阪神タイガース春季キャンプ―安芸からの逆襲 鶴直人投手編

進化の途上にある鶴直人投手

■安芸からの逆襲―第1弾は鶴直人投手

2015年春季キャンプがスタートした。阪神タイガースは沖縄・宜野座と高知・安芸に分かれてキャンプを行っている。宜野座には若手が多く配置されたことにより、これまでは宜野座の“常連”でありながら、安芸に振り分けられた中堅選手もいる。

安芸からのスタートであっても、開幕のその時には当然1軍メンバーに名を連ねてやると牙を研いでいる選手の意気込みを、安芸から届けよう。第1弾は鶴直人投手だ。

フリー打撃に登板する鶴投手
フリー打撃に登板する鶴投手

1月23日、振り分けメンバーが発表された日、鶴投手は「ガッカリということはなかった。(宜野座か安芸か)ハーフハーフで待っていたので」と明かした。2010年以来5年ぶりの安芸キャンプだ。「立場が明確になったけど、やることはしっかりやりたい。早く上がるための投げ込み、戦っていくための体力作り…やることはいっぱいある」と闘志を燃やしていた。

実際、キャンプインしてからも精力的に汗を流した。「いい状態で上がる準備ですね。去年と違うものを見せるために何をしないといけないかというのを明確にして、それができている」。頭の中もプラス方向に切り替えた。「1軍キャンプだと投げ込みして、アピールして…という、“そこでのいい球”を投げたいというのが強くなってしまうから。“バッターにとって何が嫌か”というような具体的なことは今の方ができる」。もちろんやることは変わらないのだが、注目度の高くない安芸にいることで、より自分と向き合えているのだ。

自分と向き合う中で、「バッター目線の考え方」に至った。「自分で自分を見た時、『打ちやすい』とか『タイミングがとりやすい』とか『球質が軽い』とか、そういったところは気になっています。金本(知憲)さんが現役の時にも言われたことがあるんです、『怖くはない』って」。

トラヴィス投手とのペアでダッシュ
トラヴィス投手とのペアでダッシュ

けれどそれがどういうことか、当時は本当の意味がわかっていなかった。「球が速いとか、そういうことじゃないとはわかっていたけど、じゃあ自分の現状をどう打破したらいいのか、わからなかった」という。

それが今、わかりつつある。積んできた経験によるものもあるし、藤川球児投手(現テキサス・レンジャース)との自主トレによる影響も大きい。藤川投手の自主トレに初めて弟子入りしたのが3年前。昨年は参加しなかったが、今年、2年ぶりに門を叩いた。そこで、過去2度とは違うものを得た。

■藤川球児投手との自主トレで得た「自分の軸」

初めて参加した後、鶴投手の言動が随分変わったことが見て取れた。大人になったというのか、発する言葉に自信が宿るようになった。それだけ藤川投手の影響力は大きかった。それが更に今年の自主トレでは、今までにない感覚があったというのだ。「技術的なことはもちろんですけど、どうあるべきかとかの考え方や捉え方。とにかく話す時間が多かったので、色んな話をしました」。話は性格や弱点など内面にまで及び、そこで気づかされたのが「自分の軸」。「ブレていた自分がいました」。と分析する。

藤川投手から授けられたのは、「内に秘めていてもアカン」という教え。「ハッタリではなく、自信を持って自分にプレッシャーをかけろ」と。周りを気にして、なかなか自分の思いを発することができなかった鶴投手の背中を、思いきり押してくれたのだ。

改めて藤川投手に尋ねられた。「オマエ、いくつになった?」「27歳です」と答えると、「ええ年やん。もうオマエに対してガキ扱いすることもないな」と藤川投手は笑った。一人前と認めてくれた。「ボクも10年目だし、いいきっかけになった。今までは球児さんの前で言えないこともあったけど、今年は質問もたくさんできたし、ちゃんと会話に入れた。ボク自身も成長した」。大きく変われる確信を得た。

ダッシュ後の爽やかな表情
ダッシュ後の爽やかな表情

そこで自分自身と向き合った。今、一番必要なことは何か、自分がプロに入れた良さは何だったのかを考えた。答えは「しなり」だ。それがなくなっていた。「ケガが怖いというのもあった。でもそれにビビり過ぎて自分に防御をかけていた」と振り返ることができた。

そしてピッチングというものも改めて考えた。前述の「バッター目線」もそうだ。「今更150キロがバンバン出せるかと言ったらクエスチョンなんで。それなら確率のいい方法を選ばないと」。そう考えて臨んだ今キャンプのフリー打撃登板では、「淡々と投げるのではなく、今まで以上に1球1球考えた。今投げた球と次の球の変化の違いを見たり、同じまっすぐでもタイミングを変えてバッターの反応を見たりした」と、感覚だけでなく、その裏付けとなる理論を重視した。「球児さんと話したことを頭に置いてやることで、全然違った」という。

その一方で、「とは言いながらも150キロとか、空振りの取れるまっすぐとかも目指しますよ」と、ボール自体のパワーアップも疎かにはしない。「力も目指しつつ、バッター目線の考えでアウトにする確率を上げる。そこをしっかりしていけば、何をしなければいけないかハッキリ見えてくる」と力強く話す鶴投手。「鶴直人」というピッチャーの軸が固まりつつある。

外野で伊藤和投手と
外野で伊藤和投手と

■“いったれ精神”で先発争いに割って入る!

11日、今季初の対外試合となった西武ライオンズとの練習試合で先発を務め、3回をパーフェクトに抑えた。「ブルペンとは違ってバッターに投げることで、体の動きが違う。ちょっと間を変えてタイミングをズラしてやろうと思うだけで、体がいい感じでやりたい方向に動いてくれる」。今後も実戦でこの感覚を積み重ねていき、1軍からお呼びがかかる日を待つ。

もう内に秘めない。今年は声を大にして宣言している。「先発がしたい」と。もちろんチーム事情でどうなるかはわからない。しかし今の時点では、誰憚ることなく願望を口にしたっていい。「今年は“いったれ精神”が強いんです。やったるって感じです!」

あどけなさが残り、どこか優しげだった鶴投手が、今年はとても逞しく頼もしい。