ゴールデングラブ賞奪還!東北楽天ゴールデンイーグルス・藤田一也選手のGG賞に懸ける思い

雪の舞う中、黙々とランニングする藤田一也選手

■3度目のゴールデングラブ賞

ゴールデングラブ賞を取り返す!

昨年1月の自主トレでこう宣言した東北楽天ゴールデンイーグルス藤田一也選手。そして昨季、有言実行で見事3度目の栄冠を手中に収めた。藤田選手にとって、この3度目のゴールデングラブ賞獲得には格別な思いがある。

“守備の名手”も恐れた天然芝
“守備の名手”も恐れた天然芝

昨年から本拠地のKoboスタジアム宮城(今年からKoboパーク宮城)のグラウンドは、人工芝から天然芝に変わった。一般的に人工芝に比べて打球速度が落ち、よりイレギュラーしやすいといわれる天然芝に変わることに、藤田選手はかなり警戒感を強めてシーズンに入った。「不安でしかなかった」と今も述懐する。

一昨年のシーズン終了後、天然芝に変わることを聞かされてから、そのことが頭から離れなかった。眠れない日が幾日もあった。“守備の名手”といわれる藤田選手がここまで不安を口にするのも珍しい。いや、名手だからこそ、恐れたのだ。

ピッチャーが打ち取った当たりは確実にアウトにしたい。ときにはピッチャーが打たれてガックリきたときにも、自身の手で助けたい。そんな思いで守ってきたからこそ、不安でしかたなかったのだ。

■開幕戦の1球で、より不安に・・・

開幕前にKoboスタで練習はできたがオープン戦はなく、初の実戦が開幕戦だった。不安の中でスタートした藤田選手に、いきなり試練が訪れた。「先頭打者の福田福岡ソフトバンクホークス)の当たりがセカンドゴロだった。一、二塁間よりのゴロがきて、シーズン初バッターの初処理で、それがちょっとモタついて内野安打になって、そこからの3失点だったんで…」。初回にいきなり3点ビハインドとなった。「その1球で、自分の中では『1年間、大丈夫かな』って、開幕前よりももっと不安になったのは確か」と振り返る。

不安によるストレスから体重が激減
不安によるストレスから体重が激減

そこからストレスは続いた。体は本当に正直だ。「トータルで7キロくらい痩せた」と衝撃の告白で、いかに精神的に負担であったかを明かしてくれた。「昨年の自主トレのとき、81キロくらいあったのが、シーズン中に72~3キロまで落ちて…。今までプロに入って体重が落ちるってことなくて、どっちかというと夏場とか太れる方やったのに。違うところに気ぃ遣っているんやなって」。ストレスや疲れから食べられなくなったのだという。

■練習での工夫と、試合で優先した確実性

そんなにも天然芝は違うものなのか。プロ入り以来、本拠地はずっと人工芝だった。「人工芝っていうのはバウンドの予測ができる。イレギュラーも少ない。天然芝は土との切れ目とか土の状態でイレギュラーしやすい。特に仙台って霜が降りたりする。霜と雨とでは全然スリップのスピン量が違う。日々状況が変わる感じで…」。“予測できない”ことが藤田選手を苦しめた。

今年の自主トレでも、棒を使っています
今年の自主トレでも、棒を使っています

しかし、だからといって手をこまねいているわけにはいかない。「慣れるしかなかった」と言い、その対処法を考え、実践した。「練習の時にわざとスタート遅らせたり、中途半端なゴロで捕ってみたり、わざと芝生のところまで打球を待って芝生の上で捕ったり、色々なことを想定してやった」。天然芝という“敵”を倒すために、あらゆる努力をした。

実はノックよりも基本練習をみっちりと
実はノックよりも基本練習をみっちりと

また、天然芝では「守備位置を変えにくい」という。これまで藤田選手はポジショニングを大切にしてきた。自ら「守備範囲は決して広くない」と言い、自身の中にファイリングされたデータ(状況、カウント、球種などによる打者の打球傾向など)を元に独自のポジショニングをとってきた。

しかし天然芝では、それは難しいと判断した。「予測できないのと、土と芝の切れ目がどうしても気になるので。土と芝の境目はどうしても段差もできるし、若干の硬さもある。中途半端に守るよりも、やっぱり土の上で守りたいという部分があったんで」。

そこで対処法として「中途半端な守備位置をとらないようにした」という。「前なら思いきって前、後ろなら思いきって後ろ。ゲッツーのときも、足の速いバッターだと(人工芝なら)若干前に守るけど、それだとどうしても走路との切れ目に当たっちゃうんで、そこまで思いきった守備位置はとれなくて、中途半端になるよりも確実性を優先した」。

練習で、そして試合の中で工夫することによって「結構、時間がかかった」とは言うものの、藤田選手は徐々に慣れていった。それでも「ちょっと安心できるようになってきたのは9月、10月くらい。ほんともうあと何十試合くらいのとき」と、慣れるのにほぼ1シーズンを費やした。

■グラウンドキーパーさんとのコミュニケーション

そんな藤田選手にとって、最も心強い味方だったのがグラウンドキーパーさんだ。「一番感謝している」という。「『硬さ、どう?』とか訊いてくれたり、水を撒くか撒かないとかも話したり。ボクは結構コミュニケーションがとれたんで。その人たちが一番いい状態になるよう対応してくれたっていうことに、すごく感謝している」と最敬礼だ。

1シーズン終えて、清々しい笑顔に
1シーズン終えて、清々しい笑顔に

特に夏の高校野球の時期は宮城県大会で高校生が一日に3~4試合使用する。そのあとのグラウンドは芝が痛み、土の部分は「ふかふかに柔らかくなる」という。「硬い部分と柔らかい部分の差が激しくなる。それを何とか固めていい状態にしてくれていた」と感謝の念が尽きない。

「1年間やって、ありえないようなイレギュラーはなかったし、これはもうグラウンドキーパーさんのおかげ。撥ねないって思えると、恐怖心とか不安が徐々に消えていった」。自身の努力に加え、グラウンドキーパーさんの手助けが非常に大きかったのだ。

■2年目の上積み

だからこそ、3度目のゴールデングラブ賞はどうしても欲しかった。初めての天然芝の不安の中で獲れたことは大きな自信にもなったし、何よりグラウンドキーパーさんへの恩返しを形で顕すことができた。もちろん今年は4度目の戴冠を目指す。「昨年以上のプレー、パフォーマンスは見せられるかなっていうのは思っている」と胸を張る。

バッティングでも結果を残す
バッティングでも結果を残す

「昨年はどうしても、思いっきりいけなかった部分というのはあった。自分の中でも『あぁ、今の捕れていたな』っていうのもあったんで」。先に述べた併殺打に関しても、昨年は確実性を優先したが、「今年はどうなるかわからない。不安もなくなってくれば、思いきった守備位置もとれるかもしれない」と、より“攻めの守り”も可能になってくる。「昨年は芝の上で守ることは少なかったけど、今年は増えるかも。人工芝のように芝の上で深く守ることができるかなと思っている」。

球場や天然芝のクセなど様々なデータを自身の中に蓄積し、不安が解消されつつある今年、より進化した「藤田一也の守備」が見られるに違いない。

ただ天然芝にも利点はある。「筋肉系に関しては、痛めたりの負担は少なかったかなと思う」と自身も実感しているように、体にとって優しいことは間違いない。精神的負担が軽くなりさえすれば、今後、藤田選手の選手生命を延ばす一助になってくれるだろう。

■今まで以上にハードなランメニュー

今年7月に35歳を迎える。藤田選手の中では、まだまだ若手には負けていないという自負がある。だがチーム状況、年齢で使われ方も変わってくる。「この年になると、それはしかたない。ベテランになると、そういうときは絶対くると思う。でも、そうならないように自分でもっていかないとチャンスは減る。若手以上の成績を残しとかないと使い続けてはくれないという年になってきたんで。それを思うと、この自主トレから気は抜けないというのはある」。自主トレにも並々ならぬ強い覚悟で臨んでいるのだ。

かなりハードなランメニュー
かなりハードなランメニュー

だからか、今年の自主トレでは今まで以上にランメニューが多い。「それだけじゃなく、なんだかんだプロ野球界って、走れなくなるとダメだよっていうのがある。ランニングメニューとか下半身強化ができなくなると、どんどん落ちていくって言われるので、年も年やし、走っとかないと。自分が1年でも長くやるって言っているし思っているので、走れないとダメだと思う」。きりりと表情を引き締めた。

「自分でもわかるほど体力も落ちてきている」との実感もあるという。「昨年、ストレスで体重が減ったのも、体力があれば減る量ももっと少なかったかもしれない」と分析している。

パーソナルトレーナーの幸 智之氏と二人三脚で
パーソナルトレーナーの幸 智之氏と二人三脚で

そのあたりは昨年から契約しているパーソナルトレーナーの幸 智之氏(参照記事⇒パーソナルトレーナーと契約したいきさつ)とも意見が合致しており、「幸さんも一年間見てくれて、『走った方がいい』とのことだったんで」と、走るメニューをクールごとに作ってもらった。この時期にしっかりと走り込んで、シーズンを戦い抜けるよう体力を貯蔵しておくのだ。

その他、守備の基本練習に割く時間も長い。「ノックって楽なんですよ。キャンプ中の特守は別として、この時期のノックはね。それより基本練習は下半身強化も兼ねてるからしんどい」。そのしんどい基本練習を例年より長く、30分以上はかけて行っている。

■目標は石井琢朗さん

ゴールデングラブ賞を獲り続けるためにも、バッティングも磨く
ゴールデングラブ賞を獲り続けるためにも、バッティングも磨く

藤田選手には夢がある。現役の間はゴールデングラブ賞を獲り続けることだ。「刺激になっているのは石井琢朗さん(現広島東洋カープ・一軍打撃コーチ)」と語る。「以前、琢朗さんの家に行ったときにすっごい豪邸で、そこに“ゴールデングラブ”がブワ~ッと並んでいた。うわっ。これ、かっこいいなと思って」。ゴールデングラブ賞の副賞である、受賞者が使用するグラブの型どおりに作られた金色に輝くグラブのことだ。石井邸には4つのゴールデングラブほか、輝かしい成績を讃えるものが数多く飾られてあった。

「ゴールデングラブ賞を初めて獲ったときは正直、それに手が届いたことだけで嬉しかったけど、あの琢朗さんの家のイメージがあるんで。今のボクの家の広さだと3つで十分やけど、ゆくゆくは広い家に住みたいというのがあるので、そのとき琢朗さんみたいに並べて…となると、やっぱ3つでは少ないし、1個でも2個でも多い方がいい。選手でいる限りは何個あってもいい。1つでも多ければ自慢にもなる」。またそれを見て、刺激を受ける後輩もきっと出てくるだろう。

そのときまで、藤田選手はゴールデングラブ賞を獲り続けるつもりだ。

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