中信兄弟(台湾)2軍の鬼監督・林威助(元阪神タイガース)が理想とする監督像とは・・・?

すでに来季に向けて燃えている林威助2軍監督(撮影:中川春香)

■継続は力なり

 日本の阪神タイガースで11年、台湾の中信兄弟で4年、強打者として活躍し昨年、現役を引退した林威助選手

 今年、中信兄弟の2軍監督として指揮を執り、1年目にして見事優勝を遂げた。就任してまず林監督がしたことは、厳しい規則を課すことだった。そして、これまでにないハードな練習で追い込み、戦える地力を作った。(参照記事⇒中信兄弟二軍守則

今月、日本に“里帰り”し、ファンミーティングを開いた(撮影:中川春香)
今月、日本に“里帰り”し、ファンミーティングを開いた(撮影:中川春香)

 そうしてスタートした2018年シーズンだが、開幕戦でいきなり敗戦。しかも8-21と大敗だった。「痛かったけど、次の試合で勝てばいいと切り換えた」。

 ところがそのまま5連敗を喫してしまった。さすがにガックリきた。しかし「今までやってきたことを継続するしかない。継続は必ず力になる。毎日少しずつでも成長してくれれば、いずれ大きな力になる」と信じてやり続けた。

 「継続は力なり」―。林監督自身も日本で頑張る支えにしてきた信念でもある。「昨年から比べて選手も入れ替わって、かなり戦力ダウンした。ウチの選手たちは今はまだ力がない。力はないけど、やり続けて体力がつけばなんとかなる」。そう信じた。

 林監督の考えはこうだ。「まず体力をつけること。体力がないと練習もできない。特に台湾は蒸し暑いので、そこで戦い抜く体力がもっとも必要。練習できる体力がつけば、そこから反復練習をする。反復練習をしないとうまくならない。とにかく体力さえつけば、必ず強くなる」。

 「心・技・体」とはよく言われるが、林監督にとっては「体・技・心」の順番だという。

いまだ日本に根強いファンを持つ(撮影:中川春香)
いまだ日本に根強いファンを持つ(撮影:中川春香)

 ここで思わぬ名前が飛び出した。「ソフトバンクの工藤監督も『来年も地獄のキャンプをする。1クール目、2クール目は走り込ませる』と言ってるって、記事で読んだよ」。なんと日本の記事もチェックし、情報収集しているとか。

 「読むほうは大丈夫(笑)。しゃべるほうは、1年しゃべってなかったら、最初はぎこちない。1週間、2週間いればうまくなるけど。でも慣れたころに台湾に帰る(笑)」。

 オフに入り、今年も11月下旬から12月上旬にかけて来日していた。「ぎこちない」と謙遜するが、スムーズに会話が弾むくらいに今も流暢に日本語を操っている。

林監督の信条。「なるようになる」「楽しく生きよう」(写真提供:イベント参加者)
林監督の信条。「なるようになる」「楽しく生きよう」(写真提供:イベント参加者)

 話が逸れたので戻そう。とにかく体力をつけることが先決だと、選手には口酸っぱく説いてきた。「たしかに台湾は蒸し暑い。でも暑い暑いと言って走らなかったら、どんどん体力は落ちる。試合は必ず九回まであって逃げられない。『今日は暑いから七回までにしよう』なんてできない」。

 会話の中に「体力」という単語が何度も登場する。

■台湾と日本の違い

このフォームは…?ジェスチャーゲームで沸かせる(撮影:中川春香)
このフォームは…?ジェスチャーゲームで沸かせる(撮影:中川春香)
笑顔がはじける(撮影:中川春香)
笑顔がはじける(撮影:中川春香)

 そもそもの練習施設が台湾と日本とでは違うという。「厳しくやりたいといっても、日本ほどはできない。バッティングもグラウンドで1ヶ所と室内だけ」。そうすると自ずと練習時間も違ってくる。

 「たとえば日本のキャンプでは、1日にひとり3時間は打つ。ティーをやってから、フリーバッティングを15分ずつ3ヶ所でやる。そこからまた室内で打ったり、そのほか特打も。バッティング以外にも守備やランニング、個別に特守もやる。台湾じゃバッティングは4人ひと組で15分だけ。それでしんどいって言ってる。じゃあ日本と同じだけ打とうとしたら12日間かかるよって言うんだけどね」。設備が整っていないこともあるが、そこまでやる習慣もなかった。

 ただ、台湾はかなり蒸し暑い。気候の差はなんともし難く、「熱中症になるからそこまではできないので、日本と台湾のミックスでうまく中和させようと。台湾でできるギリギリのところまではやるようにしている。やり過ぎもよくない、やらないとうまくならない」と語るように、林監督の苦悩が窺える。

■国際大会まで見据えて投手力を上げる

日本語でのトークも流暢(撮影:中川春香)
日本語でのトークも流暢(撮影:中川春香)

 1年目の今年は野手を徹底的に鍛えた。「4割バッターもいるからね」。その甲斐あって、9連勝、11連勝と大型連勝も経験した。その一方で「来年はピッチャーを立て直していきたいね」と最重要課題に挙げる。

 「せめて7回…いや5回はもってくれないと。3回で大量失点ではあとのピッチャーに迷惑をかける。それなりの球数を投げてくれないと」と、ここでもやはり体力不足を痛感しているという。

 「体力がないから100球も放れない。無理するとケガをする。体力をつけて放れるフォームを作る。アジア人は体をしっかり使って投げるから。そこは欧米とは違う。日本に近いやり方がいいんじゃないかと思っている」。来年は日本から藤田学投手コーチを臨時で招聘することも決まっており、林監督も楽しみにしている。

 「この環境だけでやるわけじゃないからね。国際試合となると速い球や伸びのある球を打たないといけない。ピッチャー(の質)を上げていかないと、日本や他の国には近づけない」。投手力のアップが打力を上げることにも繋がる。さらには国際大会も睨んで、台湾球界全体の底上げを切実に考えているのだ。

■「危機感」を植え付ける

優勝のトロフィーを掲げる(写真提供:中信兄弟)
優勝のトロフィーを掲げる(写真提供:中信兄弟)
愛弟子たちと優勝の記念撮影(写真提供:中信兄弟)
愛弟子たちと優勝の記念撮影(写真提供:中信兄弟)

 体力の向上とともに、林監督が選手たちに植え付けているのが「危機感」だという。「競争社会なんで。僕はずっと危機感を感じて野球をしてきた」。自身の野球人生は常に「危機感」と背中合わせだったと振り返る。それがスキルアップの要因にもなっていた。

 「台湾のプロ野球は4チーム。若い人が入ってきたら、出ていかないといけない人がいる。だから『もう5月だよ』『もう6月だよ』って毎月言って、選手たちの危機感を煽ってきた。夏には『球団ではもう戦力外の名前が出てるよ』って言ってね。10ヶ月間なんてすぐ過ぎる。『今日終わった、しんどい』じゃなくて、すぐ反省して『明日はこうしよう』って向かわないと」。

 そうした林監督の思いがだんだん浸透し、選手も変わってきたという。「意識が変わってきたのは感じる。選手たちのそういう成長は一番感じたかな」。そう言って嬉しそうに目尻を下げる。そういうときは“頑固オヤジ”ではなく、優しいお父さんのような笑顔だ。

笑顔はタイガース時代と変わらない(撮影:筆者)
笑顔はタイガース時代と変わらない(撮影:筆者)

 「やりたいことは8割から9割はできたかな。今いるメンバーを考えると、よくやれたんじゃないかと思う。選手たちもよくついてきてくれたしね。試合中に出したサインにも、選手が成功してくれたときは嬉しいしね。あぁ、練習をきっちりやってたんだなってわかる」。一定の手応えも得られた。

 「1軍にも送り出せたし、その選手が上で活躍もしてくれた」。苦労はしたが、2軍監督としての最大の喜びも味わえた。

■ひとりひとりの性格の把握で信頼関係を築く

ファンに手を振ってお別れ(撮影:中川春香)
ファンに手を振ってお別れ(撮影:中川春香)

 その根底には林監督なりの「人心掌握術」がある。監督に就任したとき、「まず、ひとりひとりの性格を把握することが大事だって考えた」という。

 選手たちとは一緒に寮に住み、寝食をともにしている。グラウンドでは厳しい林監督だが、プライベートでは雑談も交わし、冗談も言い合う。話もきいてやる。そこから性格を掴み、それを指導に生かしている。

 「叱って伸びるタイプなのか褒めて伸びるタイプなのか。プレッシャーに強いのかどうか。それだけでも違ってくる」。

 さらには練習をじっくり観察し、その動きから試合でのサインも考える。「バントが苦手な選手にいきなり厳しい場面ではさせられない。失敗したら小さくなっていくし、チームにも悪影響になる。プレッシャーがかからないところからやらせて、自信をつけさせる」。

 そして自身は、いかなるときも選手のせいにすることは絶対にするまいと、固く誓った。そうすることで、信頼関係を築くことができている。

今年のチームスローガン「原点」(撮影:中川春香)
今年のチームスローガン「原点」(撮影:中川春香)

 この1年、「一日中、チームのことを考えていた。1年間なのに3年くらいやった感じがする」と笑う。

 「練習メニューを考えて練習、試合をやって、終わったらまたすぐ次の日のメニューを考えて…。出発する時間を決めたり、そういう調整もしていた。あらゆることに目配り、気配りして。いい勉強になった」。

 監督とはいえ、実質は「なんでも屋」だ。「しんどかった…」と本音も吐露する。

 だが「ある程度わかってきたから、2年目は多少はやりやすくなると思う」と言い、「来年はさらにひとりでも多くの選手を1軍の舞台に立たせてやりたい。ファームの選手が1軍で活躍してくれると、本当に嬉しい。それが一番の喜びだから」と、またもや相好を崩す。

■星野仙一監督を目指し、昇っていく

来年の一字は「昇」(撮影:中川春香)
来年の一字は「昇」(撮影:中川春香)

 今年はチームスローガン「原点」にのっとり、基本からしっかりとチームの土台を作ることに腐心した。そして“来年の一字”に「」を挙げた。チームも自身もさらなる高みを目指す。

 そんな林監督が指揮官として今、思い浮かぶ人物がいるという。「星野仙一」。林監督が入団したときの阪神タイガースの監督だった。

 「星野さんは厳しいだけでなく、できたときには褒める。オンとオフをきっちりしていた。影響力もあるし、存在感がとても大きかった。ああいうふうになれたらいいなと思う」。

 まさに「頑固オヤジ」と「優しいお父さん」が共存し、その時々に合わせて使い分けていた監督だ。人心掌握にも長けていた。

 あの域に達するにはまだまだ若い林監督だが、今後さまざまな経験を積み、少しでも“理想の監督”に近づけるようにと、どんどん昇っていくつもりだ。

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