首都圏なのに、列車を5時間以上待つ駅がある!(後編)

終点の上総亀山駅から徒歩10分ほどで亀山湖へ/筆者撮影

ツバメが巣を作る駅

千葉県内房の木更津を発着するJR久留里線。列車の大半は途中の久留里駅止まりで、その先の上総亀山行き列車は少ない。

13時50分、実に5時間36分ぶりの亀山行き列車が久留里駅に来た。2両編成、僕を含め1両目に6人、2両目に3人、乗客は計9人。お年寄りと学生ばかり、かと思ったら買い物袋を提げた普通の主婦も乗っている。いつもこの、5時間36分ぶりの列車で買い物を? そして9人のひとり、学生お兄さんはスヤスヤと居眠り。乗り過ごしたら折り返すのも大変だが、大丈夫だろうか?

「お待たせいたしました」ホントだよ5時間36分「発車いたします」とアナウンスが響き、ディーゼルエンジンをジジジと響かせ、列車は静かに動き出した。

左右の車窓に森があふれる中、時おりヒュイン! と警笛を鳴らし、列車は淡々と進んでいく。川を渡り、たまに民家やお墓も。タヌキが出そうな深い森――木更津駅の発車チャイム『しょうじょう寺の狸ばやし』をふと思い出す。

平山駅に着き、婦人がひとり降りる。駅前に田んぼが広がっている。

さて路線は平山駅、上総松丘駅と続くが、律儀に順番に降りると待ち時間が長いので、まず2駅先の松丘駅で降り、折り返し列車で平山駅に戻ることにした。なので平山では降りずにそのまま進む。車窓に田んぼが続く。

14時01分、上総松丘駅に着く。駅前は菜の花畑(この日は咲いていなかった)と、巨木の下にベンチがポツン。頭に毛虫が落ちてきそうなベンチだ。

駅の脇を久留里街道が通り食堂もある。だが行ってみようと思ったら、道はすぐそこに見えるのに、道に直結する通路がない。いったん駅前小集落の路地を迂回して、かなり遠回りしないと街道に出られないのだ。

集落の路地には、文字が消えたそろいの看板付き街灯が連なり、かつては商店街があった様子。理髪店が1軒だけ開いていて、店先で紅白棒がクルクルと回っている。

迂回路から踏切を渡り、やっと街道に出るとバス停が。なんとここからも東京行きの高速バスに乗れるのだ。では誰が日中5時間半待って、不便な松丘駅を使うのだろうか。

14時半、折り返し列車が松丘駅に来る。僕を含めて4人乗る。僕以外の3人は、いったい何の事情があってこの不便な列車に……とか思っていたら14時35分平山駅着。次の亀山行きは16時42分発、待ち時間は2時間07分、とりあえずブラブラする。

駅前に居酒屋? と思ったらガラス戸の貼り紙に「売り切れ次第終了ヨロシク」の文字。あとで調べたら、行列ができる人気の焼きそば屋だそうだが、昼飯どきにこの駅に着く列車はない。久留里発13時50分の列車でノコノコ出かけても、たぶん売り切れているだろう。駅前なのに、列車で行くと食いっぱぐれそうな店。不条理だ。

目の前をやはり久留里街道が通り、道沿いに住宅もけっこうある。なら列車をもっと停めればいいのに、と思ったらここにも東京行き高速バスのバス停が。

国道を30分歩いて、結局これといって発見もなく、残りの1時間37分を駅ホームのベンチに座ってボーッと過ごす。ホーム目の前の田んぼをカラスが舞う。

「こんにちはー」「あ、はい」

列車が全くこないホームを、ジャージ姿の婦人が通っていく。駅はウォーキングコースの一部と化しているようだ。線路脇に小さなキャベツ畑があり、軽トラックでオジさんが乗りつけ収穫。草むらに手を突っ込むたび、小さな白い蝶が舞う。そしてまたカラス。人よりカラスが多い駅前。

ウダウダしていたら1時間経った。けっこうあっという間、そしてあと37分。

不思議だ。都心にいると5分の列車待ち時間が待てないのに。ここで景色の彼方から、高速で黒い何かが飛来、ツバメだ。口に小枝をくわえ、駅舎の庇(ひさし)の下に飛び込んでいく。

――ツバメが巣を作っている。彼(彼女?)は作りかけの巣の一角に小枝を器用に差し込むと、再び景色の彼方に飛んでいった。と思ったら入れ違いに別のツバメが来て、また小枝を差し込む。

巣作りを見ていたら音もなく、亀山行きの列車が来た。16時42分。

乗客は15人くらい? 学生とお年寄りを中心に、けっこう乗っている。

松丘駅で5人降り、森の中をかき分けるように列車は進み16時54分、上総亀山駅に着いた。のはいいがもう夕方。亀山湖に亀山ダム、そして温泉ホテルと名所は多いが、今から周るには時間が遅い。

なので翌日出直すことにした。たった3駅を、1日で周りきらないとは。5時間36分の間にもう1本、列車があるといいのだが。

昭和の風情漂う観光地・亀山

というわけで翌日、再び久留里駅発13時50分の列車に乗り、14時08分に亀山駅に着いた。

ロータリーがあるわけでもなく、終着駅の駅前にしてはそっけない。タクシー乗り場はあるが、タクシーはいない。商店や観光案内所がポツポツとあるが、どれも看板がすすけ閉まっている様子。ここも商店街の街灯は残り、以前はそれなりににぎわっていたようだ。

住宅街の路地を進む。シンと静まり返り、時おり鳥の声だけが聞こえる。家は多いが、人の気配を感じない、空き家らしき家もチラホラ。草が茂り、草の匂いが鼻先をくすぐる。

踏切を渡り路線の南へ。大通りを渡った先に観光案内が現れ「ボート」「釣り」「お土産・お食事」の文字も。

赤い橋が架かる川、じゃなくて湖。緑茂る山々に囲まれる亀山湖と、その一角に立派な亀山ダムも。ダムに沿って架かる橋を渡った先には温泉ホテルと、大きな釣り堀もある。

「湖畔のリゾートホテル」「お泊り、ご入浴」「プール、テニス、サイクリング」

昭和の香り漂うすすけた看板群に混ざって「チョコレート色天然美肌の湯」ノボリだけが妙に新しい。そして次の木更津行き列車は2時間後、風呂入っていくか。

ホテルの日帰り温泉はお年寄りばかり、かと思ったらオジさんグループや若いお兄さんもいて、なかなかのにぎわい。ぬるぬるスベスベのチョコ色の湯は、土中深く堆積した植物がプランクトンにより分解されてできた「腐植質」を含んでいるそうだ。

風呂上がりに、腰に手を当てフルーツ牛乳一気飲み! 景色もいいし、都心から日帰りで来れば程よい旅気分も味わえる。なんで久留里から先はこんなにも、列車の本数が少ないのか。

「どこで飲むー? 木更津に戻るかー?」

ロビーにオジさん軍団がドヤドヤ戻ってきて、今夜の飲みの相談。温泉ホテルは入浴だけで、泊まりはしない様子だ。

昔の亀山は、東京から泊まりがけで来る立派な「旅行先」だったのだろう。だがアクアラインが通り、多くの人がローカル線よりも車を使うようになり、亀山は日帰り観光地になってしまったようだ。本数の少ないローカル線をわざわざ待って、素朴な車窓を眺めつつ……そんな旅情を楽しむ人は減ってしまったのかもしれない。

久留里駅前で一杯飲む

2014年3月、千葉県内のJRダイヤ改正が行われた。成田空港行き列車が増発される一方で、久留里線は「ご利用状況に合わせて」一部列車が運行見直し。久留里―亀山間の日中の3往復が運転取りやめとなり、結果5時間以上もの空白ができてしまった。

ご利用状況から――単純にデータに基づいてダイヤを改正したら、現況のようになったということか。だが結果として、5時間半も来ない列車を利用する人はさらに減っていくだろう。そうしたらさらに列車本数も減って……全国のローカル線が、そんな負のスパイラルに陥っている。

亀山17時15分発の列車に乗ると、木更津まで行かず久留里止まり。そのまま帰るのもツマらんと思い、駅前で居酒屋を探すと1軒見つけた。1階は居酒屋、2階は雀荘。

カウンター席に先客のオジさんがひとり。東京に事務所を構える社長だと言う。

「アクアライン使えば便利だよ。昼は都会、夜は田舎でこうして休んで」「でもこの辺も人は減ったなー。昔は商店街も、祭りの日は前に進めないくらい人がいたけど」

久留里線で来たと言うと「本当に?」と社長は驚いた。そして戻りの久留里線の時刻を気にしていると「バスのほうが近くてええんじゃない?」と、笑って言う。確かにそのほうが乗り換えもなく便利かもしれないが――やっぱり列車で帰ろう。

21時半過ぎ、ほろ酔い気分で久留里駅ホームで列車を待つ。やがてミシミシときしんだ音を響かせて、闇の向こうから木更津行き最終列車がやって来た。

緑に包まれる上総松丘駅/筆者撮影
緑に包まれる上総松丘駅/筆者撮影
こぢんまりとした平山駅/筆者撮影
こぢんまりとした平山駅/筆者撮影
平山駅前のバス停。東京行き高速バスも発着する/筆者撮影
平山駅前のバス停。東京行き高速バスも発着する/筆者撮影
終点、上総亀山駅前で、いつの間にか変な写真が撮れていたんだニャー/筆者撮影
終点、上総亀山駅前で、いつの間にか変な写真が撮れていたんだニャー/筆者撮影
突然途切れる久留里線の線路。あまりの素気なさにしばし呆然/筆者撮影
突然途切れる久留里線の線路。あまりの素気なさにしばし呆然/筆者撮影