4つ目のウイニングボールを目指すランディ・メッセンジャー投手

いつも陽気なメッセンジャー投手

「SMBC日本シリーズ2014」は第4戦まで進み、1勝3敗とホークスが日本一に王手をかけ、タイガースは崖っぷちに立たされた。日本一を勝ち取るため、甲子園に帰るためには、タイガースは今日の第5戦を何としても落とすわけにはいかない。

その絶体絶命の一戦の先発マウンドに上がるのは、ランディ・メッセンジャー投手だ。今季、挙げた勝ち星はセ・リーグ最多タイの13。完封勝利3、完投勝利3もリーグトップだ。奪三振数は226で2年連続最多奪三振の称号を手にし、投球回も208と1/3でリーグNo.1の鉄腕ぶりを見せた。

ポストシーズンでもクライマックスシリーズのファーストステージ、そして日本シリーズの初戦に登板し、それぞれ8回無失点、7回2失点で勝利投手に輝いた。チーム1の安定感から抜擢された大一番の先発で、見事期待に応えた。

きっと今日のゲームでも、鷹打線をキリキリ舞いさせる快投を見せてくれるに違いない。

■大成功だった先発転向

メッセンジャー投手がタイガースに入団したのは2010年だ。来日当初は中継ぎが持ち場だったが結果を残せず、4月下旬にはファームに降格となった。そこでチーム方針により、先発に転向。これが見事にハマり、7月からは1軍で先発として14試合に登板した。翌11年からは先発ローテーションに入り、以降4年連続で2ケタ勝利を挙げている。

「まさか先発をすることになるとは…。先発をやりたかった?それは一切なかったね。ファームにいて、1軍でチャンスをもらえるならやってみようと。迷いはなかったけどね」と振り返るメッセンジャー投手。

学生時代以来だったというスターター。「昔やっていた頃に戻った感覚だった」と、過去の記憶を呼び覚ました。例えば球種。「中継ぎのように1度きりの対戦ではなく、1試合の中で同じバッターに2度も3度も当たる。しっかり低めに投げるのは同じだけど、目線や高低、タイミングを変えたりすることが必要になってくる」と、カーブなどの遅い球を織り交ぜるようになった。「昔に使っていたカーブを思い出して投げるようにしたよ」。要所でのメッセンジャー投手のカーブは有効で、また逆に、カーブが冴えている日は好投できている。

■持久力と瞬発力と精神力

キャッチボールをするメッセンジャー投手
キャッチボールをするメッセンジャー投手

200回を超える投球回にも表れているように、無尽蔵のスタミナを誇るメッセンジャー投手は、中4日という短い登板間隔を好む。しかも投球数がメジャーの投手のように100球前後とは限らず、できる限り長いイニングを投げることを希望する。時には150球近くになることもある。

驚くのはトレーナーのマッサージをほとんど受けないことだ。「打球が当たったりのアクシデントがあれば治療を施しますが、それ以外、トレーニングもほぼ自分で考えてやっていますね。トレーナーの手を煩わせないんです」と、権田トレーナーも目を丸くする。「トレーニングのメニューも自分で考えてやっているんですけど、しっかりメリハリつけてやっているし、それでちゃんと結果も出しているからスゴイですよ」と舌を巻く。

「恐らく先発になったことで、トレーニング法も確立していったんでしょうね。先発だと投げる日が決まっているから、登板に合わせて登板間のメニューを組み立てるとか、自分のペースでできますから。雨が降っても、自分で決めたメニューは屋内でキッチリやっていますね」という権田トレーナーの話を、メッセンジャー投手本人にぶつけてみた。

すると「いい意味でトレーナーのお世話になりたくないんだよ。できればトレーナールームにも入りたくないくらいだよ」と笑顔を見せた。権田トレーナーも絶賛するそのトレーニング法や知識は、「プロになった時、周りの詳しい人達が教えてくれたんだ。その中から自分で役立つと思うものを取り入れてやっているんだ」という。

中でも最も重点的に行っているのがランニングだ。「長距離を走ることで血流を良くして、乳酸をとるんだ」。甲子園球場の外周を軽やかに走るメッセンジャー投手に遭遇したことがある人もいるのではないだろうか。少なくとも40分は走り続けている。「ただ走るだけじゃつまんないから」とヒップホップを聴きながら。

練習前のメッセンジャー投手
練習前のメッセンジャー投手

しかしマッサージも受けないとは、稀有な選手だ。「本当に必要になれば、お願いすることもあるかもしれないけど、痛みもいっさいないんだ。張りで済んでいるよ」。どれほど強靭なんだ。いや、それもセルフチェックをしっかりしているから、大事に至らないのだ。

「自分の体をよく知るということが重要なんだ。自分の体と対話して、些細なことでも気づくこと。そしてすぐにケアをすること」。最も気をつけているのは「やり過ぎないこと」だという。「特に疲れが積み重なってくるこの時期は、限界を超えてオーバーワークになるとケガにつながるからね」。細心の注意を払っている。

投球数にも投球回にも驚かされるが、決して無理や無茶をしているわけではない。自分の体をよく知っているからこそ、できることなのだ。

そうして作り上げてきたメッセンジャー投手の体は、「持久力も瞬発力も優れている」と権田トレーナーは讃える。更には「体だけではなく、精神力も素晴らしい。初戦にいきたいとか、中4日で投げたいとか、自分が引っ張っていこうという気概を感じる」と賞賛を惜しまない。

■4つ目のウイニングボールを目指して・・・

現在、奥さんの出産のために家族はアメリカに里帰り中。妊娠8ヶ月(33週)だというお腹の中のベイビーは、既に男の子だということが判明しているそうだ。そういえば2番目の女の子は日本での出産だった。その記念に何か日本語を名前に入れたいと、ミドルネームに「jijo(次女)」とつけ、「コレット・ジジョ・メッセンジャー」とした…なんてこともあったなぁ。日本人としては嬉しい話だ。

その家族はパパの帰りを心待ちにしているが、「これだけ長いシーズンになったんだから、せっかくなら日本一の称号を持ち帰ってね」と“大きなお土産”も楽しみにしている。

そのためにも、今日は大事な一戦だ。ここまで節目の試合「スペシャル ウインズ」のウイニングボールには日付その他を書き入れて、大切に保管している。シーズン13勝目、クライマックスシリーズ初戦、日本シリーズ初戦の3つボールは「アメリカに持って帰って飾るよ」という宝物だ。

「この時期まで野球ができているのは非常に嬉しい。12チームあって2チームしかできないことだから」。最も長く野球ができる喜びを噛みしめつつ、4つ目のボールもそこに加えるつもりだ。