トランプに飴小出し、米国と対等化進める北朝鮮

(写真:ロイター/アフロ)

 トランプ大統領は非核化交渉をしているつもりなのに、北朝鮮は米国と対等になるプロセスを踏んでいるに過ぎない――初の米朝首脳会談から1カ月半、起きた事象を整理して見えるのは日米にとって不都合な別世界です。朝鮮戦争で戦死・行方不明の米兵遺骨55柱が27日、北朝鮮から返還されてトランプ大統領は金正恩国務委員長がシンガポールでした約束の一部が実行されたとして歓迎しましたが、非核化とは何の関係もありません。北朝鮮側は朝鮮戦争の終戦宣言が全てに先行すると譲りません。ポンペオ国務長官が受け取って大統領に渡された金委員長親書も大歓迎されましたが、今に至っては文面の意味が違って見えるでしょう。

 中央日報日本語版の《金正恩氏「朝米関係が画期的に進展」…トランプ氏に親書》で親書は非核化には全く触れておらず、当時もとても違和感がありました。文面は以下です。

 「シンガポールで行われた閣下との意味深い初めての対面と、我々が一緒に署名した共同声明はまことに意義深い旅程の始めとなりました」「私は両国の関係改善と共同声明の忠実な履行のために傾けている大統領閣下の熱情的で格別な努力に深い謝意を表します」「朝米間の新たな未来を切り開こうとする私と大統領閣下の確固たる意志と真剣な努力、独特の方式は必ず立派な実を結ぶことになると堅く信じています」「大統領閣下に対する変わりない信頼と信頼が今後の実践過程により一層強固になることを願いつつ、朝米関係改善の画期的な進展が我々の次回の対面を操り上げるだろうと確信します」

 トランプを持ち上げつつ、自らも対等である、相応の成果は貰うよと言っていると読めます。核兵器の廃棄を受け入れる雰囲気などどこにもありません。

 シンガポール共同声明で表明されたのは「朝鮮半島の非核化」であり、「北朝鮮の非核化」ではありませんでした。これまで米国の対北朝鮮交渉担当者は2つの非核化を全く別物として扱ってきましたが、トランプ大統領はその差について愚かにも拘らなかったのです。「北朝鮮の非核化」は半島の非核化に含まれているがごとく大らかな解釈をしていました。半島の非核化には南朝鮮、即ち韓国の非核化が含まれ、韓国側で核を持っている米軍も対象になります。

 休戦状態である朝鮮戦争の終戦宣言が出されれば、国連軍として韓国にいる米軍の存在意義が直ぐに問われます。北朝鮮側は在韓米軍は不要と言い出すでしょう。

 北に親近感がある韓国ムン政権にも米軍撤退を後押しする雰囲気があります。ソウル聯合ニュースの《作戦統制権移管 韓米が10月定例協議で主要文書合意の方針》は《韓国と米国は10月末に米ワシントンで開かれる50回目の定例安保協議(SCM)で米軍から韓国軍への有事作戦統制権の移管に関する主な文書で合意する方針を定めたもようだ》と伝えました。現在、有事には米軍司令官が米韓両軍を指揮することになっているのを、韓国軍司令官が米韓両軍を指揮するよう変えるのです。米軍が海外で自分の兵士を他国司令官の指揮に任せることはありえませんから、これは実質的に米軍の韓国撤退を意味します。在韓米軍費用をケチりたいトランプの意向にも合います。

 ポンペオ長官が訪朝して非核化へ具体的な核施設明示やワーキンググループ設置を求めたのに北朝鮮側は取り合わず、後に「ギャングのような要求だった」と非難しました。ポンペオ長官が国連による厳しい経済制裁維持を明言している点だけが非核化への圧力として残っていますが、次第に緩みつつあります。ロシアは北朝鮮労働者の帰国期限を延ばすと言い出しましたし、読売新聞が「中国から北朝鮮への旅行客が5月時点の1日約100人から、7月に入って1日約1000人に急増」と報じています。アジアプレスの《<北朝鮮内部>何があった? 電気供給が各地で大幅改善 「ゼロ秒から10時間に」》なども北朝鮮内外で見えない変化が進行していると推測させます。北朝鮮が言葉で非核化を言っているだけで中ロとも支援できる根拠になります。

 核実験場爆破のような専門家検証がない非核化は意味がなく、3月の第576回「非核化査察団に移動・行動の自由がポイント」で北朝鮮が本心から応じる可能性は低いと指摘しました。トランプ政権が締め上げるつもりなら最初から核心に踏み込むべきだったのに、このままでは北朝鮮が実質的な核保有国として認められるだけの結果が残るでしょう。