首都圏なのに、列車を5時間以上待つ駅がある!(前編)

JR久留里線の終点、上総亀山駅近くの踏切を列車が通過する/筆者撮影

まさかの満席で座れず!

「まもなく木更津~木更津ですー。久留里線はお乗り換えです。ナントカカントカクルリラーイン!」

そんなにネイティブな英語で言わなくっても(しかも聞き取れないし)。というわけで千葉県は内房の木更津に着いた。今やアクアラインの出入口だから、車で行けば早いのだろうが、あいにく僕は車を運転しないので電車で行った。東京湾沿いにグルリと迂回、都心からだとさすがに遠い。

そして降りたホームの反対側に1両列車がチンマリと停まっている。あれが久留里線か。乗る。

「それでさーナントカさんがあ、そしたらさあ!」

平日午前のローカル線、車内はてっきりガラガラかと思ったら、まさかの高齢者軍団! 空席にも荷物をまんべんなく置いて、俺が座れる席はない。詰めろってーの。とここでアナウンス。

「久留里線はパスモ、スイカ、IC乗車券が使えません。ご利用のかたはお近くの駅係員まで」へっ、そーなの? いったん降りて、ホームをウロウロしている駅員お兄さんを捕まえる。すると、

「階段を上っていったん改札を出て精算してください」って早く言えよ! 発車まであと5分、そして次の列車は約2時間後! 階段を駆け上り改札抜けて、切符を買ってまた改札通って階段降りて、車内に戻ると発車まであと2分。間に合った、ふうっ。そして軽く息を切らす僕が座れる席はない(荷物どけろ)。

♪しょ、しょ、しょじょじ、しょじょじの庭は~♪

予想外の『しょうじょう寺の狸ばやし』のメロディで発車チャイムが響く中、久留里線の1両列車はディーゼルエンジンをジジジと響かせ(「電車」じゃないのだ)しずしずと動き出した。

途中までは1~2時間に1本出るが

しかしまさか座れないとは。けっこう乗っているんだね久留里線。そして壁に貼られた路線図は、簡単な沿線案内観光付き。なんとなく見ていると、

「この列車はここまでしか行かないからよー」

と軍団の中のオジさんが、路線図の「久留里駅」を指さして言う。久留里線だけに久留里駅が終点、ではなくその先に平山駅、上総松丘駅と続き、終点は上総亀山駅。だがいま僕が乗っている列車は久留里行き、久留里止まり。その先の3駅には行かない。

列車は単線を進み、木更津市街を抜けると線路の両側は沼地になった。ときどき住宅、そして水田。その向こうにイオンも見える。

続く祗園駅に着くと「スイカなどでご乗車のお客様は、到着後乗務員にお申し出ください」なんだそれでいいの? 階段走って損した。木造の小屋みたいな祗園駅を出て、列車は進んでいく。

次の上総清川を過ぎると、整った住宅地は途切れた。竹林、水田、ビニールハウス。東清川駅、ホームに雑草。ひとり降りる。

畑に挟まれてまっすぐ延びる単線。続く横田駅はけっこう立派な対面ホームで、ここで木更津行き列車と交換。車窓の田園が広くなり、枕木も草に埋もれるなか東横田駅へ。次の馬来田駅周辺は住宅地で、一気に7人降りる。

下郡駅はイナバの物置みたいな駅舎、水田の向こうに緑の山が見える。小櫃駅前は少し街で、「大売出し」ノボリが立つ酒屋も。続く俵田駅はホームが民家と地続きで、花壇も見える。

「次は終点の久留里ですー」

というわけで降りる。時刻は10時03分、そしてその先の上総亀山行きは……13時50分、3時間47分後!

そう、久留里線は、木更津―久留里間は1~2時間に1本のペースで運行するのだが、その先の久留里―上総亀山間はガクンと本数が少なくなる。久留里発の亀山行きは朝の8時14分発のあと、13時50分発までない。列車が5時間36分も出ないのである!

お城と水の街ぶらり旅

首から大ガマ口を下げた駅員氏に切符を渡し、駅の外へ。とりあえず亀山行きが出るまでの3時間47分、昼飯をどこかで食べつつ久留里をブラブラしよう(せざるをえない)。

駅前はけっこう広いロータリーで、タクシーが1台ポツン。……何だこれ小さな武家屋敷? と思ったら公衆トイレ。そして小さな寿司屋と意外にもタイ料理屋、タバコやパンが並ぶ売店の先を道が横切り、車が途切れずに走っていく。

わお、城だ!

道は久留里街道で、道をまたいで立つゲート看板の上にお城がデーン! 街道は商店街でもあるのだ。

蔵造りの魚屋、カメラ屋、パン屋。これまた年季の入った金物屋に「1882年築」の立て看板、由緒正しそうな酒造所に、格子戸が味わい深い米屋も。骨董品のようなカキ氷器が並ぶカキ氷屋もあり、器械のひとつに「ツェッペリン号」の名前が。なんだかすごい。そして道の途中に「←久留里城址徒歩30分」の案内板。久留里は城下町なのだ。

だけどノンビリそぞろ歩くには歩道が狭く、そして車が多い! おそらく多くの人が、1時間に1本の久留里線など待たず、車でアクアライン経由で東京へ一直線。これじゃ亀山へ5時間半ぶりの列車で行く人は少ないだろう。

「水汲みのお客様へ。駐車場は~」へっ? 突如現れる「水汲み」看板。そして道路脇から木の筒が延び、その下の樽めがけて水がドドドと流れている。道端の自販機に「お城と水のまち久留里」の文字も。城下町、久留里は銘水の里でもあるようだ。

せっかくなので銘水を一杯、と思ったら先客が。若いカップルがデカいポリタンクにドドドと水を汲んでいる。満タンになったと思ったら、2つめのタンクにドドド。「すみません」とふたりそろって、バツが悪そうに僕に言う。

彼らは結局5つものタンクに水を満タンに汲んで車のトランクに乗せると、バビューンと走り去った。すごいね最近の若い人。そして車。

街道を進むと商店街は途切れた。途中の道ばたに、無人無料の水汲み場がポツン。短いトンネルを抜け「林道城山線」の坂道を上ると「探鳥路」の看板が立ち、続いて「雨城(うじょう)」そして久留里城の案内板。城は16世紀中ごろに築城され、里見氏(南総里見八犬伝の人)の本拠地だった。築城後、3日に1度の割合で雨が降ったので「雨城」と呼ばれた、などなど。

こぢんまりとした天守閣に着く。靴を脱いで中に入り、床を掃くお母さんに挨拶して階段を上り、城のてっぺんへ。四方に張り巡らされた回廊から、久留里市街を眺める。

一面の森と山、小さな市街は飲み込まれそう。5時間半も列車が出ないことに驚いたけど、この秘境によくも鉄道を敷いたものだ。

リンゴンガンゴーン、11時半に早くも昼のチャイムが響く。列車を降りて1時間半が経った。そして腹が減った。

銘水の里でそばとカキ氷

市街に戻ると目の前を大型バスが横切る。観光バス? ではなくて千葉行きの定期高速バス「カピーナ号」、続いて東京行きの「アクシー号」も来る。カピーナ号は1日9本、アクシー号はなんと1日約20本! これで乗り換えナシで東京に行けるなら、ますます久留里線は使わないよなー。

水の里だけに、そば屋が多い。食堂風の1軒に入ってみる。メニューに「カツライス」や「チャシュメン」(と書いてあった)もある気取りのない雰囲気で、妙齢の優しそうなお母さんが迎えてくれた。先客もご婦人がふたり、ひとりはモンペ姿。僕はけっこう歩いたので汗が出て、持参のウチワで(春~秋は必需品)でパタパタあおいでいると、

「若い人は暑いわよねー」

と声をかけてくれる。大して若くありません、と恐縮しつつ注文した天ザルをズズイ。ご婦人たちは「どうぞー」と僕にロータスクッキーを1枚くれると、先に店を出た。

僕も食べ終わって外へ。城址も行ったし商店街も歩いたが、列車が出るまでまだ1時間20分ある。さて、どうしようか。

カキ氷屋が開いている。迷わずGO。同世代くらい?のオジさんが、ツルのマークが入ったこれまた凄い器械で氷をかいてくれる。シロップはマンゴー、ピーチ、ブルーハワイといろいろあるが、無難にイチゴで。

聞いてみる。

「久留里線はここから亀山まで、ずいぶん少ないですね」

「そうですね。朝出ると昼過ぎまで出ませんね。でもバスが出るから」

特に不便は感じていない様子だ。不便じゃなければ別にいいのだが、なんだか忘れられた雰囲気の久留里線が不憫な気も。

ウダウダ過ごして駅に戻ると、ようやく5時間36分ぶりの上総亀山行き列車が、2両編成でやってきた(続く)。

JR久留里線の久留里駅/筆者撮影
JR久留里線の久留里駅/筆者撮影
お城がお出迎え! 久留里街道&商店街/筆者撮影
お城がお出迎え! 久留里街道&商店街/筆者撮影
道端で銘水がドドドと流れる/筆者撮影
道端で銘水がドドドと流れる/筆者撮影
久留里城址/筆者撮影
久留里城址/筆者撮影
銘水で仕込んだそばを食べる/筆者撮影
銘水で仕込んだそばを食べる/筆者撮影