原発の街ぶらり旅 伊方(2)

道の駅の展望デッキから、伊方原発が間近に見える/筆者撮影

ビジターズハウスの展示を見る

「ねえご飯どこで食べるう?」「どこにしようかあ」

伊方原発PR施設「伊方ビジターズハウス」から妙齢の女性がふたり、甲高い声で話しながら出てくる。ノンキそうで「原発」の重みは感じない。意外と気楽に訪れていい施設なのだろうか。中へ向かう。

入口に伊方町の観光案内板がドーン。野鳥の宝庫、ハヤブサ、サシバ。亀ヶ池温泉、アグリトピア(って何?)、レッドウィングパーク(だから何?)。山の幸、海の幸、杜氏の里、などなど。ボケーっと眺める僕の背後を……え、観光バス? 高齢男女がギッシリ乗っている。

いよいよセンターの中へ。受付でパンフレットとティッシュ(くれるのだ)をもらい入るとまず「四国エネルギーすごろく」何じゃそりゃ。伊方町のコマを見ると「夕焼けなんとかラインは海に沈む夕陽がきれいだよ」ってエネルギーはどうした?

入口ロビーでは絵画8人展を開催中、果物や花を描いた、当たり障りのない絵がズラリ。明らかにゴッホを真似たヒマワリの絵も。真似ていいのかそれは。

ズンズン進むとようやく原発関連の展示が始まる。大きな表に「日常生活と放射線」の数値表示、単位はミリシーベルト。

0.05/原発周辺の年間線量目標値、胸のX線集団検診の1回あたりの数値。「実績ではこの目標値を大幅に下回っています」の但し書きも。

1.0/一般公衆の線量限度。

10/ブラジルのガラパリでの自然放射線(年間)。

200/全身ひばく。※これより低い症状の臨床症状は確認されていない(但し書き)。

「やだー、どうしよう!」なんだなんだ、女性の雄叫びが館内に響く。メゲずに表を続けて見る。

500/全身ひばく。末梢血中のリンパ球の減少。

1000/全身ひばく。悪心、嘔吐。

7000~10000/全身ひばく、死亡。

……うーむ、そう淡々と書かれると逆に怖い気も。ここでさっきの観光バスで来たらしい、高齢男女軍団がドドドと来襲。

「ねーえお手洗いどこお!」自分で探せ。最近こんな高齢者が多いな。アンタらはすでに人生を謳歌したからいい。ただ若者や子どものことを考えると――いたずらな不安がどうしてもつきまとう。

展示は続く。「伊方発電所における安全確保の取り組み」に続き「3号機の新規制基準への適合性にかかる設備の全体像」すげー細かい図。細かすぎて、よくわからん。

そして「福島第一原発の事故概要」の詳細な展示。原発礼賛ばかりじゃなく、事故についても包み隠さず展示しているのは評価したい。感心感心。

と思ったら展示は突然「世界のエネルギー情勢」に変わる。「日本のエネルギー自給率は、わずか4%です」「石油石炭などのエネルギー資源には限りがあります」あれあれ。

「原子力発電は、地球環境に優しいエネルギーです」「CO2を排出しません」「地球温暖化対策の切り札です」あれあれあれ。

「原子力発電は供給安定性に優れています」

「原子力発電は経済性に優れています」

「原子力はリサイクル可能なエネルギーです」

あれーっ。

さらに展示はプルサーマルを説明する映像に続く。説明してくれるのは……シンボルキャラクター「フッキー」!(つわぶきの花がモチーフだって)

「宇宙から見た日本、明るいよねー」

と明るく話し出すフッキーに、しばし目が点になる。

ドドドドドッ! あ、すみません!

何だ何だ? 何が起こったか説明すると、映像と、映像を見る俺の間を若い女(さっき叫んだのもお前か?)が猛ダッシュで走り抜けたのだ。いまフッキーがプルサーマルの説明してんだよ! 客だか職員だか知らんが、ガチャガチャしてるな何だか。

それにしても頭の花びらをプロペラ的に回し、ヒョロロと飛ぶフッキーを見ていると、原発ってけっこう安全なのかなという気持ちになってくるから不思議だ。福井の高浜原発のウランちゃん&モックス君といい、どうも原発PR施設はゆるキャラを使う傾向がある。

子ども向けの展示ゾーンもある。小学生向けの原発クイズのパネル。

Q:使い終わった燃料から出るゴミは、どうやって処分する?

1.海に沈める 2.地面の下に捨てる 3.海に捨てる 4.ぞうじき(誤植か?)

正解は4、のワケねーだろ! ルンバで処理できりゃ苦労しねーっての。

出口に近づくとパンフレットに「漫画で知る伊方発電所」。「発電戦隊電気マン」おい!

……まあ入場無料だし、こんなものか。ビジターズハウスオリジナルの手提げ紙袋ももらい見学終了。外に出ると目の前に、今度は道の駅「きらら館」が。腹減った。メシでも食っていこう。

原発の目の前は、ゆるキャラだらけ

道の駅きらら館/筆者撮影
道の駅きらら館/筆者撮影
ゆるキャラ「サダンディー」/筆者撮影
ゆるキャラ「サダンディー」/筆者撮影
サダンディーの尻尾は佐多岬半島/筆者撮影
サダンディーの尻尾は佐多岬半島/筆者撮影
道の駅でじゃこ天を食べる/筆者撮影
道の駅でじゃこ天を食べる/筆者撮影

きらら館の入口で迎えてくれたのは、イメージキャラクター「サダンディー」! 「渡り鳥の妖精」だと書いてあるが、その姿はどう見ても男だ妖精なのに。

「帽子の灯台から幸せの光を放ち、尻尾は佐田岬半島」あのなー。そして中に入ると、今度はゆるキャラ「みきゃん」の制作秘話の展示。もういいってーのキャラは。

そしてメシ処があるかと思ったら、ないのだね。伊方町とれたてミカンジュースとミカンゼリー、そしてジャコ天で空腹をしのぐ。レジに並ぶと大阪のオバちゃんが「ナンボや?」と言って割り込んできた。テメー。ってかけっこう人多いね。自転車で来たお兄さんの姿も。

道の駅の屋上は展望デッキ。上ってみる。

うわお。

なんと眼下すぐ近くに、伊方原発がよく見えるではないか。原発というものが、こんな間近に見えていいのか。そしてクリーム系の優しい色合いのせいか、威圧感はなく怖さも感じない。また間近に連なる山の稜線には、何基もの風力発電塔が回っている。

ここに来るまではあれこれ心配したけど、いざ来てみるとこんなものか。といっても「いま地震が起こったらどうしよう」という不安が消えたわけじゃないが、なんというか、いざ実物を目の前にすると「腹がすわる」のだ。我ながら不思議だと思った。

さて、原発周辺はこれでひと周り。施設ばかり見ていても仕方ない。人が暮らす、町に行ってみようか。

ビジターズハウスを出る僕と入れ違いに、高齢客満載の観光バスがさらにもう1台、敷地内に入っていった。

小さな町と、極細の裏道

伊方町の中心部/筆者撮影
伊方町の中心部/筆者撮影
避難MAPが見えにくい/筆者撮影
避難MAPが見えにくい/筆者撮影

「新伊方」バス停で降り、役場に続く道をブラブラ歩くと、道ばたに民家が並び出す。ようやく感じる伊方町の、生活の気配。市街の中央を川が流れ、その両側に家が立ち、背後に緑も。穏やかな街景色。

地図に「今治デパート」とあるが、今どきありがちな業務スーパー? JAの大きな柑橘類選果場、アパートみたいな民宿。チェーン店風焼き肉屋、カラオケスナックにコンビニエンスストアもあり、中学校から子供たちの歓声が聞こえてくる。ひときわ大きく立派な建物は……高齢者介護施設。

町役場の前に出る。人口1万人弱の町の役所としては、かなり大きい。空中通路で大きな公民館と、大きな生涯学習センターにつながっている。そして役場入口には「町長選挙立候補届け出会場」と書かれた貼り紙が。この中途半端な時期(訪ねたのは9月)に町長選挙?

すぐ近くに漁港が広がり、その向こうに風力発電塔が連なる山が見える。すぐ先に――原発がある。

役場脇にささやかな商店街が延びている。とはいうものの開いている店は、かなり少ない。古いビジネスホテルがドーンとそびえ「伊方発電所宿泊協力店」の看板を掲げる店も。そして途中に店の塀に「伊方町避難MAP」も掲示されているが。

うーむ、電線の筒がジャマして見えにくいですよ! それにしても開いている店が見当たらない。誰か街の人とさりげなく話したいのだが。

小さなパン屋が開いている。だが午後の中途半端な時間のせいか、棚にはロールパンの袋詰めが少し並ぶだけで、ほかに調理パンが1個ポツン。

アイスを買う。店番はオバアちゃん、穏やかな微笑み。ガサゴソと袋を探してくれるが「すぐ食べるからいいです」と言うと「ありがとうございます」と答え、深々と頭を下げてくれた。バスの運転手もそう、皆さん穏やかで丁寧。ただしあまり余計なことは言わない印象も。

ほかに立ち寄る場所もなく、佐多岬半島の西端、三崎から来た夕方のバスで八幡浜に戻る。バスは伊方市街を細かく周るが、裏道は極細の難儀なクネクネ道ばかり。海に面した絶壁の腹を伝う、アクロバチックな道も通り、ちょっと怖い。そして対向車が来たら、間違いなくスレ違えない。

――普段はいい。だがこれが避難のパニック状態になったら、たちまち道は大混乱、多くの車が立ち往生するだろう。

「三途の川、渡りかけたよー」

隣の席のオジイちゃんがフイに言い、周りのオジイちゃんオバアちゃんがアハハと笑う。最近事故でケガしたそうで、ご無事で何より。そして三崎方面から――佐多岬半島の「原発より西側の細長い先っちょ」から乗って来た人は、高齢者ばかり。

三途の川が見える瞬間、あるのだろうか? とか思う僕とは関係なく、バスは森に挟まれた一本道を、淡々と走っていった。(続く)