「モットーは選手ファースト」―武田勝監督と三位一体で選手を育てるコーチ陣(石川ミリオンスターズ)

武田勝監督を支える名参謀のふたり

■BCリーグの首脳陣

石川ミリオンスターズ・武田勝監督
石川ミリオンスターズ・武田勝監督

 同じプロ野球といっても、NPBと独立リーグではさまざまな違いがある。たとえば監督を支えるコーチ陣。NPBでは部門ごとに1人ないし2人、コーチがいる。加えてヘッドやチーフ、総合などの肩書きのコーチまでいる。試合中のベンチには監督、コーチ総勢9人の首脳陣が入る。

 BCリーグの場合、たいてい1チームにコーチは2人ほどだ。多いチームで4人か。中には選手兼任のコーチもいるし、監督もコーチの役目を兼ねている。

 監督はNPB出身者というのがBCリーグの決まりだ。コーチはその限りではないが、NPB出身コーチがずらりと並ぶチームもあれば、監督以外はNPB未経験のコーチばかりというチームもあり、さまざまだ。

勝利のハイタッチ(前から武田勝監督、山出芳敬コーチ、片田敬太郎コーチ)
勝利のハイタッチ(前から武田勝監督、山出芳敬コーチ、片田敬太郎コーチ)

 そんな中、石川ミリオンスターズの首脳陣編成は珍しい。投手出身の武田勝監督(北海道日本ハムファイターズ)を山出芳敬 野手総合コーチ片田敬太郎 フィジカル&パフォーマンスコーチが支えている。片田コーチは横浜DeNAベイスターズでトレーナー経験があるが、山出コーチは選手としても指導者としてもNPBの経験はない。

 武田監督の話の中には度々、この両コーチが登場する。ふたりに全幅の信頼を寄せているのだ。首脳陣3人のバランスがとてもよく、どうやらそれが石川の好調の秘訣であり、選手の成長やチームの雰囲気のよさにつながっているようだ。

 ふたりのコーチに注目した。

■山出芳敬コーチは金森栄治氏の弟子

金森栄治氏に師事
金森栄治氏に師事

 山出コーチは地元・金沢の出身だ。2007年、石川に入団したとき「選手で2年やって、ダメだったらもう諦めようと思ってて。大学の監督もしくはコーチにっていう考えで採用試験を受けたけどダメで…」。

 当時、石川の監督は金森栄治氏だった。金森氏は西武、阪神、ヤクルトで活躍したあと、NPB7球団ほか、高校や大学でも指導した。その打撃理論には定評がある。石川では2007年から2009年まで監督を務め、現在は東北楽天ゴールデンイーグルスの1軍打撃チーフコーチだ。

 「金森さんに教えていただきたいなと思って、ここでコーチやらせてもらう形になった」と2009年、山出コーチが誕生した。

攻撃中の定位置
攻撃中の定位置

 山出コーチの教えの基本は「僕も最初は自己流でやってたけど、金森さんとここで出会って教えてもらった」という “金森理論”だ。

 「体の大きさとか、力のあるなしとかじゃなくて、自分が持ってる最大限の力をバットに伝えるっていう体の使い方を教わってきた。下から順番に力を伝えていくということ。それはほんと、どのバッターにでも合っているんじゃないかと思う」。

 「下から順番に」というのは足から、ということだ。「絶対に足のほうが強いんで、その力をうまく上に伝える、ボールに伝えるというのをやらせるようにしている」。

下から順番に
下から順番に

 自身は体得した理論でも、伝える難しさがあるという。

 「やっぱり今までそれなりにやってきた選手ばかりなんで、いきなり『こうしなさい、ああしなさい』と言っても、絶対に入ってこない。まず自分で考えてやることが大事だと思う」と、選手の自主性を重んじながらも、「一気にやるんじゃなく、ちょっとずつちょっとずつ覚え込ませる」と、納得させながら伝授している。

武田監督と
武田監督と

 “金森理論”はあくまでもベースだという。

 「NPBから来られた方とたくさん一緒にやらせていただいて…。たとえば元ソフトバンクの本間さんだったり、元ロッテの(フリオフランコさんだったり、いろんな方の教え方を聞いた。金森さんがベースにある中で、それに近づけるようにいろんなアプローチができればっていうのは常に考えてやっている」。

 選手もさまざまだ。理解度も合う方法も個々に違う。金森氏以外の人々から習得したものが、“金森理論”を理解させるのに役立つのだ。

練習を見つめる
練習を見つめる
練習中も明るく
練習中も明るく

 「僕も選手でやっていて金森さんに教えてもらったときは、シンプルに言われるのはたしかにわかりやすいけど、自分でやってみるとすごく難しいというのは感じていた。だから、いろんなアプローチの中でそうなればいいなっていう考えは常に持っている」。

 “終着点”は明確にある。そこにたどり着くまでのアプローチ方法を、選手個々でバリエーションを持たせている。「人それぞれの感覚だったり、体の使い方が違うんで」と、会話を重視し、その選手にもっとも合う方法、合う言葉を探っていく。

 「コミュニケーションは一方通行になってしまうと、選手も気持ちよくないから。僕自身もただ教えてるだけになって、聞いているのか聞いていないのかわかんない状態では、難しいと思う」。

 普段から言葉を重ね、意思疎通をしっかり行う中で大切なことを伝える。

■第一に考えるのは選手個々の成長

三塁ランナーコーチに立つ
三塁ランナーコーチに立つ

 野手に関しては指導はもちろん、ゲームのオーダーやサインなど、武田監督から全面的に任されているが、「任されているということは責任も感じる。野手たちには勝さんが言いたいことややりたいことを、しっかり伝えられるようにしたい」と、応えている。

 “武田勝スタイル”は選手にのびのびとさせることに重点を置く。決して萎縮させず、自身の力を思いきり出しきれるような空気を作っている。

いつも武田監督の隣
いつも武田監督の隣

 「基本的に“選手ファースト”っていうのは常に考えていて、選手が上(NPB)に行くためには何が必要かっていうのを考えながらやっている。たとえば、『ほんとならここはバントなんだけど』という場面でも、我慢して打たせるとか。選手にとってもバントのほうが楽なんでしょうけど、選手自身が考えて打つということで成長する」。

 バントしたほうが勝ちに近づくし、打たせることで勝ちが逃げるという場面もある。それでも「一番は選手を伸ばすこと」と言いきる。

 もちろん勝たなくていいわけではない。だから、「その兼ね合いが難しい」とも言う。

■NPBに近い選手

喜多:左上と右下、神谷:左下、荒谷:右上
喜多:左上と右下、神谷:左下、荒谷:右上

 現在、NPBに近い選手を挙げてもらった。

 「喜多亮太=捕手)、神谷=内野手)ですかね。荒谷勇己=外野手)もおもしろいかなと思う」。

 中でも神谷選手の打撃の成長を認める。今年は常にリーグの打撃10傑に名を連ねている。(荒谷.368=2位、神谷.353=4位)

 「去年とは全然違って安定している。基礎がしっかりできてきたっていうか、ブレないところができてきたというのが一番。去年は足を生かさなきゃっていうので小さくまとまって、当てにいく打ち方だった。それが軸ができたことで、低くゴロが打てるようになっている」。

 塁に出れば足がある。「マークされている中で走れている」と、盗塁数はリーグでダントツだ。(神谷42コ=1位、荒谷32コ=2位)

ヒーローインタビューを見守る
ヒーローインタビューを見守る

 喜多選手については、キャッチャーとしては「ほんといいものを持っている」と申し分ないという。ただ「あと一歩、決め手が…」と打撃に課題を残している。残りシーズンでなんとか向上させたいところだ。

 「ここっていうときの勝負強さは持っている。通年で成績を残すためにはしっかりとした軸がないと。弱いとこ弱いとこ攻められたらお手上げの状態になっちゃう。なんとかしっかりとした軸を作ってあげたい」。コーチとしても腐心しているところだ。

 そのほかの選手に関しても「冬から春先、この夏を越えて、一番大事な9月っていうのを迎えるにあたって、みんなが上り調子でいけたらなと思っている。ここからのために今までがあると思って、残りシーズンをしっかりやりたい」。

 「一番大事な9月」に向かって、山出コーチもラストスパートをかける。

■日本で唯一の肩書き?片田敬太郎コーチ

顔を隠しているのは武田監督(笑)
顔を隠しているのは武田監督(笑)

 「フィジカル&パフォーマンスコーチ」とは、聞き慣れない肩書きだ。「そもそもややこしい名前をつけたのは、野球界の固定観念をとっ払いたかったら。そのためのネーミングで、別になんでもいい」と、片田コーチは言う。

 「コンディショニングコーチ、トレーニングコーチっていうと仕事が縦割りで決まっちゃう、暗黙の了解で。そうではなく、からだとパフォーマンスを繋げたかった。ここまでという限界を作らなかったら、僕の仕事の幅は大きく広がる」。

 垣根を取り払うことによって、選手のパフォーマンスをより引き出すことができるのだ。

ノックも打てば…
ノックも打てば…

 「たとえばピッチャーだったら、『どこも痛くない、コンディションも調子もいいのに、なんか球速が出なくなっています』とか、『低めを狙ってるのに、高めにしかいかないんです』とかある。それが体の問題なのか、技術の問題なのか。もし体のほうの問題だったらどんなに練習してもムリ。体を治してから技術練習をしましょう、が筋道になる。

 『体がこうだから、そういう現象が起こる。だから体を戻してみて、どうなるかをチェックしてみよう。もし体のメンテナンスをして、それでもできないんだったら技術のほうだね』とかね」。

打撃投手もする
打撃投手もする

 基本は投手に比重を置いて見ている。野手に関しては、山出コーチから相談を持ちかけられるという。

 「こいつ、めちゃくちゃ体が開くんですけど。本人も意識してるって言ってるし、僕もそう言ってるんですけど、できない。体に問題ありますか?」といった具合だ。

 もし体に問題があれば、そのまま振り込んでも状態は落ちていく一方だ。その場合はまず、体を戻してから技術練習に移行する。

 どこに原因があるのか見極めることが重要で、それが問題解決の糸口になる。

■選手の力をもっとも発揮できるように

ノック
ノック

 投手の日々の登板やローテーションも、武田監督は「体が優先だから。体がいい状態だったら言って」と片田コーチの見立てを重視する。

 「僕が『ちょっときついです』と言ったら、監督も絶対に無理はさせない」。

 先発投手に関しては、体の状態だけでなく相手打線との相性などもある。そこは山出コーチの意見も聞き、できるだけ最善の投手を用意できるよう調整を考える。

打撃投手
打撃投手

 このタッグがうまくいっているのは、武田監督がふたりを全面的に信頼し、その手腕を認めているからにほかならない。

 「我々3人の中で一番共通しているのは、どうやれば選手がやりやすいかってこと。そこが決まっているところなんで、『ここを無理したらケガする』って僕が体の面で止めて、勝さんや山出コーチが『いや、いけよ』っていうことは、今まで一度もない。選手が一番いいときに使ってあげよう、ストレスなく試合に出してあげよう、っていうところは意見が一致している」。

■選手自身が自己管理能力を高めるようアドバイス

ノック
ノック

 片田コーチ自身は、NPBでの経験がプラスになっているという。

 「それがあるからこそ、選手に自己管理する能力を高めさせてあげないといけないと思っている。NPBに入れたとしても、そのあと困らないように。僕が触らなくても、自分で(メンテナンスが)できるようにすることが一番なので」。

 現在、石川の選手たちは非常に意識高く取り組めている。

打撃投手
打撃投手

 「いつも選手たちに言っている。僕のコンディショニング能力が10点あるとする。選手は野球はうまいけど体のことは知らない。(コンディショニング能力が)0点だとする。0点の選手に僕がどんなに一生懸命頑張っても10点しかいかない。けど、選手が自分の体のことを知ることで、0点がいきなり7とか8点まで伸びる。選手が7点までやってくれたところに僕が乗っかったら10何点になる。つまり管理能力がバーンと上がる」。

 この意識づけを徹底することで選手の体はどんどん変わっているし、それがまた、パフォーマンスにも好影響を与えている。

垣根のない仕事で選手をバックアップ
垣根のない仕事で選手をバックアップ

 シーズンも残りわずかだが、片田コーチは「新しくやることはもうない」という。

 「ここまできたらコンディションとかよりも、今までやってきたことをどれだけいい形で継続できるかだけなんで。今までやってきたことを選手が信じて続けてくれれば、ある程度コンディションは維持できて、戦っていけるんじゃないかなと思う」。

 これまで積み重ねてきたものは裏切らない。

 後期、好発進した石川ミリオンスターズだが、現在は西地区の2位。首位の信濃グランセローズにはマジックナンバー4が点灯した。3ゲーム離されてはいるが、残り9試合、最後にまくるつもりだ。

(文中の数字は8月18日現在)

(撮影はすべて筆者)

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