“UPSET(アップセット)” ― 広島・薮田、楽天・森原、阪神・尾仲、それぞれの番狂わせとは!?

今季から心機一転、UPSET社と契約した森原康平投手(撮影:筆者)

■「UPSET(アップセット)」とは番狂わせ

広島・薮田和樹投手のグラブ(写真提供:UPSET)
広島・薮田和樹投手のグラブ(写真提供:UPSET)

 「番狂わせ」「下克上格下のチームや選手が金星を挙げる。スポーツの世界において、これほど痛快なことはない。

 そういった意味を持つ英語を社名にしている「株式会社UPSET(アップセット)」。ここ最近、野球界でもUPSET社の用具やウェアをしばしば目にする。

 広島東洋カープ薮田和樹投手東北楽天ゴールデンイーグルス森原康平投手阪神タイガース尾仲祐哉投手

 彼らはオフィシャルサプライヤー契約選手としてグラブからウェア、スパイク、サングラスに至るまで、すべてUPSET社のものを使用している。

 プロ野球界には2016年から登場した新進気鋭のメーカーだが、そもそもはバスケットボールのウェアからのスタートだったという。そんなUPSET社の小野章吾社長に話を聞いた。

■オーダーのウェアを安価で

楽天・森原康平投手のグラブー1(写真提供:UPSET)
楽天・森原康平投手のグラブー1(写真提供:UPSET)

 小野氏自身、バスケットボールのプレーヤーだった。現在のBリーグのようにプロリーグが確立される以前、社会人でプレーしていたが、その当時から仲間うちでいつも話していたことがあったという。

 「ウェア、なんとかならないかな。新しいユニフォーム、ほしいよね」。

 小野氏によると、「当時、ウェアは大手メーカーのものしかなく、デザインはパターン化していて、その中から選ぶしかなかった。しかも高級品だった。高いから“一生もの”になるのに、そのわりに選べないというのは不満だった」。

 経験者でないとその価格は想像がつかないと思うが、当時バスケットのウェアはホーム用、ビジター用、それぞれ上下合わせて4~5万円もしていたそうだ。

森原投手のグラブー2(写真提供:UPSET)
森原投手のグラブー2(写真提供:UPSET)

 そこで引退後、新たなウェアを作る仕事をしようと決意した。他とかぶらない完全フルオーダーでありながら、安価なものを作ろうと立ち上がった。2010年、たったひとりの個人事業だ。

 「よく話していたのが、『居酒屋の飲み代くらい、つまり3~4千円で作れないかな』ってこと」。先述のホーム、ビジター、それぞれ上下すべて揃えて1万円ほどを目指したかった。

 そして、海外に当たるなどして手を尽くし、オーダーでありながら安価で提供できるユニフォームを完成させた。

 最初は「昔の仲間に買ってもらったり、行商のように販売していた」が、次第に評判が評判を呼び、どんどんとクチコミで広がっていった。

 その後、サッカーのウェアも扱うようになった。なでしこリーグアンジュヴィオレ広島のオフィシャルサプライヤーとなり、その縁で山野将光という人物と知り合った。現在のUPSET社・広島営業所長だ。

■野球界へ―ウェアだけでなく用具類も

阪神・尾仲祐哉投手のグラブー1(写真提供:UPSET)
阪神・尾仲祐哉投手のグラブー1(写真提供:UPSET)

 当時、山野氏はこう持ちかけてきた。「野球(界)でもやりませんか?」と。山野氏は大学まで選手として野球をしていたのだ。

 そこで草野球のユニフォームなどを作り始めるとともに、山野氏がカープに旧知の選手がいたことから、選手が練習など仲間うちで着るようなTシャツやファングッズなども作るようになった。

 そうしたことで広島県内での認知が高まり、付き合いのあるスポーツ販売店などから「用具はやらないの?」と要望されるようになった。

 「それなら、やってみようか」と製造は野球用具にも及ぶこととなった。

尾仲投手のグラブー2(写真提供:UPSET)
尾仲投手のグラブー2(写真提供:UPSET)

 しかしいきなり用具を作るというのは至難だ。小野氏も「野球用具をやるつもりなんて、まったくなかった。本当にたまたま。作れるとも思ってなかったし、野球用具は買うものだと思っていたから(笑)」。

 そこで老舗の販売店に紹介してもらい、さまざまな野球用具を作ってきた職人さんに当たり、頭を下げた。もちろんすんなり引き受けてくれる人ばかりではない。「門前払いも少なくなかった」という。

 そんな中、「選手ひとりひとり、個々のものを作りたい」というUPSET社のコンセプトに共鳴、賛同してくれた職人さんもいた。そこから全国の仲間に声をかけてもらい、用具作りの精鋭を揃えることができた。2015年の夏だ。

■広島・薮田投手と契約

薮田投手と握手を交わす小野社長(写真提供:UPSET)
薮田投手と握手を交わす小野社長(写真提供:UPSET)

 年が明け、「たまたま知り合った」というオリックス・バファローズの編成担当者から「用具を持ってキャンプに来い」と声をかけてもらった。

 仕上がった用具をかき集めてキャンプ地に持っていくと、外国人選手が気に入って使ってくれるようになった。その年からモレル選手ボグセビック選手は喜んでUPSET社のバットを使っていた。もちろん量産したものではなく、オーダー品だ。

 その後、横浜DeNAベイスターズ千葉ロッテマリーンズなどが練習で使用してくれ、ほかのメーカーと契約のない外国人選手は試合でも使ってくれるようになった。

 その過程で「選手がどういうものを求めているのかヒヤリングを重ねて、質を高めていった」と小野氏は語る。

 そして昨年のシーズン前に薮田投手と縁があり、オフィシャルサプライヤー契約とアドバイザリースタッフ契約を結んだ。「薮田投手も社名を気に入ってくれて、ともに歩んでいこうとなった」という。

■選手の要望をダイレクトに反映

尾仲投手と握手を交わす小野社長(写真提供:UPSET)
尾仲投手と握手を交わす小野社長(写真提供:UPSET)

 小野氏は言う。「大手メーカーと違って、できないこともある。正直、ないものもある。でも、選手と一緒に作っていきたい。『教えてください』という姿勢で作っていきたいし、できないこともできるように頑張りたい」と。

 また逆に「大手と違って小回りを利かせられるし、要望をダイレクトに反映できるのが強み」と胸を張る。

 「まだまだ体力的にそんなにたくさんは抱えられない」と、契約選手は先述の3投手のみだ。野球部門の拠点を広島に置いているため、いずれも広島に縁のある選手ばかりである。

 今年から契約した森原投手は広島県の、同じく今年からの尾仲投手も広島経済大学のそれぞれ出身であり、オフには広島で同じトレーナーのもと、一緒に自主トレを行う間柄だ。

 またほかに、契約までは至っていないもののベイスターズの笠井崇正投手のようにスパイクだけ使用するというような選手も幾人かいる。

■広くスポーツメーカーとして

森原投手のウェア(撮影:筆者)
森原投手のウェア(撮影:筆者)

 現在も、「野球メーカーになろうというわけではない」と小野氏は強調する。「『野球で財を成したい』とか『野球界に進出』とか、そういうつもりは毛頭ない」と言い切る。

 小野氏が目指しているのは「広くスポーツメーカーでありたい」ということだ。「いろんなスポーツに携わっていきたい。バスケ、アメフト、ラグビーも…。広く浅くというと語弊があるかもしれないが、正解はどこにあるかわからない」と語る。

 バスケのメーカーであった頃も、「素人の自分にできることだから、ほかの誰にでもできる。ひとつのことだけやっていたのでは淘汰されてしまう。幅を広げて変化していくほうがいい」と考えていた。

 「野球メーカーじゃない強みもある。たとえばデザイン。ほかのスポーツのデザインを野球に落とし込んだり、また逆もある」というように、3投手が自主トレなどで着ているウェアは、これまで野球界であまり見られなかった斬新でオシャレなデザインが多い。

■選手とともにUPSETしていく

森原投手と握手を交わす小野章吾社長(写真提供:UPSET)
森原投手と握手を交わす小野章吾社長(写真提供:UPSET)

 ただ、広くとはいっても「用具までやるつもりはなかったんだけど…」と小野氏は笑う。「たまたまタイミングとご縁でそういう機会があったから」とはいうが、運命はどう転ぶかわからないからおもしろい。

 用具を扱うことになって薮田投手と契約し、その薮田投手は昨季15勝3敗、防御率2.58をマーク。最高勝率のタイトルを獲得するなど素晴らしい成績を収めた。

 「ウチも薮田投手のおかげで“UPSET”した」と喜ぶ。お互いウィンウィンだった。

 「アメリカのスポーツ界、特にバスケ界ではよく使う言葉」という“UPSET”。

 「昨年サポートしたバスケのチームも調子よかったし、今年契約したチームも調子いい」と小野氏は微笑む。関わった選手やチームは、まさに“UPSET”を起こしているようだ。

 「薮田投手にはさらに飛躍を、森原投手にも年間通して活躍してもらいたいし、尾仲投手も1軍に定着してほしい」と小野氏は願う。

 3投手が今季、どんな“UPSET”を見せてくれるのか注目したい。

UPSET オフィシャルサプライヤーチーム

*埼玉ブロンコス(B3リーグ)

*愛媛オレンジバイキングス(B2リーグ)

*アンジュヴィオレ広島(なでしこチャレンジリーグ)

UPSET パートナーチーム

*オービックシーガルズ(X1リーグ)

*東京海上日動ビッグブルー(B3リーグ)