“激戦区”のキャッチャーで奮闘する阪神タイガース・ルーキーの坂本誠志郎捕手

「超負けず嫌いなんです!!」と自身の性格について語る坂本選手

■地元・養父市の力強い応援団

濱中コーチのアドバイスを受ける
濱中コーチのアドバイスを受ける

「とんでもない負けず嫌いですね」。阪神タイガースのルーキー捕手・坂本誠志郎選手の性格を尋ねると、縁の人々は皆こう答える。坂本選手本人にも問うてみても、やはり「負けず嫌いです!」と即答する。

「絶対に負けたくない」。その一心でやってきた野球人生だ。176cmと決して大きくはない体で履正社高校、明治大学と強豪校で主戦を張り、今年からはプロ野球の世界でタテジマに袖を通している。対戦相手に負けたくないのはもちろん、チーム内競争にも、そして自分にも負けたくない負けじ魂の塊だ。

地元は兵庫県養父市。人口2万3千人強の小さな市だ。昨年のドラフトで坂本選手が2位指名を受けてから市内は大騒ぎだ。すぐに広瀬 栄市長を名誉会長に据えて有志による後援会が発足した。坂本選手の出身小学校や中学校をはじめ、市内のいたるところに横断幕やのぼりが飾られた。後援会のオフィシャルサイトでは坂本選手の日々の様子が伝えられ、地元の人々にとってはその活躍が喜びとなり、子供たちにとっては身近な目標になっているという。

後援会の応援バスツアー。オリジナルの応援グッズも!
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8月には「甲子園応援バスツアー」まで決行し、坂本選手のご両親やおばあちゃんも含め50人以上が参加し、三塁アルプス席から声援を送った。中には小学生時代の野球チーム「養父カープ」の村崎監督や、養父中学野球部の顧問である岩淺先生もいた。

そこでも両親をはじめ、これまで坂本選手に関わってきた人すべてが「とにかく負けん気が強い」「相当な負けず嫌い」と口を揃えた。

■小学3年からキャッチャーに

野球を始めたのは小学1年生だった。3年生からキャッチャーになったことについて坂本選手は「ほかに誰もいなかったってのもありますし、自分自身もやってみたいなって思ったんです。ボク、好奇心旺盛だったので(笑)」と話す。何より周りの大人たちがその姿や振る舞いを見て、「キャッチャーに向いているんじゃないか」と判断したそうだ。村崎監督も「当時も背は小さくてコロンとした体型やったね。何しろ頭がよかった」とキャッチャーとしての資質を見抜いていた。

バント練習もしっかりと
バント練習もしっかりと

当時から「ピッチャーが勝つ、抑えるとボクも嬉しかった。役に立ったというのが喜びだった。求められていることに応えたいという気持ちが強いんでしょうね」と、自らを“キャッチャー気質”だったと振り返る。

養父中学に進むと、そのまま学校の部活である軟式野球部に入部した。地元に硬式野球のチームもあったが、「硬式をやるつもりはなかった」と本人はきっぱり。「小6のとき、地区でチームを作って『6年生野球』というのをやったんですけど、そのメンバーを集めたのはボク。中学でもそのメンバーで野球やりたかったし、知らんヤツと硬式やっても面白くないと思って」。自分が誘って作ったチームで中学までは全うしたかった。仲間たちへの思い、チーム愛も人一倍だった。

定位置よりかなり前で速球対策
定位置よりかなり前で速球対策

履正社高校に入学するとほとんどが硬式経験者で、18人の部員の中で中学まで軟式だったのは3人しかいなかった。ここでも「負けず嫌い」がいかんなく発揮された。「ほかの2人と『なめられとったらアカン』って、硬式組に負けたくない、負けないようにしようと必死に頑張りました」と、1年秋に正捕手の座に収まった。

■デビューは甲子園球場でのジャイアンツ戦

ルーキーイヤーの今季は1軍キャンプに抜擢されたものの故障で開幕は出遅れた。「焦りはありましたよ。でもやっちゃったものは仕方ないし、きちんと治すことと、できることはしっかりやるしかない」と前を向いた。

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5月に1軍初昇格したが出場機会がないまま抹消され、ようやくチャンスが訪れたのはシーズンも後半に入ってからだった。1軍再昇格翌日の読売ジャイアンツ戦でいきなりスタメンマスクでのデビューだったが、浮ついた様子もなく落ち着いており、大物感を漂わせた。しかし能見篤史投手との“但馬バッテリー”で勝利に導くことはできず、途中交代となってしまった。

その後、初ヒット、初長打を記録し、キャッチャーとしての喜びは8月10日、広島カープ戦での2度目の“但馬バッテリー”でようやく味わうことができた。

片岡コーチに見守られながらフリーバッティング
片岡コーチに見守られながらフリーバッティング

「プロアマの違いって、バッターの対応の早さですね。アマチュアのときなら何度も通用したのが、プロだと抑えても次は通用しない、捉えられる」と坂本選手はここまでを振り返る。「でもこれは逆にも言えるんです。自分がバッターだったら、そうならないといけない。相手バッターに嫌がられるバッテリーと、相手バッテリーに嫌がられるバッターは表裏一体ですよね」。

■キャッチャーらしいキャッチャー

そんな坂本選手を矢野燿大 作戦兼バッテリーコーチはこう評する。「キャッチャーらしいキャッチャーと言えるかな。洞察力が優れているし、声もよく出ている。状況もよく見ているし、サインに意図がある。なんとなくというのがない。ちゃんと自分の意図をもったサインが出せているのは、経験が少ない中ですごいと思うよ」。

連日の矢野コーチによる特訓
連日の矢野コーチによる特訓

「状況をよく見ている」という例として、9月6日のジャイアンツ戦でのプレーを示してくれた。五回表、一死二、三塁。内野は前進守備だった。能見投手は小林誠選手に注文どおり内野ゴロを打たせ、ショートの北條選手は捕球するや即、ホームに投げた。すると坂本選手、三走の村田選手へのタッチを待たずすぐにサードへ送球したのだ。どうやら二走を仕留めてからでも間に合うと読み、二走と三走の併殺を取りにいったのだ。

これには矢野コーチも「自分がいけると思ってやった。状況もよく見えているということだし、トライしたことは素晴らしい。そういう引き出しを持っているヤツや」と絶賛した。

内野ノック
内野ノック

坂本選手本人も「学生のときからそういう練習もしてきましたし、常に狙っています」と胸を張る。ただ二走のクルーズ選手の三塁到達が思ったより遅く、結局、三走のタッチアウト1つしか取れなかった。しかし結果ではなく、瞬時に考え、そのプレーを試みたことを矢野コーチは高く評価した。

■ワンバンブロックでピッチャーとの信頼関係を築く

ワンバウンドを止める練習
ワンバウンドを止める練習

またランナーが三塁にいる状況でも、臆することなくフォークのサインを出すことについても、矢野コーチは認めている。「練習では下手なんやけどなぁ…」と笑いながらも、「試合になったらしっかり止められている。練習時より足幅が広くなるんかな」と、ワンバウンドの変化球を逸らさず止めていることを讃える。

「ランナーがサードでビビってるキャッチャーは、こっちも使えんからね。ビビってたらピッチャーにも伝わる。『コイツ、逸らすんちゃうか』と思うと、球が浮いてしまったりする。ワンバンブロックは大きいね」。止められる自信があるから、いや、絶対に止めてやるという気概があるからこそ、フォークのサインも出せる。その堂々としたサインはピッチャーにも勇気を与え、思いきって腕を振らせるのだという。

どんなボールにも素早く反応する
どんなボールにも素早く反応する

「いや、ビビってますけどね」と笑わせた後、坂本選手は「常に意識して準備はしています。必死です」と表情を引き締めた。「アマチュア時代、フォークを逸らすのが怖くて、まっすぐのサインを出して打たれたことがあるんです。今までそういう悔しい思いをしたことあるんで、悔いを残したくないんです。自分が努力すればいいことですから。変化球のサインを出したら、ワンバンがくるもんだと思って、準備だけはしっかりするようにしています」。

“守り”で生きていく覚悟
“守り”で生きていく覚悟

さらに矢野コーチはこんな分析をする。「若いキャッチャーは肩の強さとかバッティングでアピールしたがる。けど誠志郎は、自分でもそこまで肩の強さやバッティングが優れていないと思うからか、ほかでカバーしようとする。それがリードやインサイドワーク、状況判断のよさに繋がっているんじゃないかな。自分は“守り”でないと生きていかれへんと、腹くくってるんちゃうかなと思う」。

きっとそれも「負けじ魂」の顕れなのだろう。キャッチャーとして勝ち抜くために何をすればいいか。すべての根底には「負けず嫌い」の精神があるのだ。

■矢野コーチからの粋なプレゼントは、おじいちゃんの元へ

そんな坂本選手に矢野コーチが粋なプレゼントをした。8月10日、坂本選手が初めて試合終了までフルでマスクをかぶって勝った試合の直後だ。ベンチで道具を片付けている坂本選手に、矢野コーチはそっとウィニングボールを差し出した。「(坂本は)それまで途中交代したり、ずっとやられていたしな。1試合かぶって勝った記念に。まぁ、あの日は特にピッチャーで渡さなあかんというヤツは誰もいなかったし」。

さわやか~
さわやか~

これには坂本選手も「最初はビックリしました。でもそれまで色々あって、そこが一つの区切りというか、スタートだなって。より気を引き締めて頑張っていこうと思いました」と感激した。

そのボールは今、自室のおじいちゃんの写真の横に添えて置いてある。坂本選手のプロでの活躍を見届けることなく亡くなった大好きなおじいちゃんは、いつも見守ってくれている。

「もうちょっとおじいちゃんに頼ろうかな(笑)」。冗談ではあるが、やや弱気な言葉は珍しい。プロの世界で戦うことのしんどさが垣間見えた。

今シーズンも残り2試合。坂本選手は最後まで「負けず嫌い」を発動して戦い抜く。