「富士山駅」ってどう思う? 静岡県でも聞いてみた(やきそば付き)

富士宮に向かう列車から見た富士山。この日は残念ながら雲の中/筆者撮影

富士山の南の入口、富士宮へ

富士宮市街/筆者撮影
富士宮市街/筆者撮影
喫茶店で食べた富士宮やきそば。海苔多すぎ?/筆者撮影
喫茶店で食べた富士宮やきそば。海苔多すぎ?/筆者撮影

富士急行の富士吉田駅(山梨県)が「富士山駅」に改名して5年。駅前で「富士山駅って名前をどう思うか」と聞いてみたら、肯定的な意見はあまり聞こえてこなかった。

そして「富士山の半分は静岡県なのに」という言葉も聞いた。山梨県側でさえそう言うのだから、静岡県側はこの改名をどう思っているのか。さぞかし怒り心頭なのでは……というわけで向かった先は富士山の静岡側の玄関口、富士宮。

新幹線で三島へ向かい、東海道線普通列車に乗り換えて富士駅へ。さらに身延線に乗り換えて――って富士駅の近くには新幹線の新富士駅もあるし「富士山」は名乗らないものの、静岡側は「富士」地名のオンパレード。それでもズバリ「富士山」名義にしないところに、一線を越えず踏みとどまる、良心のカケラも垣間見える。その禁をアッサリ破った富士山駅……。

「富士宮~富士宮ですー」

着いた。品川から2時間足らず、けっこう近い。そして時刻は12時過ぎ、腹が減った。富士宮で昼飯といえば、そりゃもう……富士宮やきそば! 第1回&第2回B-1グランプリで見事1位を獲得し、B級グルメの頂点に立ったやきそばだ。

と言いつつB-1のノリは好きじゃないのと、B-1目当てにワラワラ集まる「素人グルメ評論家」みたいな人々も好きじゃないので、いかにもな人気店は避けたい。地元の人がぶらっと行くような店を見つけて入ろう。駅前に降り立つ。

けっこう都会だね富士宮駅前。中規模マンションも多いし、巨大イオンもドーン! 富士山駅も駅舎がそのままショッピングビル「キュースタ」だったけど、そこは天下のイオン、比較にならないほどデカい。そしてけっこう晴れているのに、肝心の富士山は雲の中。うーむ。

それでも富士山駅前と同じく、こちらも登山口の起点に富士山本宮浅間大社がある。全国の浅間神社の総本社であり、本宮の本殿は徳川家康が造営したというから凄い。そして駅から大社まで徒歩10分、やきそばの店を探しつつブラブラ目指してみよう。ブラブラ。

駅を背に「駅前通り」を進むと、途中で左右に「マイロード」と「フラワー通り」が分かれる。「マイロード」は一応アーケード街だが、シャッターは閉じ気味……おっ、喫茶店の店先に「富士宮やきそば」のノボリが揺れている。ここでいいや。

「やきそば大盛りくださーい」すると店のお姉さん、僕をチラリと見て「そりゃ大盛りよね」とニッコリ。気さくでフレンドリー、街の第一印象はなかなか良い。というわけでやきそばを待つ。

ちなみにB―1グルメをなるべく避けて生きてきたので、富士宮やきそばを食べるのは初めてだ。普通のやきそばとは違ういくつかの定義「富士宮やきそば12ヶ条」(うっ、そういうノリ苦手)があるそうで、食べる前におさらい。コシのある麺を富士山の湧き水を使って調理し、ラードを絞ったあとの「肉かす」と富士宮のキャベツを具材に使い、イワシの削り粉をふりかける。添える紅ショウガは「ミカチャン」が人気……おっ、来た来た大盛り。

「お待たせしましたー、ハイ大盛り」

……えっ?

確かに大盛りだが、麺を覆い尽くす大量の――刻み海苔!? 海苔でソバが見えん。こんなにも海苔を乗せるのか富士宮やきそば。

食べ始める。海苔が歯に付くと、あとでキスするとき困るので(どこで誰とだ)気をつけて、ズルズルズル。店内に流れるBGMは『愛と青春の旅立ち』うーむ。

ゴチソー様。美味かったけど「海苔やきそば」だった。肉かすもイワシも存在感を発揮できず。地元に来てみりゃこんなものかB-1グルメ。まあ腹も膨れたし、神社を目指して「マイロード」を歩きだす。

こんなのあるんだね「富士宮プロレス」のポスター。だけど肝心の店は閉じ気味で、人通りも少ない。途中にベンチがいくつか置いてあって、ご老人が座っていたりいなかったり。

近くにあんなデカいイオンができちゃなー。それでも数軒の店先に「富士宮イベント」のポスターが。まつりとイベントがズラリ。9月は25日に「キング・オブ・ヒルクライム富士山」と「ふじの山献茶式」。

マイロードを抜けて大通りに出ると、渡った先に赤い大きな鳥居が見える。富士山本宮浅間大社だ。

参道に集まるやきそばの人々

富士宮のプロレスはニンジンが襲ってくる/筆者撮影
富士宮のプロレスはニンジンが襲ってくる/筆者撮影
富士宮本宮浅間大社の鳥居/筆者撮影
富士宮本宮浅間大社の鳥居/筆者撮影

青空をバックにそびえる大鳥居の、なんと荘厳で美しいこと。富士宮駅からここまで徒歩10分、ここは富士信仰の中心地として名高く、全国に1300社ある浅間神社の総本社で――こっちに「富士山駅」があってもいいんじゃないかと、ふと思う。

鳥居の手前には商店街「大社通り宮町」のアーケードが延びている。「お宮横丁」看板が立つ一角に何やら人だかり、覗いてみる。

うわっ、やきそばの屋台がズラリ、そして行列もズラリ! 「53番のかたぁ」と売り子お母さんが声を張り、プラスチック皿に盛られたやきそばを大人たちがイソイソと受け取り、ズルズル食べている。やきそばにたっぷりかかっている茶色い粉は、イワシの削り粉だろうか。とにかく大量の大人たちが、そっちでもあっちでもやきそばをズルズル。

――これは「ご当地グルメ」なのか? 作られたセットのような場所で12ヶ条をきっちり守ったやきそばが売られ、車で乗りつけたB-1観光客がひたすらズルズル、神社は参拝しても街を歩かず去っていく。そしてここには人がいっぱいるけど、アーケード街自体はシャッターを閉じた店が多く、人通りも少ない。

横丁の一角に「富士宮やきそば学会」の看板が。「1998~」の文字も見える。

――その少し前まで、富士宮には「あの」カルト宗教が総本部を構えていた。撤退後にグルメ街おこしが功を奏し、富士宮はめでたく「やきそばの街」に生まれ変わった。今さら富士宮と聞いて、その宗教を思い出す人も少ないだろう。

忌まわしいイメージの払しょくに、やきそばが一役買ったことを思えば、B-1横丁の風景もまた良しということか。一方で昔も今も信仰の拠点である富士山は、時にはカルトさえ招いてしまうのかもしれない。

ここで大型観光バスが5台(!)ドーンドーンとやってきて、数百人の中国人が降り立つ。鳥居周辺は騒乱に包まれ、富士山信仰の風情に浸る間もない。彼らが境内になだれ込む前に早足で本殿に向かい、そそくさと参拝を済ませると、神社をあとにした。

イオンのふもとで富士山駅について聞いた

富士宮の紅ショウガといえば「ミカチャン」/筆者撮影
富士宮の紅ショウガといえば「ミカチャン」/筆者撮影

夕方までイオンのイートインスペースで、アイスコーヒー片手にひと休み。大きな大きなイオン。商店街の閑散ぶりが嘘のように、買い物客が続々と詰めかける。

その様子は都心の巨大スーパーの風景と何ら変わりはなく、そこに富士山があることを忘れそうだ。このまま日本中すべてが、こんな街になってしまうのだろうか。

それでも汗を拭きつつコーヒーをお代わりすると、売り子のお姉さんが「外はまだ暑いですか?」「お仕事ですか? お疲れ様です」といろいろ声をかけてくれて、やはり感じは良い。人の印象が素朴なだけに、あまり街を作りすぎないでほしいとも思った。

夕暮れ。再び神社に行くと、中国人を含め参拝者の姿は少なく、焼きそば横丁も店じまいの気配。そして近くにポツンと灯る、古い食堂の明かり。

ん? 明かりは灯っているのに、店先に「準備中」の札が。しばし様子を窺っていると、背後から地元らしい婦人がふたり現れ「こんばんはー」と引き戸をガラリ。開いている?

「フダが閉まってるわよー」

婦人のひとりが声を張り、僕のほうを向いて「迷っちゃうわよねー」と言い、軽く笑った。やはり気さく。

靴を脱いで上がり、小さなカウンター席へ。厨房には妙齢のお母さんとご主人。ご主人は忙しいのか仏頂面?で料理に追われている。僕の隣にはスーツ姿の若いお兄さんが来て、やきそばとライスを注文(野菜が足りないぞ野菜が)、スマホをテーブルに置き左手でレロレロ、右手の箸で焼きそばズルル。

店内が少し暑くて、持参のウチワ(夏は必ず持ち歩く)でパタパタあおいでいると……背後から爽やかな風が。忙しい合間にお母さんが、僕の真後ろに扇風機をセッティングしてくれたのだ。そして「(暑くて)ゴメンなさいね」と言い、ニッコリ。僕はビールと焼き鳥と、メニューに「おすすめ」の文字が踊る豚キムチ鍋も玉子入りで注文。

このお母さんでいいか。山梨の富士山駅、どう思うか聞いてみよう。「ヒドいわよねえ」「富士山の半分は静岡なのに」そんな答えを予想しつつ聞いてみる。

山梨の富士山駅、どう思いますか?

「……え?」

戸惑いを隠せないお母さん、そしてひと呼吸置いたあと、意外なお答えが。

「……富士山駅、っていう駅があるんですか?」だってアハハハ!

「別にいいんじゃないかしらね」「ホラ普段は電車って乗らないし」「富士急行? 乗らないわね」あれまあ。このお母さんひとりの答えだけでどうこう言えないが、全体的に街の雰囲気もポワーンとしているし、予測したほど静岡県民は富士山駅に怒っていないのかもしれない。

「はいキムチ鍋お待ちどうさま!」

とご主人、少し笑顔。玉子入りキムチ鍋は肉たっぷりで絶品だった。富士山は山梨でも静岡でもあり、そして日本の宝、日本人みんなのもの。富士宮市民の寛大さに甘えず「富士吉田駅に戻したほうがいいのでは?」と、とりあえず思った(個人の感想です)。