「野球はもっと、おもしろい」D-questが探求するグラブの可能性

左から「いなせグラブ」「Kimono Glove」「キラデコグラブ」

■斬新なグラブの数々

 壮観だ! 

 次から次へと登場するグラブに目を見張る。美しいもの、ド派手なもの、ビックリするもの、くすりと笑みがこぼれるもの、そして、なるほどと唸るもの…どれも初めて見るグラブたちだ。見ているだけで、なんだかワクワクする。

 もちろん競技用のグラブもあり、そこには“ある秘密”が隠されている。

 そんな既存の概念をガラリと変えた斬新なグラブを作っているのは、40年を超えるグラブ製作の実績を誇る丸和株式会社だ。2017年に自社ブランド「D-Quest」を立ち上げ、さまざまなことに挑戦している。

 コンセプトは「野球はもっと、おもしろい」だ。もっと野球を楽しんでもらいたい―。グラブにはそんな思いが込められている。

 では、魅力あふれるグラブの数々をご覧いただこう。説明してくれたのは製品開発の生江太一さんだ。

さまざまな色の革たち
さまざまな色の革たち

【Kimono Glove】

 和柄のちりめん生地を配したグラブだが、飾っておいてもいいし、実使用も可能だ。会社の立地的に外国人観光客を多く見かけることから、「外国の方に目に留めてもらえるのって何かな」と考え、「日本といえば着物だ」と思いついたそうだ。

 製作には試行錯誤したが、職人さんのこだわりが詰まっている。

 「最初は生地だけ切って革に貼りつけてみたら、めくれてくる。なのでパーツの段階で貼って、中に折り込んで縫っている」。

繊細な独自の技法で仕上げている
繊細な独自の技法で仕上げている

 革だけと違って縫いづらさはある。そもそも布は織っているものだ。針が引っかかったりすると糸が抜けてしまうので、より慎重さが求められる。しかし、このような技法にしたことによって革の断面がむき出しにならず、側面にも生地の柄が続いている。これは美しい。

 さらに手口のバンド部分にも指と同じように“はみだし”を入れて、断面が見えないように工夫している。なんともオシャレな仕上がりである。

 「革だけだとステッチでいける部分も、布を貼ることにともなって新たに工夫したら、すごくかっこよくなった」と、職人さんにとっても新たなスキルとなったという。6柄それぞれに合わせた色の革とのコンビネーションもステキだ。

6柄の「Kimono Glove」
6柄の「Kimono Glove」

【いなせグラブ】

 同じ生地モノでも、こちらは猛々しい和柄の西陣織を使用していて、非常に迫力がある。

 「絢爛豪華な傾奇者」というキャッチコピーもイカしているが、昇り竜の柄はまさに粋でいなせだ。バンド部分はバッグにも使用する型押しの革を採用していて、この組み合わせも粋である。また、ゴールドの紐が織地にマッチしている。

「いなせグラブ」は2色展開
「いなせグラブ」は2色展開

【セレモニーグラブ】

 始球式用にと作ったという。

 「ナイター照明で光るグラブというのでエナメル生地にたどり着いた。色もいっぱいあるので、球団さんのカラーにロゴを刺繍したりとか」。

 これはいい演出になるだろう。また、飲食店やスポーツ用具店などのロゴを入れて、店内のディスプレイに使うという手もある。これまたライトが当たるとエナメルがきれいに輝き、インスタ映えする。店の宣伝に役立つに違いない。

鮮やかなエナメルの「セレモニーグラブ」
鮮やかなエナメルの「セレモニーグラブ」

【Weddig Glove】

 ウェブ部分や捕球面に名前や日付などの刺繍が入る。野球好きなカップルへのお祝いに最適だ。

 「野球部の同級生が結婚するとき、ウェルカムボードの横に置きたいって、チームみんなからプレゼントという注文が来たりする」。

 白のちりめん生地のほか、和柄のちりめん生地、白のエナメルとバリエーションも豊富に用意されている。

世界に一つだけの「Wedding Glove」
世界に一つだけの「Wedding Glove」

 このように布地を使う技術を生かして、様々な展開をしている。アニマル柄にフェイクファーをあしらった「サバンナ」は目を惹くこと間違いなしだ。

 さらにはデニム風の革のものもあれば、実際に穿き古したデニム、思い出の服や着物の生地でもグラブに仕上げてくれる。こういう形で思い出を残せるというのも、野球好きには嬉しいだろう。

「サバンナ」と「デニム」
「サバンナ」と「デニム」

【キラデコグラブ】

 「野球してない人、野球にまったく興味がない人でもキラキラが好きな人の目に留まるよね」という女性職員のアイディアから生まれたこのグラブには、約4,000個のスワロフスキーが散りばめられている。

 これも「D-Quest」にとってアイコン的なグラブである。

 昨年10月、プロ野球チームの始球式で大物演歌歌手が使用し、ニュースに取り上げられたことで話題を集めた。

 その始球式のシーンでは球場の照明がグラブに反射して、眩しいほどの輝きを放っていた。

もはや芸術品!「キラデコグラブ」
もはや芸術品!「キラデコグラブ」

【ドデカグラブ】&【掴めるドデカグラブ】

 グラブの基本的な縦サイズが約30cmなのに対して、なんと約50cmの超ビッグサイズのグラブだ。手のひら部分にレーザー刻印ができるので、これも店のロゴを入れるなどしてアイキャッチとして使える。

 生江さんは一度、この「ドデカグラブ」をプロ野球観戦に持って行ったことがあるそうだ。

 「目立つかなと思って(笑)。でもファウルボールが来たときに捕れなかった。閉じられないんで…」。

 たしかに目立ちはしたが、実使用には不向きだった。

「ドデカグラブ」(左)と「掴めるドデカグラブ」(右)
「ドデカグラブ」(左)と「掴めるドデカグラブ」(右)

 そこで「ボールが捕れるように」とマイナーチェンジしたのが「掴めるドデカグラブ」だ。これは通常のグラブを縦方向にだけ伸ばし、縦が約45cmの細長いグラブだ。

 「これだったら捕れるし、選手へのアピールにもなる。中継カメラにも抜かれたりして(笑)」。

 スタンドに投げ込まれるサインボールや飛んでくるファウルボール、外野ならホームランボールもしっかりキャッチできるし、選手の目にも留まるかもしれない。野球中継のカメラマンも逃さずレンズを向けるだろう。

 ただし使うときは、後ろの人の迷惑にならないようにだけは注意しなければならない。

これならどんなボールもキャッチできそうだ
これならどんなボールもキャッチできそうだ

 「他社さんでも大きいグラブは販売されているけど、本物の革じゃなくて人工材だったりする」。

 こちらはいずれも通常のグラブと同じ革で、まったく同じ工程で作っているというのがウリだ。

 そしてその製作技術に自信を見せる。それを生江さんは「普通のグラブに“ビッグライト”を当てただけのような」と表現する。そう、ドラえもんがポケットから出すアレだ。

 つまり、縮尺を計算し、ステッチ幅や隙間にいたるまでのすべてを、そのままの比率で大きくしているのだ。これが職人としてのこだわりだ。

 「大きいのが意外に難しい。粗が目立つというか…。たとえばめちゃくちゃ大きい正方形の紙で鶴を折るとき、きれいに折らないとズレも大きくなる。そういう感覚」。

通常のグラブと比べると…
通常のグラブと比べると…

 また逆に、前述の生地を使ったグラブは観賞用にと約20cmのミニサイズのものも作っている。こちらも「“スモールライト”を当てた」ように、すべての部分をそのままの縮尺で小さくしたもので、これまた細かくて苦労する。

 「やはりバランスとか縫いやすさとかベストなのは通常品。一番たくさん縫ってるし慣れもあるから」。

 通常品でのたしかな技術があるからこそ、そこからのバリエーションにも対応できるのだろう。

通常サイズとミニサイズ
通常サイズとミニサイズ

 ほかにもまだいろいろある。「THE暗闇野球」と名づけられたグラブは捕球側の革に穴を開け、そこにLEDをはめ込んである。スイッチで点滅もする。このグラブと光るボールがあれば、真っ暗闇でのキャッチボールが楽しめる。

 また乗り鉄、撮り鉄ならぬ「グラ鉄」というグラブは、電車をモチーフにした鉄ヲタ垂涎のグラブだ。グラブと鉄道のコラボも世界初ではないだろうか。

真っ暗闇でのキャッチボールに「THE暗闇野球」を
真っ暗闇でのキャッチボールに「THE暗闇野球」を

■社内で開催されるアイディアコンテスト

 なぜこのような遊び心のある斬新なグラブたちが誕生したのだろうか。

 2017年に自社ブランドとして立ち上がった「D-Quest」では、「自分たちで新しいものをどんどん作っていこう」と、社内で「アイディアコンテスト」を開催している。

 4チームに分かれ、各チームに裁断や縫製などの職人さんが配される。製作部署以外の職員も全員がどこかのチームに入り、一緒になって頭をひねる。

1頭の革の半面
1頭の革の半面

 「街中いたるところにあるおかしな形だったりとか、『あ、これ工夫されているな』みたいなのが、すぐ目につく。『これをグラブにしてみたらどうかな』っていうのが頭の片隅にあって、常にグラブのことを考えている」。

 いつでもどこでもアンテナを立てている。専門のデザイナーがいるわけではなく、全職員がデザイナーになるのだ。

 「作り手だけだと、案が浮かんでも『でもな、それだと作れないな』とかなってしまう。作り手じゃない人の案はめちゃめちゃぶっ飛んでたりするけど、やってみたら意外とできたりして。できなかったらできるように考えて、なんでもやってみようって作るようにしている」。

 だからこそ、生地を使ったものやスワロフスキーでデコったものが誕生したというわけだ。

グラブの外側と内側
グラブの外側と内側

 5月末にチームを結成し、約5ヶ月かけてそれぞれのチームでアイディアを出し、試行錯誤しながら形に仕上げる。10月ごろにコンテストを開いて発表し合い、そこで選ばれた“コンセプトモデル”を2月に開催される「スポーツビジネス産業展」に出展する。

 展示会に並べて、来場者の反応を見る。展示会を訪れるのはスポーツ店や球団関係者、イベント関係者だ。中にはプロ野球球団のグッズ責任者もいたりする。そこで商談に発展する。

 今年も2月24日から開かれる「スポーツビジネス産業展」に出展し、来場者の度肝を抜くつもりだ。

 こういった他社にはないオリジナルグラブを出すというのは、ブランドの認知度を上げることを目的にしているが、これが「野球はもっと、おもしろい」というブランドコンセプトにも通じているのだ。

鬼滅!?かわいらしいツイードも
鬼滅!?かわいらしいツイードも

■ほかにはない競技用グラブ

 もちろん、こういったグラブだけではない。卓越した技術を駆使して、競技用のグラブにも力を入れている。

【ステップアップグラブ】

 イチオシなのが「ステップアップグラブ」だ。ちょうど軟式球から硬式球に移行する“中学生の硬式向け”になっている。成長途上の子どものサポートをしてくれるグラブだ。

 「握力がなくて手が小さい子どものグラブには、ある傾向がある。硬いボールを掴むときに思いきり力を入れて無理やり握るので、捕球面がボコボコに出てきてしまって、ポケットがなくなっている」。

 そうなるとボールを捕る場所がなくなり、挟んで掴むといった感じになる。すると当然のことながら、うまく捕球できないからエラーもしやすい。

 もう技術を磨く以前の問題だ。

ステップアップグラブ(写真提供:D-quest)
ステップアップグラブ(写真提供:D-quest)

 「エラーして怒られたら『守備したくないな』とか『ボール飛んでこないでくれ』ってなる。そういう守備に対する不安をなくしたい。握力がなく手の小さな子にも、ボコボコに浮かずにボールが捕れるようなグラブを作りたい」―。

 まずは、なぜそうなるかの原因を究明した。目をつけたのが手口のバンド部分だ。ここが硬いと手の甲がロックされ、グラブが開閉しづらくなる。

 そこでバンド部分の革を、ウエットスーツにも使われる素材に変えた。柔軟性と伸縮性を得たことにより手首付近がフィットして力を吸収してくれる。

 「捕球面が浮きにくく閉じやすくなったので、ボールを弾きにくくもなった。きっと守備が楽しくなるし、野球がもっとおもしろくなる」。

 「D-Flex Band」と名づけられたこのバンドは商標登録を済ませ、特許も出願中だ。

D-Flex Bandを採用したステップアップグラブ(写真提供:D-quest)
D-Flex Bandを採用したステップアップグラブ(写真提供:D-quest)

【レザーブラザーズ】

 高校生以上の大人向けのグラブももちろん作っているが、おもしろいのが「レザーブラザーズ」だ。

 「『あいつと同じ革のグラブ』って謳ってて、1枚の革から3つのグラブを作りますっていうもの」。

 牛1頭の革からできるグラブは多くて3つだ。兄弟で、友だち同士で、または複数ポジションを兼務する選手ならば各ポジジョンごとで、同じ牛の革で作るというものだ。この3つ以外に同じものはないわけで、どこかで繋がっているような不思議な感覚になる。

 「普通に作るときって部分的に違う革も使ったりするけど、すべて同じ革。その証明にパーツを裁断して穴の空いた状態の残った革を送るというのもやらせてもらっている」。

 3つ、もしくは2つセットで注文を受けている。

 これまでに三兄弟で「長男」「次男」「三男」の刺繍のリクエストとともに注文があったり、外野手の3人トリオで信号機のように色分けしてしてほしいというオーダーが入ったこともある。

 ユーザーがアイディアを膨らませ、おもしろくできるのが「レザーブラザーズ」なのだ。

アイディアが膨らむレザーブラザーズ
アイディアが膨らむレザーブラザーズ

■中学時代からの夢を叶えた

 「ずっと夢だった、グラブを作るのが」と、中学生のときにグラブ職人さんの講義を聞いて以来、一途に思い続けてきたという生江さんは、自身の夢を叶えた。「もともとグラブが好きで、新しいチームに入ったらグラブで人を覚えるっていうくらい、人のグラブを見たりしていた」と笑う。

 現在、入社7年になるが、「スポーツ店でいろんなグラブ見てても、ウチのグラブは一番だと思うし、ここでグラブを作れて本当によかった」とグラブ愛、そして愛社精神に満ちあふれている。

丹精込めてグラブを作っている生江太一さん
丹精込めてグラブを作っている生江太一さん

 さまざまなオリジナルのグラブを作ることで「引き出しが増えた」と言い、今後も細かいところにこだわりながらグラブ作りをしていきたいと意気込んでいる。

 「グラブ職人として、『もっと野球をやろうよ』っていう声かけを発信していきたい。見た目がきれいなグラブ、プレーする上で技術をサポートできるグラブをこれからも作って、野球をやってる人はもちろん、野球を知らない人にも野球本来の楽しさを実感してもらいたい」。

 念願のグラブ職人となった今、生江さんは自社のグラブをもっと知ってもらいたいと願っている。そしてもう一つの夢を抱く。

 「今年、高校に入学する弟にピッチャー用とキャッチャー用をレザーブラザーズで作って使ってもらっている。D-questのグラブで甲子園で投げてもらうのが夢です」。

 キラキラした瞳で明かしてくれた。

 「野球はもっと、おもしろい」―。

 そんなワクワクを感じることができるのが、「D-Quest」のグラブだ。

(表記のない写真の撮影は筆者)

D-Qestのグラブはインスタグラムでも楽しめる。