチャーとしての信頼も篤くなるべきだし、それこそファンからの信頼も篤くしないといけない。それと厚みのある人間っていうところにも重きを置いてやりたいなと思っているので、今年は“あつく”です」。

 さまざまな意味をもたせた「あつく」というテーマ。

 山本祐大選手の“あつく”なるであろう今シーズンが楽しみだ。

(次回「捕手編」に続く⇒「山ちゃんバズーカ」で勝負や

(撮影はすべて筆者)

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