中韓とも国家としてお金の回し方を間違えた

中国の高速鉄道は「火の車」との研究者指摘あり(写真:ロイター/アフロ)

 東アジアの隣国、中韓の経済に異変が起きています。米国に圧迫されているから中国が大変なのではなく改革開放路線の国家主義的改造が失敗だったのであり、韓国は国家財政を注ぎ込んで失業者を増やす愚策決行中です。2017年7月に書いた第562回「経済オンチの国家トップ戴く中韓の危うさ急拡大」で予感されたトラップが次々に現実化している様を最近の報道で点検してみます。中国の場合、経済発展が腰折れする「中所得国の罠」を回避できる可能性は無くなったと思えます。

   ◇中国◇

 習近平国家主席が民間企業より国有企業を重視した経済運営を志向した結果、新規融資に占める国有企業の割合が3割前後だったのに2016年には8割を超えました。雇用の大半を生み出しているのは民間企業であり、国有企業は11%に過ぎないと言われるのにです。国家依存の非効率的な運営をしている国有企業にお金が集まり、しかも製造業の上流を占めているために下流の民間企業に決済などで無理を言い大手を振って歩く現状は、トウ小平氏が始めた改革開放路線とは異質です。

 中国企業の「国進民退」が大衆の消費不振にまで響いていると、ウオールストリートジャーナルの《中国消費の低迷、真犯人は「家計の敵」国有銀》は説きます。

 《問題の根本的な原因は、中国工商銀行(ICBC)や中国銀行(BOC)といった国有銀行が、特権的な地位を占めていることだ。国有銀は個人の預金を一手に集め、国が定めた低水準の利子しか支払っていない。一方で、規模の小さい銀行に貸し出しを行う。こうした小規模銀行は実体経済への融資の多くを担っているが、金利を自由に設定することで、一般家庭の預金を競って集めることを禁止されている。つまり、国有銀は預金者と小規模銀行の間に立ち、預金者からは利息を奪い、小規模銀行の調達コストを引き上げることで、大きな預貸利ざやを稼いでいるのだ》

 《これらはすべて、別のところでも家計に打撃を与えている。なぜか。例えば、単に小規模銀行が、信用の高い国有企業に貸し出すことで、楽に収益を上げられる環境にある中で、国有銀がリスクの高い民間企業へとわざわざ融資することがあるだろうか? だが、こうした民間企業こそ、雇用創出を支えている立役者だ》

 お金の回り方が異常である点で、中国が5000万戸もの住宅在庫を抱えているとのブルームバーグ報道もショッキングでした。《迫る中国の経済崩壊。5,000万戸の空き家が引き起こすリーマン級ショック=吉田繁治》が何が起きているのか、企業負債が膨大に増え続けている謎を解いています。

 《5,000万戸は、中国の全住宅の22%、1年で行う1,000万戸建設の5年分です。一級都市の北京、上海、広州での、政府の在庫統計は、5か月分から10か月分でした。もっとも多いシンセンでも、20か月分です。しかしこの在庫が、全中国で5000万戸、新築の5年分という。これで、中国の企業負債が、毎年平均2兆ドル(220兆円)増える一方で、減らない理由が分かりました。作った物件が、約5年分も売れ残っていたのです。普通の世帯が買うことのできない価格(年収の10倍から15倍以上)の新築価格だったからです。売れていないから、価格は最初のまま統計され、次のまた上がった新築価格になっているのでしょう。売れなければ世帯のローンには振り替わらないので、企業の建設費の負債が増えるままになります》

 膨大になった債務の削減、怪しい「影の銀行」退治で傾きかけた経済のテコ入れをしようと、中国政府は景気対策をせざるを得ません。2019年の鉄道建設投資額は13兆8000億円と過去最高を記録すると報じられました。日本の新幹線の営業距離3100キロの10倍にあたる3万キロの高速鉄道を運営しているのに、今年は3200キロを新規着工します。在来線を含めた新規総延長は6800キロです。

 世界的に知られる鉄鋼業などの過剰生産設備を救済するには、鉄道建設は格好の使途ながら運営・維持・管理の費用が発生する副作用があります。レコードチャイナが《中国高速鉄道「火の車」=利用率の低さなどで巨額の負債、専門家「中国経済を直撃する恐れ」》と伝えました。

 《北京と上海を結ぶ京滬高速鉄路、北京と広東を結ぶ京広高速鉄路では高速鉄道の輸送能力が効率よく利用されているが、その他の路線では輸送力が無駄になっており、その結果、深刻な赤字が発生している。例えば、甘粛省蘭州と新疆ウイグル自治区ウルムチを結ぶ蘭新高速鉄路は、1日当たり列車を160往復以上させることができるのに、実際には1日に4往復しかしていない。営業収入は必要な電気代にも満たないという》

 《中国の高速鉄道の輸送効率の悪さを示すために、日本の新幹線と比較。中国では2015年、輸送密度が最も高い京滬高速鉄路や京広高速鉄路は路線1キロ当たり約4800万人キロを輸送したが、輸送密度が最も低い蘭新高速鉄路では230万人キロ前後で、全国平均では1700万人キロだった。一方、日本の東海道新幹線では9000万人キロだ。京滬高速鉄路や京広高速鉄路も、世界最高の輸送密度の東海道新幹線との差は大きいと指摘。新幹線全体の輸送密度は3400万人キロで、中国高速鉄道の約2倍と論じた》

 昨年、書いた第590回「中国でペイ出来ない高速鉄道を途上国に押し売り」で指摘した通り、利用が多い北京―上海間で高収益と言っても所得水準に合わせるためにキロ当たり料金は日本の4分の1です。北京交通大学経済管理学部の趙堅教授は「高速鉄道の運営コストを考慮しておらず、高速鉄道の営業収入をすべて投入しても、建設時の利息すら満たすことができない」と主張しています。

   ◇韓国◇

 韓国は文在寅(ムン・ジェイン)政権になって2年で29%も最低賃金を引き上げました。第587回「2年で3割アップの韓国最低賃金、呆れる国際機関」で指摘したように東京の最低賃金985円より高くなり、しかも全国一律なのです。加えて週52時間労働制と、支持基盤である労組寄りの施策を打ち出しました。高い賃金を払いきれない零細業者に配慮して月に被雇用者1人1万円程度を国の財政で補填しますが、売り上げの伸びがないのに賃金を上げるのは至難で、解雇・廃業の方が簡単です。これまで多くの残業代を頼みにしていた労働者も当てが外れ、企業は労働時間制限が出来たからと人を増やしません。賑わっていた夜の飲食店街は閑古鳥が鳴くと言われます。主要な製造業が革新を怠り構造的な不振に陥っている最中に追い打ちを掛けました。

 朝鮮日報の19日付《【社説】静かに崩壊する韓国の市民経済》が行き着いた姿を映し出しています。

 《韓国の金融委員会は生活が苦しい基礎生活受給者(生活保護受給者に相当)、高齢者、長期の債務延滞者について、債務の元金を減免する対策を発表した。金融機関への債務の元金を最大で95%減免する内容だ。貧困層の所得を増やし、経済成長につなげることを掲げる政府だが、低所得世帯の経済が崩壊したことを受け、緊急支援に乗り出す格好だ。「モラルハザードを助長しかねない」とする批判があるにもかかわらず、長期の債務延滞者について、最大で1人当たり1500万ウォン(約147万円)まで元金を免除するという徳政令を強行した。政府がなりふり構わずに全面的に借金の減免に乗り出したのは、それほど市民経済の崩壊が深刻であることを物語っている》

 《最低賃金を2年間で29%も引き上げたことで、庶民層の雇用である臨時職、日雇いの働き口が19万5000人分も消えた。台所が苦しくなった庶民が借金をしたことで、家計債務はさらに膨らんだ。貯蓄銀行などノンバンク(第2金融圏)から借金をして、年20%以上の高金利に苦しむ債務者が2200万人を超えた。国民2-3人に1人の割合で「危険な債務者」がいる計算だ。うち貸金業者にまで手を伸ばした人は412万人に達する。昨年廃業した零細自営業者は100万人に達し、自営業者の金融債務は文在寅政権発足以降に14%増えた》

 1月の雇用状況は最悪です。失業者数122万4000人は過去19年間で最多、前年同月に比べ20万人以上増えました。《韓経:韓国、失業者の帰農で農村就業者急増…「景気低迷前兆の可能性も」》が雇用統計では分からぬ深刻な事態を指摘しました。

 《先月の就業者増加幅は1万9000人にすぎなかったが、農林漁業分野の就業者は10万7000人急増した。就業者増加幅が9万7000人にとどまった昨年の「雇用惨事」統計でも目に付いたのは6万2000人という農林漁業分野の就業者急増だった。産業別で見れば農林漁業就業者は公共雇用などが多い保健業と社会福祉サービスを除くと最も多く増えた。2000年代以降減少が続き雇用を減らしていたこの産業で就業者が突然増えた原因は何だろうか》《こうした珍現象が都市から追い出された失業者と退職者らの「非自発的帰農」のためであることが明らかになった。韓国農村経済研究院と経済専門家らの統計分析を通じてだ。田園生活を楽しもうとする「自発的帰農」ではなく、都市で失業したり廃業した後に帰郷した高齢者が生計のため農業に大挙飛び込んだというのが専門家らの分析だ》

 造船業の失業者が大挙して帰農したとの報告などを考えに入れれば、実際の雇用状況はマイナスに転じていると見るべきです。15歳以上の人口増加を考えると年間15万人分の新規雇用が生まれないといけないのにマイナスですから、体感失業率が20%以上にもなるという若年層の地獄のような就職難は推して知るべしです。ムン政権は選挙公約だった公務員定員の大幅増加を推し進めた上に、雇用不足の当座対策として大学の教室の不要電灯を消して回るとか、笑い話のような臨時職を増やしたりしました。

 それでもムン政権は、所得を上げることで消費を増やし経済を活性化する「所得主導成長」の旗を降ろしません。目の前の現実より自分たちの思い込みの方が正しいとの独善です。来年の総選挙をにらみ年間15万人雇用増を生むためにバラマキ財政に出ようとしています。国内15空港のうち10空港が慢性赤字なのに東南部に新空港を造る動きなどが伝えられています。

 上記の朝鮮日報社説に付いた韓国読者コメントで賛同が最も多かったのは「経済が何かも知らず、デモだけの人間が政権を取ったのでこうなった。最低賃金を毎年上げなければならない状況だから失業者が増えるしかなく、給料を少し上げても上がる物価に追いつかないだろう」でした。