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進化し続ける36歳。楽天・藤田一也の新たなる挑戦

土井麻由実フリーアナウンサー、フリーライター
「ショートはオッケー!」藤田一也にお任せだ!!(撮影:筆者)

■繰り返した基本練習

毎年繰り返す基本練習
毎年繰り返す基本練習
気の遠くなるような時間をこの練習に費やす
気の遠くなるような時間をこの練習に費やす

 丹念に丹念に手中に納めたボールをネットに投げ入れる。軽快に足を動かしボールに入り、優しく、そして柔らかく扱う。それでいて素早い。

 今年も東北楽天ゴールデンイーグルス藤田一也選手は、自主トレで守備の基本練習を繰り返した。設置されたネットの前で構え、投げてもらったボールを捕球してネットに投げ入れるという、実に地味でしんどい練習だ。“相棒”も毎年同じで、藤田選手オリジナルのポケットのない平らな板状の小さいグラブだ。

 ショートバウンドや小フライ、また左右に振られるなど、さまざまな打球を想定したボールに対してステップを踏み、グラブを出す。そして即、スローイング動作に移る。

 そこには一切の妥協はない。繰り返し繰り返し、丁寧に丁寧に、まるでボールと会話でもしているかのように向き合っていた。

 これまでの年と明らかに違ったのは、より多くの時間をこの基本練習に費やしていたことだ。

球場や周りの方々に感謝
球場や周りの方々に感謝

 場所は今年も変わらず底冷えのする京の地で行った。ここで自主トレをするようになって、かれこれ8年になる。(詳細⇒

 「毎年、手伝ってくれる人たちがいるので」。グラウンドや用具の準備に始まり、ボール出し、ノック、ボール拾い、そして昼食の用意まで、さまざまなバックアップに感謝している。

順調な仕上がり
順調な仕上がり

 今年は例年に比べると大雪に見舞われることもなく、比較的天候にも恵まれ、屋外でのトレーニングがしっかりできた。

 昨年の自主トレではすこぶる体の調子がよかった。それゆえにやや飛ばしてしまい、最後の最後で足を痛めてしまった。年齢的にもケガは確実に命取りになることは、自身がいやというほどわかっている。

 今年はどんなに体が動こうが、「マイペースで」と自分を律した。しっかりと追い込みはするが、張り切りすぎないよう自制することを課した。

■ショートをメインに、セカンド、サード…すべて準備

ユーティリティに
ユーティリティに

 しかし悠長にしていられないこともわかっている。チーム事情が変わったのだ。埼玉西武ライオンズから浅村栄斗選手がFA移籍してきた。浅村選手の主戦場はセカンドだ。つまり、普通に考えればセカンドで出場することは難しいだろう。

 オフの間、考え続けた。セカンドでの出場を賭けて浅村選手に挑戦状を叩きつけるのか、はたまたそれ以外のポジションを奪いにいくのか―。

併殺の動きも入念に
併殺の動きも入念に

 藤田選手が出した結論は「ショートで勝負」だった。もちろんショートの経験も豊富だ。イーグルスではセカンドが定位置ではあるが、一昨年も14試合、ショートで出場している。

 「まず一番は(スローイングの)距離が延びる。角度も変わる。セカンドと逆の動きになるし、ショートは足を使わないと。足の使い方がもっと大事になる」と、セカンドとショートの違いを説明する藤田選手。

 そこで自主トレでもしっかりと足を使い、その使い方も意識した。「勘もしっかり戻したい」と、ショートでの併殺の動きも繰り返し体に染み込ませた。

この表情から、しんどさが窺える
この表情から、しんどさが窺える

 「とにかく基本練習のメニューが増えた。セット数は同じやけど、やることは倍になった。(練習は)楽にやろうと思えば、いくらでも楽にできるけど、あえてしんどくやっている」。

 長いシーズン、何が起こるか予想もつかない。どんなときでも対処できるよう、ショートはもちろんだがセカンドの準備、さらにはサードまで視野を広げて備えを怠らないようにと考える。

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 これまで下半身のケガが多かったこともあり、より下半身をいじめ、強化することも目的のひとつとしている。だから必然的にこれまでの倍、守備の基本練習をやることになったのだ。

 昨年は卓球やバドミントンを取り入れたり、脈拍管理をしながら中距離を走ったりもしたが、「その時間があったら今年は守備に割きたかった。とにかく基本練習。試合中に守備の余裕を持てるのは、これをやってるから。だから慌てない」と、徹底して取り組んだ。

後輩たちにアドバイスも
後輩たちにアドバイスも

 そしてこれまでは「基本練習に比べると、むしろ楽」と言っていたノックでも、今年は自らを追い込んだ。通常、4〜5人が交替で受けるところを1人でやることがあった。当然、休む間などない。

 次々と飛んでくるボールを捕っては、素早く正確なトスやスローイングを繰り返した。セカンドとショートで逆になる併殺の動きも含めてだ。

 そこにはポジジョンの確約のない若手のような“チャレンジャー”としての気概があふれていた。

■「藤田さん、年々野球がうまくなっていますね」

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 誰もが認める守備のエキスパートだ。ゴールデングラブ賞も3度受賞し、自宅には金色に輝くグラブが3つ鎮座している。

 そんな「職人」とも称される藤田選手が、守備でもっとも大切にしているのが“リズム”だという。

 「どんな打球でも、同じリズムで入れて捕れるのが大事。ゴルフでもドライバーもパターも打つときは同じリズムで入るのを心がけると、ミスが起きない。守備もそう。だから練習でいろんな角度やショーバン、ノーバンをやっとくことで、試合でもどんな打球がきても同じリズムで守れる」。

高森勇旗氏
高森勇旗氏

 そんな藤田選手を喜ばせるできごとが、自主トレ中にあった。かつて横浜DeNAベイスターズでチームメイトだった高森勇旗氏が例年どおり陣中見舞いに訪れ、練習を手伝ってくれた。

 「藤田さん、年々野球がうまくなっていますね」。高森氏がそんな感想をもらしたのだ。

 「めちゃくちゃ嬉しかったね」。目尻を下げる藤田選手。「自分では(守備力を)落とさないようキープしてるつもりやったけど、成長してるって見てくれてるんやなって」。

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 そう言われると、たしかに自分でも「もっとこうしたほうが…」という“引き出し”が、年々増えてきている。

 「結局、楽に、体に力が入らずに捕ること。そうしないと捕ってから早く投げられない。楽な、力が入らない捕り方を求めていったのが、うまく見えるようになっている。成果が出てるってことか」。なるほどと、本人も合点がいったようだ。

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 さらには構えの高さも変えた。「昔は低く構えてグラブを下から出してたけど、僕は体が硬いからしんどいし、次の動作に移るのが遅くなる。腰が高いほうが次の動作に早くいける」。自分の体をよく知り、その上でのプレースタイルを極めたことも大きいという。

 若いときには体が動くがゆえに“騙せて”いた。そのころには気づかなかったこと、できなかったことが、この年になって身についてきた。そしてそれが人の目にも留まった。このことは自信にもなり、改めてレギュラー獲りを誓う藤田選手にとって大きな“お守り”となっている。

■もう一度、優勝したい

守備練習で鍛えた下半身はバッティングにも生きる
守備練習で鍛えた下半身はバッティングにも生きる

 「嬉しかった」―。

 藤田選手の言葉は意外だった。イーグルスが浅村選手を獲得したと発表したときの心情を吐露した。しかしそれが、強がりでもきれいごとでもないことは、その目を見れば明らかだった。

 ここ2年はチーム戦略や自身の故障もあってセカンドでの出場は減っているとはいえ、「イーグルスの二塁手」といえば、真っ先に藤田一也の名前が挙がる。そこへ、自らが生きづらくなる“ライバル”がFAで加入した。なぜ喜べるのか。その真意を探るとこうだった。

お手伝いしてくれているこの背中…大塚尚仁さんも、かつてはこの自主トレメンバー
お手伝いしてくれているこの背中…大塚尚仁さんも、かつてはこの自主トレメンバー

 「優勝したい!優勝するためには浅村の力は絶対に必要。来てくれたのは、すごく大きい。優勝の可能性が増える」。そう言って、唇を真一文字にきゅっと結んだ。

 「ほんまにヤバイなっていうより、これで楽天が強くなるやん、て。こんな気持ちの持ち方、野球選手としてはダメですけど…」。嘘偽らざる本心だった。それほどまでに藤田選手は「優勝」を欲しているのだ。

優勝したい
優勝したい

 2013年に故・星野仙一監督のもとリーグ優勝、そして日本一に輝いた。藤田選手もバリバリの中心選手として歓喜の美酒に酔いしれた。

 堅実かつ華麗な守備は幾度もピンチを救ったし、野球ファンを魅了した。小技はもちろんのこと、チャンスでは勝負強さも光る2番打者の打撃は、相手に恐れられた。チームでは精神的支柱でもあり、貢献度は絶大だった。

 あれから5年、イーグルスは優勝から遠ざかっている。「もう一度、あの喜びを味わいたい。格別なんで」。それは藤田選手の渇望でもあるのだ。

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 しかし、ただ優勝したいのではない。その輪の中に自身がいての優勝、だ。浅村選手の力は必須で、心から歓迎している。その上で自分の役割を見つけ出す。ショートといえど、簡単には手に入らない。乗り越えなければならない壁が高いことはわかっている。

 「でも、野球選手である限りはレギュラーを獲る気持ちは捨てていないし、当然、ゴールデングラブ賞も狙いにいく」。その強い気持ちがブレることはない。

 ただ143試合、何が起こるかわからない。「そのための準備はしっかりしておきたい」と、フォアザチームの精神での備えも忘れない。

 7月に37歳を迎える。「もう」ととるか「まだ」ととるかは自分次第だ。

 「この1年が、あと何年できるかを左右する重要な1年になる」。それほどの覚悟をもって臨む。

 「優勝するために」、藤田一也選手はショートのレギュラーポジションを全力で奪いにいく。

山本剛久氏、荒波翔、石原彪、藤田一也、木村敏靖、森原康平、福山博之
山本剛久氏、荒波翔、石原彪、藤田一也、木村敏靖、森原康平、福山博之

(撮影はすべて筆者)

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フリーアナウンサー、フリーライター

CS放送「GAORA」「スカイA」の阪神タイガース野球中継番組「Tigersーai」で、ベンチリポーターとして携わったゲームは1000試合近く。2005年の阪神優勝時にはビールかけインタビューも!イベントやパーティーでのプロ野球選手、OBとのトークショーは数100本。サンケイスポーツで阪神タイガース関連のコラム「SMILE♡TIGERS」を連載中。かつては阪神タイガースの公式ホームページや公式携帯サイト、阪神電鉄の機関紙でも執筆。マイクでペンで、硬軟織り交ぜた熱い熱い情報を伝えています!!

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