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10年ぶりの新規開業 進化した「ふかや花園プレミアム・アウトレット」

千葉千枝子淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授
2022年10月20日開業「ふかや花園プレミアム・アウトレット」(筆者撮影)

これまでの常識を覆す新たなアウトレットが、埼玉県深谷市に2022年10月20日、オープンした。その名も「ふかや花園プレミアム・アウトレット」。三菱地所・サイモンのプレミアム・アウトレットとしては酒々井(2013年4月開業)以来で、約10年ぶりの新規開業となる。

キーワードは「地域との共生」。深谷市の「花園IC拠点整備プロジェクト」の一環で誕生した地域共生型アウトレットで、ハイエンドな国内外ブランドのみならず、ここでしか味わえない地元グルメなど飲食店が過去に類をみない数、軒を連ねる。

アメリカの流通新業態だったアウトレットが日本に上陸したのは、1993年のこと。30年のときを経て辿りついた日本版アウトレットの進化形が、ふかや花園プレミアム・アウトレットといえそうだ。最新アウトレットの特徴と楽しみ方をまとめた。

アウトレット空白地帯の関越道 花園インターから1.5キロ 秩父鉄道の駅至近でSLも運行する好立地

関越自動車道は、関東圏の高速道のなかで唯一、アウトレットの空白地帯だった。なかでも花園インターは、アウトレットの立地条件といえる大商圏から約90キロという好立地で、圏央道が交わる鶴ヶ島JCTから車で約30分の距離にある。東京駅や新宿駅、大宮駅、川越駅から直行の高速バスがアウトレットを結ぶ。

さらに、秩父鉄道(本社・熊谷市)が2018年、新駅「ふかや花園駅」を開業させた。人気のSLパレオエクスプレスの停車駅にもなっている。プレミアム・アウトレットが鉄道駅とリンクさせるのは初めてのこと。JR高崎線・深谷駅や東武東上線・森林公園駅から路線バスでもアクセスできる。

しかもこれまで、アメリカの街並みをコンセプトに開発してきたものを、プレミアム・アウトレット史上初めて、地元色を前面に押し出した。深谷市ゆかりのレンガをモチーフにした建屋で歴史を感じさせる「ブリックフィールド」、木のぬくもりと緑を基調にした「フォレストフィールド」、それらの結節点となる「センターコート」と、街路づくりにも変化がみられた。

アウトレット世界初や日本初 楽器メーカーKORGやゴルフのPingも 

国内外のハイエンドブランド137店舗のなかには、アウトレット世界初進出の電子機器や楽器で知られるKORG(コルグ)や、ゴルフ好きにはたまらないPing(ピン)など日本初出店が24店舗、さらに関東初出店など「ここでしか買えない」が目白押しだ。ファッションでは、Bally(バリー)やDsquared2(ディースクエアード)、Marc Jacobs(マーク ジェイコブス)、.st(ドットエスティ)、さらにはValentino(ヴァレンティノ)、Versace(ヴェルサーチェ)などのパワーブランドも。

ちなみにアウトレットのビジネスモデルは、小規模な床面積からスタートして、段階的に増床を繰り返す。開業時の店舗数137店舗はプレミアム・アウトレットとしては最大で、回遊しやすいようにゾーニングがなされている。

行列ができるご当地グルメが一堂に集結 埼玉の老舗百貨店ショップから秩父名物みそポテトまで

「食」に力を注いでいるのも特徴で、飲食・食物販店舗は41店舗と、酒々井プレミアム・アウトレット開業時のほぼ倍の店舗数。地域メシにこだわり、行列ができるご当地グルメが一堂に会する。有名観光地・長瀞で有名なフィンガーフード専門店「長瀞とガレ」は、名物みそポテトや、秩父に伝わる借金なし大豆を使用したオリジナルきな粉のソフトクリームなど、「ここでしか味わえない」限定メニューも。深谷といえば深谷ねぎが有名だが、これら地元食材をふんだんに使用した特別メニューを提供するなどこだわりがある。

埼玉が誇るデパート・丸広百貨店が展開する「モイサイタマ マルヒロ」は、人気のご当地キャラクター「ふっかちゃん」をかたどった飾り野菜入り・地元産ピクルスなどがブレイクしそうな予感。モール中央の「フードロッジ」は、これまでのフードコートのイメージを一掃。なお、ここではフードコートとは言わず、フードホールと呼んでいる。全面ガラス張りの明るい陽射しのなか、広々とした空間に約800席を用意した。

独立系レストランはさらにおススメで、「カフェイグアナ メキシカングリル」や本場ナポリの味「ラ フィーリア デル プレジデンテ」など、世界の食も楽しめる。和食派なら鰻の「瓢六亭」や「蕎麦 深さわ」、ハワイアンパンケーキの「エッグスンシングス」などもイチオシ。カフェはスタバもタリーズも、ベーグル&ベーグルもある。

さらに、これまでのアウトレットの概念を超え、食材までもが買えるのが特徴で、スーパー「成城石井」も軒を連ねる。

深谷といえば赤城乳業の氷菓・ガリガリ君 日本初「あそぼ!ガリガリ君」のアトラクションが登場

ガリガリ君ファン垂涎のアトラクション「あそぼ!ガリガリ君」はアウトレット日本初(筆者撮影)
ガリガリ君ファン垂涎のアトラクション「あそぼ!ガリガリ君」はアウトレット日本初(筆者撮影)

ショッピングという買い物行動自体が「思い出」になるのではないか。そうしたコンセプトの権化ともいえるのが、日本初、氷菓・ガリガリ君がテーマのアトラクション「あそぼ!ガリガリ君」だ。入り口は巨大なアイスがお出迎え。屋外にはガリガリ君のタワー型ドロップツイストやゴーカートがあり、雨の日も安心な屋内プレイグラウンドも広々と完備する。キャラクターグッズなども販売しており、ファン垂涎のコーナーになっている。

これらが実現したのも製造元・赤城乳業の本社が、深谷市にあるから。地域共生というコンセプトを具現化していることを物語る。

開業CMはオーディションで選ばれた市民らが出演するなど、地域色が強い。アウトレットはもはや、単にモノを安く買う場所から、楽しい思い出を紡ぐ場所へと変化しているようだ。

愛犬にとってもアウトレットはパラダイス 足洗い場やリードフックをさまざまな場所に配置

共用部には、ペット専用の足洗い場やリードフックなどを常設したペット休憩所が配置され、ペットフレンドリーなのが一目瞭然。愛犬のためのコラボレーションストア&カフェ「PET PARADISE×上島珈琲店」が、ペットにも快適な空間を提供する。

開業記念イベントにはアンバサダーのヒロミ・松本伊代夫妻が愛犬・タロウと駆け付けた(筆者撮影)
開業記念イベントにはアンバサダーのヒロミ・松本伊代夫妻が愛犬・タロウと駆け付けた(筆者撮影)

開業に先立って行われた記念イベントでは、ふかや花園プレミアム・アウトレットのアンバサダーを務めるタレントのヒロミ・松本伊代夫妻が愛犬・タロウと一緒に登場。かつてアウトレットでは、ペット同伴の買い物に賛否の声があがるなどしたが、それも過去のこと。家族の一員として愛犬も、ショッピングを楽しむ時代になったようだ。今後はペットとの撮影会なども展開する予定という。

アート散策やサステナビリティも重要なテーマ 夜は幻想的なプロジェクションマッピングも

ショッピングだけでなく、施設内を回遊するだけでワクワクするようなオブジェやウォールアート、ファニチャーがあるのも特徴で、彫刻の森芸術文化財団所蔵のアート作品が3カ所も配された。さらにフードロッジの天井に至る大きなガラス窓を活かしたプロジェクションマッピングが、日没後から観ることができる。幻想的な光景に、新たなデートスポットになること間違いなしだ。

ほかのプレミアム・アウトレットではすでに、サステナビリティに対応してグリーン電力証書の活用や、一部施設では太陽光パネルを設置する等、再エネを利用する動きが活発化していた。だが、ふかや花園プレミアム・アウトレットではテナント専用部も含む施設全ての電力を、太陽光発電など再生可能エネルギーで運用する。敷地内に設置した太陽光パネルやグリーン電力証書による再エネへの取り組みは高く評価できる。そのほかにも、自然採光やパサージュ(路地空間)なども取り入れて、環境負荷を最小限に抑える工夫がなされている。

民間と公共のゾーンでユニークな観光まちづくりを実現 「深谷テラスパーク」と「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」

深谷市は、秩父鉄道「ふかや花園」駅の北側一帯をゾーニングして土地区画整理事業を行った。アウトレットは民間ゾーンに、隣接する公共ゾーンには農業と観光を融合した「深谷テラスパーク」を去る2022年5月にオープンさせている。円形広場やじゃぶじゃぶ池があり、子供連れも楽しめる。

なかでも食品大手のキユーピーが展開する複合施設「深谷テラス ヤサイな仲間たちファーム」は、収穫体験ができる農園と地産地消に取り組むレストラン、マルシェがある。野菜を見て触って五感で学べる「野菜教室」も注目株だ。

日本で独自に進化したプレミアム・アウトレット 一気通貫ビジネスのこれから

ふかや花園プレミアム・アウトレットを運営する三菱地所・サイモンは、不動産大手・三菱地所とアメリカのサイモン・プロパティ・グループの合弁会社で、アウトレットの開発・所有・運営を担う。アウトレット市場は三井系と三菱系の二強時代となって久しいが、一気通貫の観点では三井系とは異なる。

ちなみに、コロナ前の2019年度における主要デベロッパーのテナント売上高は三菱系が3434億円で、三井系(3158億円)を上回った。ふかや花園プレミアム・アウトレットは、同社において10施設目となるが、今後は関西に「京都城陽プレミアム・アウトレット(仮称)」の開業も予定されている。

そもそもプレミアム・アウトレットは、1980年代以降、アメリカ・ニューヨーク郊外のウッドベリーコモンプレミアム・アウトレットをフラッグシップに、ロサンゼルス郊外のデザートヒルズプレミアム・アウトレットやハワイのワイケレプレミアム・アウトレットなどを展開し、バブル期には日本人観光客も多く利用するなど馴染みが深い。開発段階から地域との絆を深め、協議を重ね、それらを運営に活かすなど、アウトレット・ビジネスにおける一気通貫の利点が際立つ開業となった。全国旅行支援がスタートし、訪日外国人客の水際対策緩和も重なるなど、ポストコロナに追い風のなかでの船出といえる。

広域市町村との観光連携協定の締結や官民が一体となった取り組みなど、これからのアウトレットのあり方に一石を投じる開業になったものと筆者はみている。

【施設DATA】

名称:ふかや花園プレミアム・アウトレット

所在地:埼玉県深谷市黒田169

駐車台数:約3000台

営業時間:10:00~20:00(レストラン11:00~21:00 カフェ9:30~20:00)

定休日:2月第3木曜日(次回は2023年2月16日)

ホームページ:  https://www.premiumoutlets.co.jp/fukayahanazono/

淑徳大学経営学部観光経営学科 学部長・教授

淑徳大学 経営学部 観光経営学科 学部長 教授で観光ジャーナリスト。中央大学卒業後、富士銀行、シテイバンク勤務を経てJTBに入社。1996年有限会社千葉千枝子事務所を設立、運輸・観光全般に関する執筆・講演、TV・ラジオに多数出演。東京都・神奈川県・岩手県など自治体の観光審議会等委員を歴任。NPO法人交流・暮らしネット理事長。中央大学の兼任講師(いずれも現職)を務めている。日本記者クラブ会員。

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