“ホンマにホンマ”の地元凱旋で山本祐大(横浜DeNAベイスターズ)が今季初ヒット!
“ホンマにホンマ”の凱旋だった。
5月のゴールデンウィーク中、甲子園球場で“関西凱旋”は果たした。しかし横浜DeNAベイスターズ・山本祐大選手にとって、京セラドームは特別だ。実家から自転車で来ることができる距離にある。子どものころの記憶をたどっても、もっとも鮮明に思い出される球場だ。
そこに帰ってきた、プロ入り2年目の夏。そしてそこで今季初安打も記録した。
■家族の目の前で
「やっぱ特別な感じ。不思議な感じがした」と笑顔が弾ける。
「ここでよく(試合を)見てたのもあるし、小学校のころ、オリックスの試合前に少年野球チームでキャッチボールできたんですよ。それでグラウンドにも入って…。あのころはプロの球場ってだけで興奮した」。懐かしげに振り返った山本選手。
「そういうイメージがあったんで、ここで(プロとして)プレーできるって考えたら、けっこうテンション上がりました!来たかったっす、京セラは」。
パ・リーグのオリックス・バファローズの本拠地だから、チャンスはそうない。交流戦か、今回のように阪神タイガースのロード中のゲームか。
昨年も今年も1軍昇格はしたものの、交流戦目前に登録抹消になっていた。今回、ようやく念願が叶ったのだ。
なにより嬉しかったのは、家族…中でもおじいちゃん、おばあちゃんに見にきてもらえたことだ。
「おじいちゃん、おばあちゃんに野球見てもらえるの、ほんと高校生ぶりかな。甲子園も見にきてもらえる予定やったけど、たまたま都合が合わなくて。なかなか遠くは行けないから…今回はちょうどいいタイミングで、やっと見にきてもらえた」。
嬉しすぎて、目尻は下がりっぱなしだ。
練習見学にも両親と弟、妹を招待した。兄のあとを追ってプロ入りを目指す弟の仁くん(高校3年)は、真剣にプロの練習に見入っていた。少しでも何かを吸収してくれればという兄の思いが、しっかりと伝わっていたようだ。
■初戦で今季初安打
そんな中、やはり“持ってる男”はやるのだ。
第一戦、九回無死一塁で代打に起用されると、魅せた。ファーストストライクから積極的に振っていき、4球目のストレートをしっかりとらえてセンター前へ!これが今季5打席目にして初のヒットとなった。
「(4打席ノーヒットは)気には…いや、気にしてましたね(笑)。でも、打てたんじゃない。打たせてもらったっす」。
あくまでも謙虚である。応援に駆けつけてくれた多くの人々の力であると感謝した。
このヒットを、手を叩いて喜んだのがラミレス監督だ。
翌日の練習前、報道陣の囲み取材でも絶賛した。「彼のバッティングは素晴らしい。普通は何年かかかって習得するテクニックを、すでに持っている。バッティングだけなら、今でも十分に通用する」と手放しで讃えた。
具体的に訊くと、こう説明した。
「バランスがいい。足の使い方、タイミングの取り方、上と下のコンビネーションが優れている」。
前回の1軍昇格時、「バットコントロールが難しくなる」と、左手の小指をグリップエンドにかけていることを注意したという。
「背中がちょっと前かがみだったので、腰をすえてまっすぐするようにも言った。でも彼は修正する前から逆方向にうまく打ってたんだよ」と言ったあと、「古田(敦也)さんのような感じ」と、かつての自身の同僚である名捕手にたとえた。
「今すぐレギュラーってわけではないけど、いい選手であることは間違いない」。大きくうなずいた。
■打撃での意識
山本選手も「だいぶ振る力がついた。1軍の人に比べればまだまだだけど、僕の中では振れる段階に徐々にきた」と、少しずつ手応えを深めてきている。
今季は自身の感覚をもっともたいせつにしているという。
「打席の入り方とかは聞くけど、バッティング自体はやっぱ自分の感覚でしかないものだから。自分がこうしようと思ったものを、それを1こずつ直していければ、よくなるんじゃないかな。
(自分の感覚を大事にすれば)ちょっと調子を落としたときも対処方法が見つかってくるんで。それはちょっと成長した部分かなと思う」。
いろんな人の話を聞いた上で自分なりに取捨選択することは、もっとも難しいことだ。「自分が一番わかってないと」と、“芯”だけはブレないようにしている。
そんな中、今もっとも意識していることがあるという。
「僕は体が突っ込んだりするんで、体で振らないようにしている。150キロ超えてるピッチャーに対して、体を振っちゃうと前に飛ばないけど、手を早くすればなんとかなる」。
体を振らず、手を早く―。そのためにティーバッティングでは数歩ウォーキングして打つということにも取り組んでいる。
「歩くのって体重移動じゃないですか。軸を意識できる。軸をしっかり意識することで、手が早く出る」。
自身が「こうしたい」という方向に向かって、その練習法も工夫しているのだ。
フォームもマイナーチェンジした。構えるときのグリップの位置を、これまでよりかなり下げた。
「手だけ早くするために、手は脱力するようにしている。上のほうだと、どうしても力んじゃう。力んだら手が早く出てこないんで」。
足の上げ方も投手によって変えている。「足を上げてタイミングがとれるピッチャーもいれば、そうじゃないピッチャーも。それは分けている。やっぱりタイミングの取り方が一番大事だと思うんで」。
1軍での打席数は多くなくても、ベンチからもいい投手をたくさん見ることができる。その情報を蓄積し、自身の引き出しを増やすようにしている。
目指しているのは、長打よりもコンパクトに。まずは確実性だ。
「求められているのもそこだし、正直、僕が一発長打を打ったところで相手にとってとか、チームにとって自分にとって残るところはないんかなと思う。確実性を高めていけた中の長打だったらいいと思うけど。狙いにいくつもりはないし、そういうキャラじゃないんで(笑)」。
ルーキーイヤーの昨年は初打席でホームランを放ったが、その余韻をいつまでも追いかけたりはしない。
■勝たせる捕手に…
バッティングには定評があるが、捕手としての守備も重要だ。
課題を問うと「配球面。勝たせるキャッチャーになること」と答えた。なかなか出場機会はないが、ベンチからも常に配球の勉強をしているという。
「常に試合に出てるイメージをして、僕やったらこういう球を要求するなとか、やっぱりそうかとかいうことを勉強しとけば、いざ自分がチャンスもらったとき堂々とできるかなっていうのはある。常に想定してやるようにはしている」。
今季はここまで3試合でマスクをかぶっている。特に2度目の昇格となった今回は、以前よりどっしりと落ち着いた感じを醸し出している。
そう言うと、「1軍の空気に触れているからじゃないですか」と笑う。「慣れっていうのはないけど、それでもちょっとマシにはなった。みんなよく声をかけてくれるんで」。
練習中も「ゆうだーい!」という声がよく飛ぶ。細川成也選手とともに1軍最年少だ。コーチ陣や先輩たちからも可愛がられている。
■優勝争いをするチームの中で
昨年から併せて4度目の1軍登録だが、過去3度と違って今回は1軍滞在期間の最長を更新し続けている。正捕手である伊藤光選手の故障に伴って7月31日に昇格し、8月24日で25日目である。
「毎日刺激を受けてるし、勉強することも多い。いろいろ教えてもらうし、肌で感じられるっていうのはすごい機会。誰もが経験できることじゃないので、これを活かせるようにしたい。間近でいいピッチャー見れて、いいバッター見れて、その中で試合にも出させてもらってるんで、すごい経験です」。
その表情からは充実感がひしひしと伝わってくる。
現在、チームは優勝争いの真っ最中だ。
「僕のやるべきことは明確で、与えられたチャンスをいかにチームの勝ちにつなげられるか。自分の結果も大事だけど、今は優勝争いしてるんで、そこ(チームの勝利)だけやと思います」。
プロ入り2年目にして、こんなヒリヒリとした厳しい戦いの輪に加われるなんて、そうそうあることではない。なかなか出番の来ない“第3捕手”という位置づけとはいえ、その空気感に直に触れられているのだ。
はたしてどんな心境でいるのだろうか。
「幸せですね!」
そう言って、山本選手はニコッと白い歯を見せた。
これまでのあどけない笑顔に、ほんのちょっぴり大人の精悍さが加わっていた。
(表記のない写真以外の撮影は筆者)