創設発表から構想見直しを強いられるまでのおよそ48時間、世界を騒然とさせた欧州スーパーリーグ。南米各国でも一連の動きが随時細かく報じられ、当初は参加の意思を表明していたクラブが次々と撤退していく様子にSNS上では祝福の声が上がった。だが、スーパーリーグ初代会長となったレアル・マドリーのフロレンティーノ・ペレスが挙げた「現状の問題点」は、ここアルゼンチンでプロサッカーと関わる仕事をしている人たちにとっても耳の痛い話だったに違いない。ペレス会長が指摘した「14歳から24歳の若者たちがサッカーを退屈と感じ、試合を見なくなっている」という傾向についてはこの国のスポーツマーケティング専門家たちもかねてから認識、懸念している点であり、対岸の火事ではないからだ。

 同分野に精通するジャーナリスト、マルセロ・ガントマンによると「90年代後半から2010年頃までに生まれたZ世代と呼ばれる若者たちがテレビをほとんど見ず、自分の好きな時に視聴できる動画サイトや動画配信サービスを主に利用し、TikTokの投稿のようなより短いコンテンツを好むという全世界的な傾向は近年のアルゼンチンでも見られる」とのこと。その結果、サッカー大国でありながら「多くの子どもたちがサッカーの試合を90分間ずっと観ていられない現象」が実際に起きているという。

「家族や友達の影響から自分が応援する贔屓チームはあっても、昔からのファンのように試合を欠かさず観るわけではない。彼らはネットで閲覧できるハイライト動画やゴール集で満足し、他の時間はSNSを使ったインタラクションやオンラインゲームに費やす。サッカーが嫌いなわけではないが、最初から最後までゲームを観ることに興味を示さない若者は確実に増えている」。

 去る3月、ECA(欧州クラブ協会)の総会においてユベントスのアンドレア・アニェッリ会長は「若者の3分の2は周りから取り残されないため、または単にイベントが好きという理由でサッカーを観ている。16歳から24歳の、いわゆるZ世代の若者たちの40%がサッカーに全く興味を持っておらず、10%は特定の選手が好きなだけで、クラブを応援しているわけではない」と語った。アルゼンチンの場合はこのような統計が出ているわけではないが、1部リーグに属するクラブでマーケティングを担当するエキスパートたちは「スポンサーシップ市場の動向を見れば、アルゼンチンでも同じ現象が起きていることは数値を調べるまでもなく明らか」と声を揃える。

 アルゼンチンの5大クラブのひとつであるラシンのマーケティング・ディレクター、パブロ・ルイスは「常に経済不安が伴うこの国でスポンサーを見つけることは容易ではないが、そんな中でも予算的に安定している企業は今日、サッカーよりもeスポーツへの投資に積極的」と語る。

 「直前になるまで試合の日程が決まらず、暴力沙汰が常につきまとう上に若い視聴者が減っているアルゼンチン1部リーグとは違い、eスポーツは計画性があってポジティブなイメージに溢れ、将来性もあるというのがスポンサーの見解。経済的に安定している大手携帯キャリアや通信業者のような企業にとって、残念ながらアルゼンチンのサッカーは魅力的な市場ではなくなっている」。

 新型コロナ禍によって昨年3月から興行収入がなくなり、胸スポンサーが高額の収入源となるリーベルプレートとボカ・ジュニオルス以外のクラブはどこも運営が厳しい状況に直面する一方、パンデミックの影響をほとんど受けないeスポーツ業界では昨年8月、国内プロリーグの強豪チーム同士の対決がオーディエンス数で過去最高を記録し、サッカー界が羨むような明るい未来を感じさせている。

 とは言え、アルゼンチンに文化として根付くサッカーが息絶えているというわけではない。ルイスも「アルゼンチン人のサッカーへの情熱とクラブへの愛情は計り知れず、それは今後も代々引き継がれていくと確信している」と語りながら、彼が愛するラシンで、98年の破産宣告時、財産差し押さえの危機から守るためにサポーターがホームスタジアムのピッチを占拠したケースを引き合いに出し、「人々のクラブに対する忠誠心の強さに疑問の余地はない」と言いきる。また、多くのタレントを輩出する土壌は健在で、どのクラブにも入団テストではプロ選手を目指す子どもたちが今日も大勢集まる。しかしその一方で「腕組をして待っているだけでは(若者の観戦離れという)実際に起きている事態からの変化はない」とし、「サポーターの思いを大切にし、クラブとのつながりを深めながら若い世代にも働きかけ、持続可能な形でより多くの人々に試合観戦を楽しんでもらうための戦略を考える必要がある」と語っている。

 アルゼンチンではかつて、大統領が「我が国におけるサッカーは補助金を必要としない大規模なビジネス」と豪語したことがあった。その恵まれた環境が永遠に続くものと過信し、国内の市場にも明らかに見られる傾向を傍観しているままでは、今後Z世代に続くα世代(2010年代序盤生まれ以降の世代)の大半がリーグ戦に興味を持たなくなる日が来るかもしれない。欧州サッカー界の動きは、アルゼンチンにとっても決して他人事ではないのである。