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カフェで成功したアイデアマン、満を持して豚丼・うな丼の店をFC展開へ

千葉哲幸フードサービスジャーナリスト
飲食業界に数々のトレンドをつくり上げてきたJ・ART代表の坂井哲史氏(筆者撮影)

飲食業界では、コロナ禍が落ち着いてきていると感じられる今日この頃だが、このコロナ禍にあって各社が練り上げていたプランが一気に形となって表れてくる気配がある。ここで紹介する株式会社J・ART(本社/岐阜県各務原市、代表/坂井哲史)もそのようなアイデアを持つ企業の一つである。

同社は1987年10月創業で、現在「さかい珈琲」という郊外ロードサイド型のカフェをメインの業態として27店舗展開している。そして、このコロナ禍にあって丼チェーンのフォーマットを開発し、FC展開を進める体制が整った。店名は「かば金」と「美濃金」である。

日本人の大好きな「焼肉」と「うなぎ」

まず「かば金」のメニューは、豚肉の薄切りを「秘伝自家製蒲焼たれ」をうたううなぎのたれにつけて備長炭で焼き上げ、これをご飯に合わせたもので構成。東京・末広町にある店舗のメイン商品は「炭火蒲焼豚丼バラ」で、味噌汁と香の物がついて並盛880円(税込、以下同)となっている(小盛780円、大盛980円)。これにサラダを付けた定食スタイルがそれぞれ1080円、「豚唐揚げ定食」1080円、「ゴロゴロにんにく豚唐揚げ定食」1280円、「ローストビーフ丼」並盛1000円、大盛1100円とバリエーションを豊富にした。

三元豚の薄切りを蒲焼のたれにつけて備長炭でじっくりと焼き上げ丼仕立てにしている(「かば金」末広町本店で筆者撮影)
三元豚の薄切りを蒲焼のたれにつけて備長炭でじっくりと焼き上げ丼仕立てにしている(「かば金」末広町本店で筆者撮影)

J・ARTの代表、坂井氏はコロナ禍にあって、これからチェーン展開するための業態を画策した。そして、「日本人が大好きな伝統的な食べ物」として「焼肉」と「うなぎ」に着眼した。

「日本人はみなさんうなぎが大好きです。しかし、うな重は一般的に4000円、5000円という価格になっているので毎日食べることができない。うなぎを豚肉に変えれば毎日食べられる商品が出来るのではないかと考えた。また、うなぎはうな丼にして親しみやすい価格で提供しようと考えた」(坂井氏)

こうして、2020年10月東京・末広町に「かば金」1号店(43坪)をオープン。この店は同社東京本部のあるビルの隣の路面にあり、オフィス物件であったものを飲食店の仕様につくり替えた。「かば金」はその後、愛知県春日井市に郊外ロードサイド型店舗(60坪)をオープンした。

もう一つの「美濃金」はうな丼の店で、この10月岐阜県各務原市にオープン。うなぎを関東風の蒸し焼きではなく、直焼にしているのが特徴だ。一般的なうなぎ専門店のメイン商品はうな重で高額になるが、「美濃金」のうな丼は、並1700円、上2300円、特2800円となっている。

オーダーはタッチパネルで行い、クイックに商品が届けられる(筆者撮影)
オーダーはタッチパネルで行い、クイックに商品が届けられる(筆者撮影)

ファストフードと居酒屋の二毛作を目指す

「かば金」を二つの店で検証を重ねて見えてきたフォーマットは「30坪」「客単価1000円、1日客数200人、うちテイクアウトが50食」というものだ。テイクアウトとデリバリーも慎重に検証することでフォーマットの中に組み入れることが出来た。

テイクアウト販売を検証することで「1日50食」のフォーマットをつくり上げた(筆者撮影)
テイクアウト販売を検証することで「1日50食」のフォーマットをつくり上げた(筆者撮影)

出店に際しての標準的な投資額は「工事費2240万円」「加盟費450万円」「開業費180万円」としていて、3000万円以内で出店が可能としている。FC展開ではロイヤリティを3%としている。

「かば金」の豚肉は現在カナダ産の三元豚を使用、これを国産に切り替えれば劇的にクオリティがアップするということで、現状契約している豚肉を国産に切り替えてFC展開を本格的に進めていくという。

「かば金」のクオリティについてはそれぞれに大きなこだわりがある。豚肉は備長炭で旨味を逃さないように一気に焼き上げる。たれは古代からの伝統による、しょうゆ、みりん、たまりをベースに自社工場で製造した秘伝のたれを、また山椒は風味の強い“山椒の王様”と称される「飛騨山椒」を使用している。米は、岐阜のブランド米「ハツシモ米」を羽釜で炊き、炊き立てを提供する。

「かば金」の都心型店舗ではディナー帯での居酒屋利用に期待を寄せている。そこで、既存のメニューを応用してつまみメニューの開発を行った。現状は「蒲焼豚バラ」「蒲焼豚ロース」各780円、「炭焼きスペアリブ」(3本)980円、「炭焼きソーセージ盛り」980円、「炙り枝豆」380円、他に揚げ物、サラダ、キムチ・塩ダレキャベツといったおつまみも充実している。

こうして、「かば金」は都心で丼のファストフードと居酒屋という二毛作型での業態を確立しようとしている。

トレンドを切り拓いてきたアイデア力

坂井氏は1948年1月生まれ。祖父母が旅館業を営み、父が縫製会社を営むという起業家精神にあふれた家庭に育った。大学卒業後、メーカーの営業マンとなったが、「刀剣ビジネス」で起業する。ここで資金を得て、1980年5月「餃子の王将」のFCに加盟、またサントリーの白札屋、カラオケハウス歌ェ門等、多業態を展開。

そして、1993年10月に「焼肉屋さかい」を岐阜市にオープン。同店は焼肉価格破壊でたちまち繁盛店として全国から注目を集めるようになる。この業態は焼肉屋さかいはチェーン展開を行った。1999年には直営・FCで200店舗体制となり、株式の店頭登録を行った。1号店のオープンから6年目で株式公開を達成するという異例の速さであった。

焼肉業界は2001年9月に発生したBSEによって大きな転換期を迎えることになったが、焼肉屋さかいも同様であった。そのような中にあって、2004年12月岐阜市の郊外ロードサイドにオープンした「元町珈琲」が大ヒットを飛ばした。坂井氏によると「焼肉屋さかいを展開していた時に、郊外でのコーヒー市場の可能性を感じていた」ということだが、同店には1日1000人のお客がやって来た。「田んぼのなかに人が湧いてくる」感覚だったという。

その後、焼肉屋さかいを中心とした事業はジー・コミュニケーショングループに引き継がれ、大ヒットした「元町珈琲」とは別に新しいコンセプトによる「さかい珈琲」となって発展を遂げている。元町珈琲は郊外ロードサイド型のカフェであったが、「さかい珈琲」のつくり上げた業態モデルは、“専門店の味を食事のできる喫茶店で”というもの。独自にブレンドしたこだわりのコーヒーとふわふわのパンケーキによって豊かなティータイムを提供することに加えて、フードメニューを充実させることによって全時間帯型の業態として注目されるようになった。ターゲットはずばり女性で、メニューの一つ一つに“健康志向”“彩り”のこだわりが一貫している。のちに大手ファミリーレストラン系がこの分野に参入してきたが、「さかい珈琲」はまさにこの市場を切り拓いた存在である。

「かば金」「美濃金」はJ・ARTにとって「さかい珈琲」に次ぐチェーン化業態として練り込まれて形となって現れた。これまで外食シーンの中でトレンドの先駆けをつくってきた坂井氏のアイデア力がどのような展開を見せるか大いに注目される。

東京・末広町の店舗は43坪だが、標準店舗は30坪を想定している(筆者撮影)
東京・末広町の店舗は43坪だが、標準店舗は30坪を想定している(筆者撮影)

フードサービスジャーナリスト

柴田書店『月刊食堂』、商業界『飲食店経営』とライバル誌それぞれの編集長を歴任。外食記者歴三十数年。フードサービス業の取材・執筆、講演、書籍編集などを行う。

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