中国は個人情報を統一管理、雁字搦め社会を志向

(写真:ロイター/アフロ)

 ノーベル平和賞を受けた民主活動家で作家の劉暁波氏死去情報を国民から徹底的に遮断している中国政府。目指すのはプライバシーも剥ぎ取る恐るべき個人管理であり、全国民を評価するシステムに向け動き出しています。劉氏ら303名連名で2008年に発表された「08憲章」が求めた民主化・自由化が実現されるどころか、顔認証技術を活用するなどSF映画の世界を彷彿とさせる管理社会が目の前です。昨年10月に「全ての国民をポイント評価へ。役人は2020年からシステム稼働」と伝えられた際には話半分と思っていましたが、今年の動きを見て本気だと理解しました。中央日報日本語版の14日付《「ビッグブラザー」中国…違反横断すれば電光掲示板に顔・名前表示》が《周辺に誰もいない道路。ある男性が車が通っていないことを確認し、赤信号にもかかわらず道を渡ろうと足を踏み出した。その瞬間、付近の大型電光掲示板にこの男性の顔と個人情報が映し出され、警告音が鳴る。空想科学映画の話ではない。最近、中国の上海・深センなど中国の主要都市のあちこちで目撃される場面だ》と伝えました。

 西側社会ならプライバシー侵害・人権無視と非難轟々でしょう。中国でも市民に賛否の声があると言いますが、本当に実現してしまって歯止めが無いのです。《こうした批判の声にもかかわらず、中国政府は日々進化する「顔認識技術」を利用して違法行為を根絶する方針だ。さらに人々が職場と公共の場でどのように行動するかを綿密に監視し、2020年まですべての市民の「社会的信用」等級をつけるという計画まで立てた。中国版「ビッグブラザー」ということだ。ビッグブラザーとは、ジョージ・オーウェル『1984年』に登場する言葉で、社会構成員を徹底的に監視するシステムをいう》と記事は続きます。

 こんな異様なシーンが現実にあるのか、裏を取るために関連ニュースを探すと「Forbes JAPAN」13日付《中国で急拡大の「顔認識システム」 アリババは顔決済を導入》が《新華社通信の報道によると、山東省の済南市では先日、交差点で赤信号を無視する歩行者の動画から個人を特定し、道路に設置されたスクリーンでその人物の名前や住所を公衆の目にさらす試みが始動したという》と報じています。

 《顔認識テクノロジーの最大の支援者と言えるのが中国政府だ。英国の調査企業IHS Markitのデータによると、米国には現在5000万台の監視カメラがあるが中国の監視カメラ台数は1億7600万台に達している。中国政府は米国と同様に、監視カメラの映像を国民のID写真と照らし合わせ、犯罪者やテロリストの発見に役立てている》《中国ではこのような行為はプライバシーの侵害とはみなされない。新たに導入されたサイバーセキュリティ法は、商用目的で生体情報等の個人情報を収集することに一定の基準を設けているが、地方の当局はその規制対象に含まれていない》

 顔認証がそれだけで終わらない、恐るべき可能性があると知らせてくれるのが、シェアリングでマナーを守らせる評価システム、そして信用情報の共有を語る《中国シェア自転車「悪名高きマナー問題」が消えた理由》です。

 《この評価システムは中国ではさらにアグレッシブな進化を遂げている。米国ではUBERが得た評価情報は原則として他社に提供されない。中国では政府の指導の下、シェアサイクル各社は協定を結び、マナーが悪い顧客に関する情報を共有している。あるシェアサイクル企業のサービスでマナー違反を行えば、他企業のサービスも利用できなくなるのだ。そればかりか、中国政府はこうしたシェアリングエコノミーの信用情報に加えて、金融機関の信用情報、海外旅行のマナー違反ブラックリストなど、ありとあらゆるデータベースを連結。信用情報の大統一を目指している》

 国民評価システムの報道では、評価ポイントが低いと海外旅行にも行けなくなるなど移動の自由が縛られるとありました。SNSでの実名制導入とも相まって当局に睨まれる意見など言えないし、路上を含めて常に監視され、異端分子は国外に出さず、がっちり押さえ込む社会が想定できます。

 これまで第515回「中国の異様な言論統制、安全弁も根こそぎ圧殺」などで、中国の憲法に明文規定がある「言論の自由」を徹底無視しては民間活力を削ぎ、中所得国の罠に陥りつつある経済の発展を損なうと指摘しました。中国側でも最近、更迭された楼継偉・財政部長(日本の財政大臣)による憂慮の警鐘が《中国は今後5年から10年にわたって「中所得国の罠」からの脱却について真剣に考えざるをえない、という点である。しかも彼は、中国がその罠に陥る可能性は五分五分だとまで述べる。罠に陥らないためには労働市場を再び柔軟なものにし、知的財産権を保護し、土地の流動性や開放的な経済体制をとるべきだと言う》と紹介されていました(《エリート幹部も懸念する「中所得国の罠」》)。

 劉暁波氏の妻は何の犯罪も犯していないのに当局の監視下で軟禁され、獄中の夫の代理でノーベル平和賞を受け取るために出国することすら出来ませんでした。中国が法治国家とは決して言えない、法律はあっても運用で全く無視できる実情は第346回「『がん村』放置は必然、圧殺する中国の環境司法」で明白です。異様な社会がますます異様になろうとしています。