“本当のプロ野球選手”に―悲願の支配下登録に向かってヤクルト・大村 孟の奮闘は続く

甲子園球場にてバッティング練習中

■オープン戦での“お試し”

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 東京ヤクルトスワローズ大村 孟選手は今、人生を懸けて戦っている。“本当のプロ野球選手”になれるかどうかの瀬戸際に立っているのだ。

 2016年ドラフトの育成1位で入団した。昨年は春季キャンプ中の左足首捻挫にはじまって、シーズン中にも右肩、左太もも裏と立て続けに痛め、ケガに見舞われた一年だった。しかしその中でもイースタン・リーグで99試合に出場し、打率.268(チーム1位)、5本塁打と結果を残した。

 秋季キャンプでは1軍メンバーとともに徹底的に鍛え上げられ、万全の状態で今年を迎えた。春季キャンプもスタートこそ2軍に振り分けられたが、途中で1軍からお呼びがかかり、ここまでアピールを続けている。

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 小川淳司監督はこう話す。

 「秋のキャンプも連れていったんだけど、打つほうがいいいからね。あとは1軍のピッチャーにどう対応するか、そういうあたりを見て判断していく。支配下にするかどうかは『1軍で通用するかどうか』になるから、一気にハードルが上がる。でも、見てみようというところまではきたわけだからね」。

■最初の打席は日本プロ野球初の「申告敬遠」

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 こうして“お試し期間”がスタートした。初打席は2月25日のオープン戦・北海道日本ハムファイターズ戦だった。小川監督からは「いい場面でいくからな」と告げられていた。用意されたのは九回二死二塁、サヨナラの場面での代打だった。しかしここで予期せぬできごとが起こった。

 「申告敬遠」―。今季から導入されたこのルールのはじめての適用選手となったのだ。「ビックリしたのが一番。ええーって(笑)」。

 打つチャンスを与えてもらえなかったのは残念だったが、“1軍初打席”が申告敬遠で、しかも適用第1号になるとは。ある意味、鮮烈なデビューだ。

 続いて3月4日の読売ジャイアンツ戦では終盤の2イニングスにマスクをかぶったが、計4失点で捕手としてのアピールはうまくいかなかった。

 結果が出たのは次の試合、同6日の中日ドラゴンズ戦だ。九回無死一塁から代打でコールされた。「初球から思いきっていきたい」と考えて打席に入り、そのとおり又吉克樹投手の初球シンカーを捉えてレフト前へ。「うまく打てた」との手応えある一打は、記念すべき“1軍初安打”となった。

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 翌日のドラゴンズ戦でも2試合連続で安打を記録した。六回からマスクをかぶり、七回に打席が回ってきた。相手は谷元圭介投手だ。

 今度は粘って8球目、真ん中高めのストレートを引っ張った。「イメージどおりにいい感じで打てた」という納得の1本だった。

 「1軍のピッチャーはコントロールであったり変化球であったり、なにかしら一流だから活躍できている。そこで受けてしまったら負けると思ったので、引かないようにと思っていた」。追い込まれても粘って対応できたことに胸を張る。

 同10日の広島東洋カープ戦での出番は八回、先頭の代打だ。カウント1-1から中田廉投手の3球目、高めに抜けたフォークをライナーでセンターへ運んだが、相手の守備範囲だった。

 しかしアウトになりはしたが、「自分的にはうまく打てた」と、得た手応えは決して悪くはなかった。

■はじめてのスタメンはなんと「5番・指名打者」

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 同13日には甲子園球場に乗り込んだ。ここではじめてスターティングメンバーに名を連ねた。

 「前日の練習のとき、『藤浪(晋太郎)やから、いくぞ』と言われていたけど、まさか『5番・DH』とは思わなくて…」。チャンスを与えてもらっていることに感謝した。

 「打つほうの評価が高くなっているのは事実。ここまで代打で出て、期待が持てるなと。いいピッチャーに充ててどうかというのを見たい」。こう意図を明かしたのは宮本慎也ヘッドコーチだ。「150キロを超えるボールへの対応、落ちるボールの見極め…そういうのを見たい」。

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 大村選手にとっては昨秋のフェニックス・リーグで対戦経験のある藤浪投手だが、当時は「なんじゃこれは!速っ!」と衝撃を受け、「藤浪は別格でした」と話していた。以降、速いストレートに振り負けないよう練習を重ね、そのリベンジを果たすときがやってきた。

 第1打席は二回、先頭だ。ストレートを3球続けてファウルし、最後はカットボールでファーストゴロに打ち取られた。

 第2打席は四回、同じく先頭で打席に入り7球目、ショートのエラーを誘って出塁した。

 この回、打者一巡してまた打席が巡ってきた。はじめての得点圏、一死一、二塁だ。相手は藤浪投手から左の島本浩也投手に代わった。

 「外の出し入れのピッチャー」との認識は持っていたが、初球の外のストレートを狙って打ち損じ、ショートゴロになった。しかし全速力で一塁を駆け抜け、かろうじて併殺は免れた。

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 第4打席の新外国人・モレノ投手との対戦ではセカンドゴロ、そして最終打席で藤川球児投手と当たった。1ボールからの2球目、インサイドぎりぎりの高め145キロを打ちにいってファーストゴロに終わった。

 「もったいなかった…」。悔しそうにつぶやく。

 「ベンチに帰ったら慎也さんにも『もったいなかったな』って言われた。『いいピッチャーだから厳しいところにくる。まっすぐを打ちにいくのはいいけど、球種だけじゃなくて2段構えで待つようにしないと。このコースならこう打つという準備を』って。結果が出てなかったから、欲しがってしまった」。

 落ち着いて振り返れば、早いカウントから手を出すべき球ではなかったと気づく。スタメンで使ってもらい5打席も立たせてもらった。やはり目に見える数字として残したかったのだ。

 しかし自身の感覚は決して悪くはない。むしろ「状態はいいほう」だという。「あとは波をどれだけ減らせるか…」と今後を見据える。

 見守った宮本コーチも「ヒットはなかったけど、てんで打てそうにないというのはなかった。ある程度ツボにくれば強いスイングができる。“当て感”がいいね。打つ打たないだけじゃないところを、ボクらは見てるからね」と一定の評価を与えた。

 ただ、「これが本当の力なのか、今が調子いいからなのかを見極めないといけない。プロの世界なので、ごまかしごまかしでは難しい」とも言い、もう少し“試用期間”を延長することが決まった。

 「いい形で打っている。経験を積めば評価も上がる。頑張れば支配下にというところまでの評価にはなってきた」と、経験の少なさを今後埋めていくよう期待を込めている。

■走塁への意識も

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 バッティング以外の「これまではそこまで意識していなかった」という走塁などにも、大村選手は意識高く取り組んでいる。四回の出塁時も、次打者の中前打で三塁まで進んだ。

 河田雄祐 外野守備走塁コーチからも「よかった」と褒められたが、ただし注意も受けた。このとき二塁手のダイブで打球が一瞬消え、捕球されたように見えて「セカンドで止まろうと思った」という。しかし抜けた打球の勢いがなかったことや中堅手のチャージが遅かったことから、そこからセカンドベースを蹴った。

 「そこまで見えているならいい。ただ無理する場面でもない。一度躊躇したなら止まることも大事。行くなら100%大丈夫でないと」。0-0のスコア、ノーアウトなどの状況でもあったことから、今後に向けての助言を与えられた。

 大村選手はこの経験もまた、自身のひきだしに大切にしまった。

■1軍で野球やらんと意味ない

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 「1軍のピッチャーと対戦して、自分のバッティングができれば打てるという手応えが得られた」。ここまでの打席で手にした収穫だ。

 キャッチャーとしてはまだまだ経験不足を痛感している。しかし「せっかく1軍にいられるんだから、試合中もキャッチャーとして考えながら見ている」と1秒たりとも無駄にはしない。

 「今、楽しいです」と笑顔を弾けさせる。「去年は1軍がどういうものか知らなかった。みんながよく言う『1軍で野球やらんと意味ない』、その意味がやっとわかった。ここにずっといれるように、与えられた機会にしっかり結果を出していきたい」。

 今はただただアピールし続けるだけだ。

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(撮影はすべて筆者)

大村 孟おおむら はじめ)】東京ヤクルトスワローズ・育成1位

1991年12月21日生/169cm 80kg/右投 左打

福岡県出身/東筑高校―福岡教育大学―九州三菱自動車ー石川ミリオンスターズ(BCリーグ)

勝負強いバッティングが持ち味。遠投115m 、二塁への送球タイム1.8秒の強肩とインサイドワーク、頭脳的で投手の長所を生かすリードにも定評がある。