「バッターを狩る!」―守屋功輝(阪神タイガース)が強気の内攻めで矢野燿大監督に恩返しを誓う

普段はニコニコ笑顔の守屋功輝投手

■インサイドで勝負

射るような目で「バッターを狩る」守屋功輝投手(写真提供:M)
射るような目で「バッターを狩る」守屋功輝投手(写真提供:M)

 「バッターを狩る」―。“狩る”とは、なんとも物騒な言葉だ。発したのは、常に穏やかで優しい守屋功輝投手だから驚く。

 阪神タイガースに入団して5年目。今季ここまでキャリアハイの13試合に登板し、初ホールドも記録した。

 背水の覚悟で望んだ2019年シーズン。守屋投手が実践しているのは、マウンドでハンターよろしく打者を“狩る”こと。スプラッター映画のジェイソンのごとく獲物を追い詰め、ぶちのめす。それくらいの気概で登板しているのだ。

5月5日、DeNA戦。内を突く(写真提供:K)
5月5日、DeNA戦。内を突く(写真提供:K)

 チームが辛酸を舐めさせられた中日ドラゴンズビシエド選手にも屈しない。4月13日は一死一塁の場面でインサイドへの151キロでつまらせて併殺に仕留めた。

 同19日の読売ジャイアンツ戦では、二死満塁から坂本勇人選手にも臆せず内角に突っ込み、149キロでショートゴロに打ち取っている。

 「去年からずっと内のまっすぐで勝負してるんで」。そう胸を張る守屋投手の表情は、これまでとは全然違う。自信がにじみ出ているのだ。

■バッターを狩る

5月1日、広島戦(写真提供:M)
5月1日、広島戦(写真提供:M)

 きっかけは昨シーズンの交流戦だった。北海道日本ハムファイターズ戦に一死一、二塁で登板し、中田翔選手と対峙した。「4球すべて外スラで、レフト前に打たれて…」と唇を噛む。ダメ押しの2点タイムリーにされてしまったのだ。

 その後、楽天戦、広島戦で1試合ずつ投げたあとファーム降格となり、刻んだのは登板4試合、防御率11.57という数字だった。後悔だけが残った。

5月5日、DeNA戦(写真提供:K)
5月5日、DeNA戦(写真提供:K)

 そのタイミングだった。「矢野監督が動画を見せてくれたんです」。

 昨年、ファームの監督だった矢野燿大監督は「1軍で勝負しようと思ったら、内に投げられないとあかん。長くプレーもできない」、そう言ってミーティングルームに投手陣を集め、あるメジャーリーガーの動画を見せたという。雨で試合が中止になり、練習が終わったあとのことだった。

5月5日、DeNA戦(写真提供:K)
5月5日、DeNA戦(写真提供:K)

 画面の中のピッチャーは、バッターのインサイドにぐいぐい切れ込む球を投げていた。どんな名高い強打者に対しても、だ。対戦したバッターは言う。「アイツはマウンドに立つと人が変わる。バッターを狩るんだ」。バッターは明らかに恐れていた。

 これだ!守屋投手はそう思った。「そうなりたい、そういう意識を持たないと立ち向かえない」。今いる世界で生き抜くためには、これまでの生半可な意識では到底無理だと気づかされた。

■“第2のくわさん”になる

5月1日、広島戦(写真提供:M)
5月1日、広島戦(写真提供:M)
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練習前に談笑
練習前に談笑

 「矢野さんはすごい気にかけてくれてて…」。そもそもファームの監督に就任した一昨年秋、キャンプ前の最初のミーティングで声をかけられた。「おまえ、悔しいやろ」と。

 見透かされていた。その年は1軍で1試合に登板したのみ、1つのアウトも取れなかった。それまでも思うような力が発揮できず、もどかしい思いでプロ生活を過ごしてきた。

 「矢野さんは、くわさん(桑原謙太朗投手)の名前を出して『何が起きるかわからんから、腐らずやっていこう』って言ってくれた。すごく嬉しかった」。

 昨年の1軍昇格のときもLINEのメッセージで励まして送り出してくれた。自身も「第2のくわさんになります!」と意気込んで返信した。

 「それなのに2週間足らずで抹消されてしまった」。応えられなかったことが悔しく、そして申し訳なく思った。

 そこで考えた。「くわさんみたいなピッチャーになる」とは、どういうことなのか―。

 そんなときに見せられた件(くだん)の動画が、その答えを教えてくれた。そこからだ、守屋投手がピッチングスタイルを変えたのは。

■嫌がられる投手に

試合前練習でのキャッチボール
試合前練習でのキャッチボール

 もちろん、これまでもインサイドを使っていなかったわけではない。「大事なのはわかっていたけど、そんなに多い割合では使っていなかった」。

 ところがインサイドを意識的に使うことによってピッチングの幅が広がった。バッターの反応も変わってきた。「ファウルの打ち方や見逃し方を見たら、最初から開いている」。内を意識させられていることがわかる。活路を見い出した。

 「インコースを見せることで楽に投げられるようになった。こういうことかと納得した」。

 そしてファームでも、相手は1軍だと思って投げた。1軍の選手なら甘い球は見逃してくれない。結果オーライのピッチングはすまいと、厳しく攻めた。

 再び1軍に呼ばれることはなかったが、ウエスタンで39試合に投げてリーグ優勝、日本一に大きく貢献した。

5月1日、広島戦(写真提供:M)
5月1日、広島戦(写真提供:M)
“ご出勤”
“ご出勤”

 そして今年2月、はじめて1軍キャンプに呼ばれた。そこを目指して自主トレに汗を流してきただけに嬉しかったし、矢野監督の期待の大きさをひしひしと感じた。

 キャンプ中も幾度となく「這い上がるぞ!」などと叱咤激励してくれた。

 開幕こそ1軍メンバーから漏れたが、ほどなくして4月5日に出場登録された。そこからもマイナーチェンジをし続けている。最初の登板となったマツダスタジアムで、ランナーがいなくてもセットポジションで投げるよう変更した。

 「セットでも球威は変わらないし、ランナーがいなくてもクィックで投げたりして、タイミングを外せるので」。

 常に考えているのは、打者にとって嫌がられる投手であるということだ。

■カーブは大切な球種

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練習の合間にひと休み
練習の合間にひと休み

 現在の持ち球は最速150キロ超のまっすぐ、スライダー、2種類のフォーク、カーブだ。2年ほど前に投げていたツーシームは今は封印している。シュート系のボールはなくとも、まっすぐでインサイドに突っ込んでいけるからだ。

 曲がりが大きく見切られていたフォークの握りを浅くし、改良を加えた。さらに小さめのフォークをオープン戦から試してきた。

 “守屋理論”によると、「小さいフォークを見せといて、バッターに『守屋のフォークはこれか』と思わせたところに、中くらいのフォークを投げると空振りが取れる」そうだ。現在は中と小の2種類を使い分けているということだ。

「カーブがあると思わせるだけでも有効」と守屋投手
「カーブがあると思わせるだけでも有効」と守屋投手

 自主トレで読売ジャイアンツ・田原誠次投手から直伝されたカーブは、「中継ぎなので使いづらいし、まだちょっと腕が緩む。でもあるだけで違うし、梅野さんとも使いたいねという話はしている。マツダで使ったときはバティスタがちょっと面食らっていた」と、今後も効果的に使えそうだ。

キャッチボールでもカーブを交える
キャッチボールでもカーブを交える

 試合ではめったに使うことのないカーブだが、守屋投手にとって大切な球種だ。「上に投げる感じで抜く」というカーブを、キャッチボールでもまっすぐと交互に投げる。

 ブルペンでキャッチャーを座らせての1球目も、登板してマウンドでの投球練習の初球も同じくカーブだ。それは1年目からそうだった。

 「体の使い方が正直になる。フォームがよくないとカーブは投げられないから。引っかけたり抜けたり突っ込んだり…フォームを教えてくれる球」。

投球練習でのルーティン
投球練習でのルーティン

 ちなみにマウンドでの投球練習の5球は必ず同じだ。1球目、カーブから入ったあとはまっすぐ、フォーク、そしてクィックでのスライダー、最後はクィックのまっすぐで締める。イニングをまたいだ場合の次の回は、3球目のフォークが小さいほうになる。

 変わらないルーティンが安定したピッチングを生み出している。

■WHIPは1を切る0.98!

5月5日、DeNA戦(写真提供:K)
5月5日、DeNA戦(写真提供:K)

 5月7日までで13試合に登板して14と1/3回を投げた。昨年までの通算登板数をとうに超え、さらに初ホールドも手に入れた。

 「ホールドっていっても(抑えたのは)1人だけなんで、そんな『獲ったぞ!』という感じではないけど」と照れながらも、「でもまぁ記録に残るので嬉しい。1軍でやってるっていう証しだし」と素直に喜ぶ。

5月5日、DeNA戦(写真提供:K)
5月5日、DeNA戦(写真提供:K)

 4月23日に被弾するまで9試合、防御率は0.00だった。「でも前のピッチャーのランナーを還したこともあるから。中継ぎは、そこを抑えてこそ信頼されるので」。

 ランナーのいる場面での火消しを任されることを意気に感じ、絶対にホームに還さないと腕を振る。

 5月7日現在、防御率は1.26だ。さらにWHIPという投手の成績評価の指標がある。1投球回あたり何人の走者を出したかを表す数値だが、1.00に満たない0.98という数字を出している守屋投手の評価は、相当高いということになる。

■矢野監督に恩返ししたい

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 2月のキャンプ中、第2子となる長男が誕生した。「息子に野球をやってほしいというのは、特にない。好きなようにやってほしい。でも、野球やってるところは見せたい」と白い歯をこぼす。

 パパのことが大好きな上の娘さんは5ヶ月で“球場デビュー”したそうだ。野球が大好きで、パパが登場したら手を合わせて祈りながら応援するという。なんともかわいい、そして心強い援軍だ。

 そして下のボクも、早くも5月5日のこどもの日に“甲子園デビュー”した。六甲おろしを子守唄にぐっすり眠っていたそうだが、まだわからなくてもきっと、潜在意識にはかっこいいパパの姿が刷り込まれたことだろう。ふたりにはできるだけ長くユニフォーム姿を見せ続けたいとパパは願う。

矢野燿大監督
矢野燿大監督

 家族に喜んでもらうことは、なによりも守屋投手のやりがいになっている。とともに、自身を支えてくれているもうひとつの思いがある。矢野監督への恩返しだ。

 「ずっとずっと目をかけてくれて…。矢野さんの役に立ちたいという気持ちをずっと持っている。それしかない」。

 昨年から矢野監督は「守屋はいいんだから。ずっと言ってるやん。守屋は使えるんだって」と言い続けてきた。

 今こうして1軍で花開きかけている愛弟子を、「崖っぷちに立ったからじゃないの。あとがないっていうか、このままじゃ…って。だから何でもやってやるっていう、ね」と、頼もしそうに見ている。

 これからも守屋投手は「バッターを狩りに」マウンドに上がる。どんな強打者にも恐れずインサイドをえぐり、狩って狩って狩りまくる。

 そして勝って、矢野監督を喜ばせることを誓っている。

(表記のない写真の撮影すべては筆者)

守屋 功輝もりや こうき)】

倉敷工高⇒Honda鈴鹿

1993年11月25日(25歳)/岡山県

184cm 88kg/右投右打/A型

2014年ドラフト4位

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