「富士山駅前」をブラリ歩いてみた

信仰の道「富士みち」に金鳥居(かなどりい)が立つ/筆者撮影

「富士山駅」ってあるの知ってた? 俺は知らなかった。旅の仕事をしているのに。

なんでも5年前の2011年に、富士急行の富士吉田駅が「富士山駅」に改名したそうだ。というか「富士山駅」を名乗るなら、富士山に相当近い? 改札を出たら5合目、は無理だとしても、せめて駅を出たらすぐ登山口の入口とか。

改名から5年、その名は地元になじんでいるのか「富士山駅」。そして地元・富士吉田市民は、駅名から「吉田」が消えたことをどう思っている? とりあえず登山シーズン真っ只中の8月某日、富士山駅前をブラリ歩いてみることにした。

富士山駅。ビルの1階に赤い鳥居/筆者撮影
富士山駅。ビルの1階に赤い鳥居/筆者撮影

ジストレイン ストップスアット マウントフジ

♪8時ちょうどのぉ~じゃなくて8時半新宿発の「あずさ7号」は超満員。指定席は売り切れて、自由席も通路まで立ち客で埋まっている。首尾よく自由席の窓側1席を確保すると、隣に中国人の母と幼い娘。やはりここにも中国人!? とか最初は思ったが母娘はマナー良く静か。中国人観光客も団体だと、気絶寸前のうるささに閉口するが、個人で列車も調べて移動する人は、おおむねそんなにうるさくない。

そして中国人以外に、金髪青い目の欧米系外国人も多い。この人たちまさか、みんな大月で富士急行に乗り換えたりして。

まさか。ほとんどの外国人が大月で降り、富士急乗り換え口へ! みんな富士山狙い?

富士急ホームに着くと、白いボディにいろんな富士山の絵が描かれた(擬人化して顔がある!)「フジサン特急」が待っていた。さっそく車内へ――乗り込みたいが、車両と並んで中国ギャルが、ポーズをバッチリ決めて記念撮影。それもざっと10人以上が交替で。通路がふさがれ先に進めん早くしてくれ。

やっと乗り、しずしずと動き出す。「特急」の割には速度が遅い。クネクネと曲がる線路をキーッときしませながら、列車は勾配を少しずつ上っていく。ここでアナウンス。

「停車駅は都留文科大学前、富士山、富士急ハイランド、河口湖です」とまず日本語。続いて英語も。

「ジス トレイン ストップス アット ツルブンカダイガクマエ マウントフジ フジキュウハイランド カワグチコ」

って富士山駅だけ「マウントフジ」なわけね。だったら「ツル カルチャー ユニヴァーシティ」「レイク カワグチ」にするのが筋だと思うが。

都留文科大学前を過ぎると、車窓の両側に緑が茂り出す。そして寿駅を過ぎて葭池温泉前駅へ……そろそろこの辺で左手に富士山が見えるはずだが、雲が出てきて空はドンヨリ。というか富士山駅から富士山が見えなかったらサギだ。

しかし結局富士山はイマイチ見えないまま列車は下吉田、月江寺と進み富士山駅へ。降りる。駅名標の英語表記も誇らしげに「Mt.Fuji」。

改札を抜けると目の前に富士山、じゃなくて何だこれ、ビル?

富士みち。右手に立つ2本の石柱は「御師」の家の入口/筆者撮影
富士みち。右手に立つ2本の石柱は「御師」の家の入口/筆者撮影

「富士みち」を車がビュンビュン

なんと富士山駅は6階建てのビル「キュースタ」。地下はフードコートで「吉田うどん」の看板も見えるが……目に飛び込む「DAISO」「モスバーガー」「魚民」3連発! 富士山感が全くない。まるで西東京の準急停車私鉄駅ビルのようだ。

外に出て振り向き駅舎、というか「キュースタ」を見上げる。デカい、そして壁面は鏡張り。駅入り口に一応赤い鳥居は立ち、富士信仰の神社を模したつもりだろうが、鳥居の真横には魚民の看板。うーむ。

駅横に大通りが延び、緩やかな坂道にまたがって立つ大きな金鳥居(かなどりい)。道は「富士みち」で、坂を上った先に、北口本宮富士浅間神社がある。金鳥居は神聖な世界と俗世間の境界で、鳥居を境に富士山側が「上吉田」、坂を下ると「下吉田」。

というわけで僕も鳥居をくぐり、上吉田の坂道を上って神社へ――向かうわけだが鳥居の真ん前には「ラーメンガキ大将」、鳥居の下を轟音上げて爆走していくトラックまたトラック。信仰の道もずいぶんと俗っぽくなったものだ。

富士みちは歩道までスッキリ整備され「旧道」の雰囲気はない。それでも途中に「御師(おし)の家」が点在している。江戸時代に富士山に登って拝む「冨士講」が流行し、参拝する人々に信仰の指導や宿泊の世話をしたのが御師で、最盛期は86軒あったそうだ。2本の石柱に挟まれ、玄関まで延びる細長い通路が御師の家の特徴。「旧外川家住宅」など一般公開されている家もあり、通路の奥に立つ豪壮な木造家屋は、富士参拝が盛んだった江戸時代の空気を今に伝えているが……それにしても車が多い。富士みちの先は富士山しかないのに、そんなに急いでどこに向かうのか。

吉田うどん。太く固い麺とキャベツが特徴/筆者撮影
吉田うどん。太く固い麺とキャベツが特徴/筆者撮影

吉田うどんを食べる

腹が減った。せっかくなので名物の「吉田うどん」を食べよう。戦後の富士吉田は機織りが盛んで、仕事の合間に食べたという吉田うどん。寒冷なこの地では米が育たず、小麦をうどんにして食べた。女性は織り仕事が忙しいので、うどん作りは男の仕事。男の力で打つので、麺は太くてコシが強い。市内には60軒ほどうどん屋があり、中には看板のない民家のような店もあって、その家が団らんする部屋に上がり込んでうどんをすする。

などなど、しかしそこは麺類の掟で大量のマニアが発生し、吉田うどんも相当人気があるらしい。「自称麺通」に囲まれて食べるのは嫌だ。あまり風情のない、どうでもいい感じの店があるといいのだが。

これどうだろう。坂の頂点の手前に立つ真新しい1軒。英語メニュー付きだから外国人OK、自分のような新参者でも気を遣わずに済みそうだ。中へ。「富士登山うどん(大)」を注文し、ひと息つく。隣に工事現場から来たらしい、作業服姿のデカお兄さんが4人。

「アジフライ定食4つお待たせしましたー」

と運ばれてきた定食を見て、ゴツいお兄さんたちも目が点! デカすぎる! 洗面器みたいな皿に巨大アジフライと山盛りキャベツ、さらに別丼で巨大なうどん! そしてメニューをよく見ると、

「当店は富士登山のお客様が山頂まで登り切れるよう、量が多くなっています」先に言ってください! どーしよう(大)頼んじゃった。食べきれるかな。

来た。デカい! そしてうどんは麺が四角くて太くて固い! ゆでたキャベツやニンジンもたっぷり、肉と天ぷら乗せ! 吉田独特の辛味噌「すりだね」を混ぜつつズル、ズルズル。

ギブアップ寸前だが何とか食べきったゴチソー様。メシの量が多い街は良い。店を出て腹をさすりつつ、さらに富士みちを進む。

参道の突き当りに、北口本宮富士浅間神社が/筆者撮影
参道の突き当りに、北口本宮富士浅間神社が/筆者撮影

駅から登山口まで2.5km

T字路に突き当たり、左に曲がると道は国道。「リゾートエクスプレスバス山中湖行き」が爆走するのを横目に進むと、車の波の向こうに浅間神社の鳥居が。

武田信玄も戦勝祈願した、由緒正しい神社。8月末には登山シーズンも終わり、山じまいの行事「吉田の火祭り」が行われる。駅からここまで2.1km。そして神社の裏手にある登山道吉田口まで、鳥居から440m。ってことは。

駅から登山口まで2.5km、けっこう遠い。でも「富士山駅」うーむ。

背の高い木立に挟まれた参道を進み、神社へ。賽銭10円を投げ入れ(ケチ)二拝二拍手一拝、無病息災と交通安全をお願いする(10円で)。

そして本社の裏手に回ると、簡素な木の鳥居が。その下をくぐった先に登山道が延びている。ここから山頂まで17km……なのだがすぐ脇に車道も延び、車がビュンビュン走っていく。最近はけっこう上のほうまで車で行けてしまうのだ。

観光バスがドバーッと駆け抜けるのを横目に来た道を戻り、神社をあとにした。富士山駅まで戻って、フードコートで一服。地元のガキいや少年少女たちが、スマホ片手にギャーギャー騒いでいて「富士山駅」にいる感じは全くなかった。

月江寺駅前の、昭和の雰囲気漂う商店街/筆者撮影
月江寺駅前の、昭和の雰囲気漂う商店街/筆者撮影

「富士山駅? 吉田は吉田よ」

金鳥居を背にして、富士みちを俗世間「下吉田」のほうに下る。そして富士山駅となりの月江寺駅に近づくと、昭和の香り漂う寂れた商店街に迷い込んだ。

機織りが盛んだったころ、月江寺界隈は店がたくさん並び、それはにぎわったそうだ。しかし今はほとんどの店がシャッターを閉じている。

駅前にかろうじて赤ちょうちんを灯す店を見つけ、暖簾をくぐってみる。気さくなご主人と奥さんが出迎え。酒は「男山」そして、御前崎直送のカツオがあるというので刺身で出してもらう。

吉田駅はフジサン駅になりましたね? と聞くと「アレはないわよねー」(※個人の見解です)と奥さん。そして、

「富士山は山梨だけのものじゃないし。半分は静岡なのにねー」

とも言う。でも外国人には「マウントフジ」のほうがわかりやすい?

「どうかしらねー。吉田は吉田よ」

と奥さん。元々は富士山信仰が盛んになって生まれた吉田の街。でも「吉田」の火祭りそして「吉田」うどんなど「吉田」が育んだ文化は数多い。そして地元に根付く「上吉田」「下吉田」の地名。やはり駅名に「吉田」を残しておくほうが良かった気がする。

さてここから東京の我が家まで電車で3時間、あまりノンビリもしていられない。カツオを食べて男山を飲み干し、お愛想お願いしますー。

と思ったらご主人が小皿を手に出てきて、

「帰るの? 今サバを酢に漬けたけど?」

と引き留め。僕はいったん手にしたバッグを下ろすと再び席につく。目の前にはサバの酢〆、男山をもう一杯注いでもらった。

以上が山梨編。そして奥さんが言う通り、富士山の半分は静岡だ。

なので「富士山駅についてどう思うか」静岡でも聞いてみよう。ちなみに吉田の火祭りは8月26&27日だそう。って俺は別に富士吉田市観光協会の回し者ではない。(というわけで静岡編に続く)