14億人中国の暗雲:男女人口大差と年金使い込み

 中国大陸部の人口が14億人を超えました。男が女より3049万人多いと報じられるも問題は若年層男女比が1.2に迫っている点と、次の10年で年金受給者が激増し、さらに個人積み立てが大量に使い込まれています。昨年「中国の公的年金の積立金が2035年に枯渇する」との試算が話題になりましたが、実は5年前の2015年第482回「国家のエゴが歪ませた中国年金制度は大火薬庫」で描いたボロボロの実態が目に見えるようになりました。また、1980年から始まりようやく終了の一人っ子政策が招いた極端な男女人口差が適齢期の若者を脅かしています。

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 10年ごとの国勢調査が今年始まったばかりなので、最新の2010年調査を利用して5歳階級で男女人口を60代までグラフにしました。現実には10歳年上に上がっています。巨大人口なのでグラフの一目盛りは1000万人です。女性に対する男性の比は「0-4歳」1.19、「5-9歳」1.18、「10-15歳」1.16、「15-19歳」1.08であり、20歳代は男女ほぼ同じです。若年層が1.2に迫っているわけですから同じ世代同士で結婚するなら男6人に1人は相手がいません。数が多い年上の男性と結婚する分、さらに中国でも結婚しない女性が急増中と聞きますから、男5人に1人、いや4人に1人、もっとかもしれません。

 グラフを10歳年上に移して見ると、これは大変だと分かります。ちなみに2020年現在で20-24歳層の男性は4026万人、女性は3464万人であり、その差は562万人にのぼります。農村部の嫁不足で東南アジアからだまして連れてくる犯罪がニュースになっている程度では済まず、この差は都会でも強烈に効くでしょう。社会不安定化を心配する専門家もいます。

 2015年の第482回では、金沢大で書かれた王逸飛さんの博士論文《中国における公的年金制度の構造的問題―経済・労働システムと政府間関係の視点から―》を発見したのが大きな拠り所になりました。ここに記載のURLは新しく検索したものです。

 今回の検索でこの王論文をアップデートする内容の博士論文《中国における公的年金制度の展開と課題 -三つの格差問題を中心に- 》が滋賀大にあるのを見つけました。

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 全明氏の論文中から「表 2-2 個人口座の積立金残高に対する分析」を引用しました。王論文では2011年までのデータでしたが、2014年までに収入の8%である個人積み立ては4兆974億元に達し、このうちで地方政府が使い込んで空になっているのが3兆5973億元にもなりました。日本円換算では16倍すればよく、57兆円余の使い込みです。この個人口座は亡くなっても遺族に引き継がれます。

 《被用者が死亡した場合、個人口座残高は遺族によって継承されることが「社会保険法」によって法的に認められている。逆に、長生きしても死亡するまで給付される終身年金制度であるため、社会プールから繰り入れを行わなければならず、これも間接的には政府補助に依存することになる。したがって、バランスシートにおける個人口座の赤字は、制度設計による給付段階の欠陥が少なからず作用すると思われる》

 使い込み問題で一番新しい数字は、ニッセイ基礎研究所の《中国の年金制度について(2017)-老いる中国、老後の年金はどうなっているのか。》が5ページ目の「個人勘定をめぐる流用問題」でこう述べています。

 《原因は、1980年後半以降、現行制度が各地域の運営に委ねられる過程において、地方政府の財政難もあって、当座の年金支給を国庫や地方財政ではなく、個人勘定の積立金から拠出した点にある。本来であれば2015年時点で、個人口座の積立残高は4兆5,443億元あるべきであるが、実質的には3,274億元しか残っていない状態にある。不足額のおよそ4兆2,000億元は、基本年金基金の残高3兆4,115億元をも超える規模になっている》

 基本年金基金とは企業が拠出した賃金20%分の保険料を集めた社会プールのことです。15年先に枯渇どころか、個人積み立て使い込み分を計算に入れると、中国の年金財政は今現在で大赤字なのです。

 枯渇報道で若者らが動揺しているとして、中国政府は国有企業株式8兆4千億円を年金財政に移管する意向のようです。しかし、これまで見たように焼け石に水です。また、男性60歳、女性55歳の退職年齢を引き上げて年金受給開始を遅らせる話は出ているものの確定しません。第577回「皇帝・習近平では法定退職年齢引き上げは困難」で指摘したように、独裁体制になればなるほど庶民受けする善政を敷かないと体制がもたないからです。それにしても最初のグラフを見ていただくと、今後10年、15年で大きな人口ピークが年金をもらい始めます。その下の現役層の薄さを知ると空恐ろしい大変さが理解できるでしょう。