中国でペイ出来ない高速鉄道を途上国に押し売り

 中国の高速鉄道売り込みに急ブレーキが掛かっています。現実に建設が進行するラオスの実情を仔細に見ると無茶もいいところと分かります。中国国内でも黒字路線は僅かなのに押し売りされたタイが拒んだのも当然です。この夏、「NNA ASIA」が【爆走、アジアの高速鉄道】と題したシリーズを掲載しました。実態は「爆走」には程遠いのですが、読んでもらいたいから編集者が付けたタイトルでしょう。その第1回《経験の日本、資金力の中国》は中国《高速鉄道網は、運行開始から10年の間に猛烈なペースで拡大。営業距離は17年末時点で約2万5,000キロと日本(約3,100キロ)の8倍に達し》とし、日本と台湾も含めた高速鉄道マップを掲げているので以下に引用します。今回主な題材にする中国ラオス鉄道も書き込みました。

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 改めて中国高速鉄道網を見ると十年余りで建設された速さに驚きます。貿易戦争を受けて内需創出を目指す中国政府は今月、今年の鉄道建設投資12兆円にさらに1兆円を追加し、四川省からチベットへの路線などの建設工事を増やすと表明しました。こんなに建設ラッシュを続けて収支はどうなっているのか、実はほとんど開示されていません。

 日経新聞の《中国高速鉄道、初の黒字に 15年12月期》が《中国の北京市と上海市を結ぶ高速鉄道の運営会社が2015年12月期に、約66億元(約1千億円)の最終黒字に転換したことが分かった。黒字は11年に営業運転を始めて以来、初めて。2200億元を投じた同区間は、年間1億3千万人が使う基幹路線に成長》と伝えたのが珍しい例です。

 北京、天津、南京、上海と結ぶ文字通りのドル箱路線で《約1300キロメートルを最短5時間弱で結び、運賃(2等席)は約550元。1キロメートル当たりの料金は7円弱と、東海道新幹線の東京―新大阪間の4分の1程度》での運営です。日本の東京―新大阪間は年間1億6500万人乗車ですから、北京―上海間は安い料金でよく頑張って黒字を出しているように見えますが、そもそも建設に投じられた3兆円以上の巨費が原価に入っていないと考えられます。

 原価をきちんと計算して経営すれば高速鉄道は大変であると、台湾新幹線が教えてくれます。2015年の《台湾新幹線、当局が救済 財務悪化で1200億円出資》が《台湾高速鉄路が政府主導で再建されることになった。台湾高鉄と交通部(交通省)は27日、同社の財務改善計画などに署名した。台湾高鉄の株式を6割減資したのち、交通部が300億台湾ドル(約1200億円)を出資する。台湾新幹線は2007年に開業したが、投資額が大きかったため、減価償却や金利負担が重く、経営が悪化していた》と報じています。

 では中国・昆明から国境を経て首都ヴィエンチャンまで2021年開業を目指して建設中の中国ラオス鉄道はどうでしょう。アジアタイムズ(香港)が8月18日付けで《中国鉄道プロジェクトはラオスを踏み台にして進む》(英語)と刺激的なタイトルで批判的に書いています。原題にある「runs roughshod over」は相手を無視して、踏みつけにしてのニュアンスです。

 人口690万人、GDPが2兆円もない農業国ラオスに高速鉄道敷設が押し付けられたのは、習近平政権の打ち出した「一帯一路」の中国側出口にあるからです。将来はタイ・バンコクからシンガポールまで延ばしたいから高速鉄道であって、ラオスからすれば普通の鉄道が出来れば十分だったはずです。中国ラオス鉄道は414キロの電化単線で、旅客列車は時速160キロ、貨物輸送は120キロとの中速規格ながら時速200キロも可能にするそうです。

 ラオスが30%、中国が70%出資の企業体を作り、投資総額60億ドルは2017年GDP170億ドルの35%に相当します。4割をまず現金で支払うからラオスは7億2000万ドルが必要で3分の1を国家予算から5年分割で、残りは中国の銀行から年利2.3%で借ります。この程度の負担であっても頼みの鉱山資源が枯渇に向かっているラオスの財政にとって厳しいのです。さらに開通後に鉄道に乗る人はラオスにはほとんどいないとされ、中国からの観光・ビジネス客に頼らざるを得ません。黒字経営ができる可能性は皆無ですから、後世の国民負担になるのは確実です。

 不釣り合いなほどの巨額プロジェクトが20%概成と動いているのにラオス国内に経済的な恩恵が見えません。鉄道建設労働者は中国からやって来て山中のワークキャンプで生活し、生活物資や資材は中国の業者が供給する態勢になっています。唯一、将来の観光開発が頼みでしょうが、内陸国ラオスには周辺のベトナム、タイ、カンボジアのようなネームバリューがある観光資源に乏しい問題点があります。

 中国はタイにも同じような条件で高速鉄道建設を売り込みましたが、首都バンコク―ナコンラチャシマ間(260キロ)はタイ側が建設し、機器と技術だけを中国に求めるとしました。中国は落胆しましたが、主導権を奪われない決定は賢明で、実際には動き出していません。

 2015年にインドネシアは首都ジャカルタ―バンドン間(142キロ)の高速鉄道を中国に、自国の財政負担が全く無い条件、つまり運営リスク丸投げで任せました。以後、遅々として建設は進行していません。今年4月になってようやく中国の国家開発銀行が融資第一弾1億7000万ドルを実行しました。用地買収が進むのを待っていたわけながら、すでに2019年の開業目標は絶望的ですし、残りの融資がいつ出来るのかも分かりません。

 東南アジアの所得レベルでは建設費もきちんと計算に入れた高速鉄道運営がペイするわけがありません。中国のドル箱路線で実現出来ないのですから当然です。ではインドネシアで何を狙っているのか、将来、ジャワ島東部、インドネシア第二の都市スラバヤまで730キロの延長を睨んで主導権を手に入れたかったのでしょう。ペイしない事業の建設を急ぐ必要はありません。リスクを無くした代償に、国の交通骨格になる高速鉄道の主導権を手放してしまったインドネシアは愚かすぎました。