中国の目指すSF的な個人行動管理社会が見えた

 習近平独裁体制を確立した中国共産党大会前に公安当局はネット上のチャットグループでも政治について語れない規定を設けました。個人の日常を掌握していま何をしているのかまで監視するSF映画の社会が近未来です。習氏が総書記に就任する前年、2011年にあった高速鉄道事故で政府の強い圧迫に晒されながらも『今度は本物、高速鉄道事故で中国メディア反乱』で紹介した活気はどこに消えてしまったのか、隔世の感ありです。報道の自由どころか、個人が仲間内で意見表明する自由すら無くなる恐ろしさ。それが世界人口の2割、14億の民に課されています。

 7月に第560回「中国は個人情報を統一管理、雁字搦め社会を志向」を書いた際には、正直なところ全国民14億人を対象にするのは無理で、9000万人近くいる共産党員を統制するのかなと思っていました。ところが、次々に伝わる関連情報は想像以上でした。

 監視カメラで顔認証システムを使って赤信号で横断した人物を特定し大型ディスプレイに晒したのが話題になりました。これだけでもプライバシー侵害もいいところですが、監視システムは更に高度化していきます。《自動で犯人を見つけて警察に通報する中国の監視カメラシステム》はこう伝えています。

 《米国のテレビドラマ『24』に登場するCTU(Counter Terrorist Unit=テロ対策ユニット)は、街頭の監視カメラに侵入し、テロリストの姿をいったん補足すると、次々と別のカメラを使って追尾をしていくシーンがある。広東省の深センを始めとする各都市で、このような監視カメラ追尾システムの試験運用が始まったと金羊網が報じた》《カメラが増えれば増えるほど、それをチェックする人員も必要になっていく。深セン市のメーカー、佳都新太科技社は、複数のカメラをクラウドで統合して、人工知能技術を応用した自動監視システムが必要になっていくと考え開発した》

 2000万台と言われるAI型監視カメラがどんな処理をしているのか、9月に流出して話題なった動画が《【ヤバい】中国の監視カメラSUGEEEEE!!!(動画あり)》にあります。以下に写真を引用します。

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 映っている人物や車両の特徴を抽出して文字情報が追加されています。監視要員が目で見なくても、文字情報をデータベース化して突き合わせれば各カメラが捉えた登場人物の行動を繋げていけます。もし顔認証できるほどアップの映像が撮れて、それが指名手配犯などなら自動的に警報が鳴る訳です。身分証明書を発行しているために10億人の顔写真を国が持っているといいます。

 百度で検索した中に監視カメラ群をシステム化した図があり、下に引用します。道路や建物の廊下、停車場などそれぞれに相応の画角や精細度のカメラが設けられ、操作する部門と繋がっています。こうしたシステム開発の記事は検索すると2013年頃から見受けられ、「天網」と言われて習近平総書記の功績に挙げられています。まさに「天網恢恢疎にして漏らさず」志向です。

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 開発途上ながら電話の人物を声紋で特定しての自動盗聴も視野に入っており、近い将来に電話で「危険な単語」は話せなくなりかねません。NPOのヒューマン・ライツ・ウォッチが《中国:音声認証データの収集 プライバシーへの脅威》で警鐘を鳴らしています。

 《中国政府当局はiFlytek社と協力して、通話から対象となる「声」を自動的に特定できる監視システムのパイロット版を開発している。iFlytek社は、中国における音声認識テクノロジーの80%を生み出す中国企業だ》《中国政府は近年、既存の大がかりな監視と社会管理の取り組みを強化のために、大規模な生体認証データベースを構築するなど、生体認証テクノロジーの活用を進めてきた。警察が運用しているその他の生体認証データベースと比較して、音声パターンのそれはまだ十分に確立されているとはいえず、サンプル数も比較的少ない。こうした収集のために公安部が選んだ主なパイロット省のひとつである安徽省で、2015年までに警察は7万もの音声のパターンを収集した》

 この他に極端な例ではイスラム系が多い新疆ウイグルの住民にはスマートフォンに「監視アプリ」を強制的にインストールさせました。また、勝手に移動できぬようにパスポートは警察が預かり、テロに使われたら判るように家庭の刃物までコードを打ちました。

 冒頭に書いたチャットグループへの規制は《習近平の言論統制を、中国のネット市民たちは「冷笑」している》が詳しく書いています。

 《党大会に向けた世論環境作りのため、ネットでの言論統制は周到に進められていた。その中でも特に当局が重視したのは、今や海外も含め10億人近くが使っていると言われるモバイルアプリ「微信(WeChat)」への規制であり、党大会を目前とした9月に入ってから、矢継ぎ早に打ち出された》《管理規定は、グループ情報サービスを提供する事業者に対して、使用者へ身分情報の認証を義務付けたうえで、法律や国家の関連規定で禁止する情報の散布を禁止し、違法行為があった場合はグループを閉鎖。そしてグループ討論のまとめ役である「群主」に対しても連座して責任を追及するとした》

 2013年の段階で200万人と言われた膨大な監視要員がネット空間に目を光らせてきました。ここに来て、公開されるネット空間だけでなく、私的なおしゃべり空間まで縛り上げる規制です。実際に摘発があったと伝えられています。「物言えば唇寒し」にならざるを得ません。対抗手段として、例えば音声ファイルをメールで送れば検閲で文字は削除されても届くと言いますが…。

 中国では電子決済の支払い履歴、宅配アプリ、シェア自転車や配車アプリの使用状況なども政府が見える範囲にあります。こうしたビッグデータを当事者以外の民間企業は勝手には使えませんが、政府が使うのは制限されていません。日経新聞の《統制と産業振興にネット活用 中国新指導部発足 利便性向上と「もろ刃の剣」》は《中国政府はあらゆる人やものの動きをリアルタイムで監視できるシステムを20年ごろまでに構築。統治の道具としてネットの活用を強化する》と結んでいます。

 従来の反体制的な言論の摘発から、個人のコントロールへ進めていきます。2016年2月の第515回「中国の異様な言論統制、安全弁も根こそぎ圧殺」でこれまでの統制の経緯をまとめ、今後を危惧したのが現実化します。物言えない窒息する社会にしてしまっては、社会や経済を発展させる自由な発想も死んでしまうでしょう。